インタビュー

Interview

田中 堅一郎教授 人間科学専攻 心理学コース

担当科目の概要についてお教えください。

修士課程で「産業・組織心理学特論」と「心理学特講」「調査分析特論」を担当します。博士課程では「産業心理学特殊研究」が担当科目です。

まず,産業・組織心理学ですが,心理学と名の付く科目は多々ありますが,それらを基礎と応用に分けるなら,これは応用の領域に分類されるもので,その領域の中でも最も代表的な科目だといってよいかもしれません。

この産業・組織心理学は,4つの主要なテーマに分けて捉えることが出来ます。そのまずひとつは,最近は社会的問題にもなっています,成果主義や業績主義といった人事評価の問題です。そこで,多くの従業員に納得してもらえるようなより良い評価方法を考えて,実際に検証していくわけです。企業の採用試験でよく使われるSPIとか,一時期流行っていた「コンピテンシー」も,ここに関連があります。

続いて2つ目は,職場の労働条件に関する心理学的問題です。職場におけるストレスやその作業環境,そこから発生する問題を研究していくことも,産業心理学が扱う領域になります。

また3つ目には,組織の機能に関する問題があります。従業員が生き生きと働ける生産性の高い環境を作るにはどうしたら良いのか,またそのためにはどうリーダーシップを発揮していけば良いのかなど,いわば組織を心理学的アプローチで分析する行為になりますね。経営学でもよくこの問題を扱いますけども,それとは視点が違います。

そして最後に,販売活動や消費者心理についての問題が挙げられます。どうすれば相手に関心を持って頂けるか,こちらの考えを伝えられるか,それを受け入れて貰えるか,そして買って頂けるかという,実際の販売や営業の場面における心理学的問題ですね。またこれは同時に,心理学の基礎的な部分を扱った問題でもあります。

私は2003年度からここで産業・組織心理学に関する授業を受け持つことになったわけですが,修士課程の皆さんには,前期で産業・組織心理学の概要を理解していただいて,後期には前期とは毛色の異なる内容のテキストを読んで勉強していただこうと思っています。

博士課程では,研究課題に合わせて柔軟に進めていきたいと考えております。博士課程では,最新の研究事情がどうなっているかについて勉強することが大切だと思います。最先端の研究は,どうしてもアメリカから出ることが多いので,やはり英語の専門誌を読むことになりますね。博士論文を書きながらで大変だと思いますけれども,やっておいた方が絶対いいですね。例えば,自分のオリジナルアイデアだと思っていたら,実はもうオーストリアで2年前に論文になっていた(笑),なんてことは私にも経験がありますからね。

もう一つの「調査分析特講」についてお話ししましょう。この科目の目的は,皆さんが研究で集めてきたデータをどのように分析するかについて勉強することです。私の専門は心理学ですけれども,心理学の研究というと,文献や資料をたくさん調べてまとめて研究しているのだろうと思われがちなのですが,そうではありません。「心理学特講」や「心理学史」という科目を勉強されればすぐにわかることですが,19世紀の終わりに科学的な心理学が誕生した頃にはすでに基礎実験が研究方法の基本だったのです。ようするに,心理学では実験や調査を実施して,データをとって分析して,その結果から新しい事実を発見する,というのが研究方法なのですね。だから,どうしてもデータの分析をどうするかも勉強しなければならない,というわけなんです。話が心理学に偏りましたが,この科目は心理学部門の皆さんだけではなく,実験や調査を行うつもりか,あるいはそうなりそうな方ならばすべてに対応できるようにと考えています。

これまでに担当した学生の研究テーマについてお聞かせください。

私がこちらの大学院に赴任してからは,研究指導を担当する大学院生の皆さんの関心が職場や組織のあり方に向いているので,今のところ修士論文での研究課題もそれに関する内容になっています。2014年度に指導した修士論文のテーマでは,『メンタルヘルス不調の一次予防と職場のつながり』,『看護師の職務満足に影響を及ぼす組織コミットメント因子』などがあります。

それから,2005年度からは毎年研究生として研究を継続される人が出ています。研究生や博士後期課程のメンバーが積極的に学会誌に投稿したり,自ら専門書を執筆されるようになったことも嬉しいことです。今後も修了生が学会や学会誌への発表を続けてくれると嬉しいですね。

先生の経歴,研究テーマについてお聞かせ下さい。

学部の卒業論文では,「集団発達」について研究しました。あるサークルにまったく見ず知らずの1年生が入り,その知らない人同士が仲良くなっていくプロセスを追跡調査してみたんです。

そして修士論文ではちょっと趣を変えまして,「報酬分配場面における公正さと好ましさ」という研究を行いました。平たく言ってしまえば,金銭をいかに分配すれば不公平感がなく,またそれぞれに適切な金額を配当することが出来るかという問題ですね。やはりこうした場面には,色々と複雑な感情が出てきますから,それを心理学的に考察してみようと考えたわけです。

続く博士課程でも,引き続き金銭やそれにまつわるものの分配や支給方法,身分の処遇,待遇についての研究を行いました。論文のテーマも「報酬分配に関する社会心理学的研究」という,修士論文を敷衍したものになりました。

博士課程を何とか修了した後は,無事に講師として弘前の東北女子短期大学へ行くことが出来ました。そこで2年過ごしたのち,今度は浜松の常葉(とこは)学園浜松大学(現常葉学園大学)で5年間,その次に赴任した広島県立大学(現県立広島大学)経営学部で4年間,そして2003年度から,こちらの大学院で教えることになりました。

また今後の研究につきましては,基本的にこれまでと同様の枠組みで続けていこうと考えています。現在は特にその中でも職場や組織について興味がありますので,不公平を感じた従業員の行動などについても,今後より研究を深めていきたいですね。

ところで,私はこのように企業経営に関わる分野をその専門としておりますが,特に経営学の専門知識があるわけではありません。しかし浜松の大学では国際経済学部,広島では経営学部でしたので,周囲は経済や経営の専門家ばかりという環境に長くおりました。そのおかげもありまして,耳学問ではありますけども,そうした側面から見た組織や職場,また景気・不景気の問題などを,少なからず自分の研究に反映出来ているのではないかと思います。

インターネットを使った通信教育についていかがお考えですか?

やはり日頃の論文指導のやり取りは電子メールを使って行っています。研究を進めていく上 で,困ったことが出てきた時や,切羽詰まったり考えが煮詰まったときには,メールならすぐに相談できますから便利ですよね。ただ,それを受け取る側の私にとっては,結構返事を出すのに意外と時間がかかって大変だったりするのですが。

ただ,メールのやり取りとコンピュータによりサイバーゼミナールだけでは研究指導にも限界があると,就任したときから私は思っていました。そこで,私の指導を受ける大学院生の皆さんとは,「定例会」と称して1,2ヶ月に一度できるだけ全員が一堂に会する機会を設けています。夏にはほぼ全員参加で2泊3日の合宿もやりますし,2014年には金沢で,2015年には神戸で「地方定例会」もやりました。皆さん時間を工面して集まるのは大変なんですが,それでも『遠くまで行くのは勘弁してほしい』みたいな意見は今のところ出てないようですね。

趣味,休日の過ごし方は?

中学3年生の終わりぐらいから3年ほど前まで,ずっとトランペットをやっていました。大学ではオーケストラで,大学を出ても市民オーケストラで,また個人的にも演奏していたんですが,最近はどうもまとまった時間が取れなくて,十分練習できないでいます。

ですから最近は,聴くほうが多いですね。ジャンルとしてはそうしたトランペットを使った音楽,クラシックが多いんですが,特に好きな作曲家がいるというわけではありません。

また聴く曲は,バッハよりも前の時代の,モンテベルディといった17世紀頃のものが多いですね。あと,フランスの宮廷音楽家だったジャン=フィリップ=ラモーなど,あまり普通の人が聴かないような宮廷音楽をよく聴きます。

志望者に向けて,一言お願いします

心理学の研究対象はとても広いものです。野球で例えるなら,外野手のように,広い範囲の至る所にボールが飛んでくるんです。そしてそれを取り損なうと,致命的な結果になりかねない場合だってあります。

この心理学という分野は,やはり野球に例えますと,基礎が出来ていないと難しいんですよね。「投げる,走る,守る」の基礎練習をしていない人がいきなり試合に出て,しかも「監督,打たせてください!」と無茶なことを言っているのと同じなんです。これでは三振して帰ってくるのが関の山ですよ。

ですから私は,皆さんに基礎的なトレーニングを忘れないで頂きたいと思います。心理学の基礎的トレーニングとは,つまり自分の研究と関連する心理学の専門用語を理解する,心理学の専門誌を読んで理解する,研究法を理解して実際に簡単な実験・調査をやってみる,データをとったら分析方法について勉強する,といったことにあたります。若い人たちならば,ちょっと説明すれば理屈抜きで基礎練習をやってくれるようなところがありますが,しかし社会人の学生さんの場合,意外とそうでもないんですよね。いきなりバッターボックスに立ちたがる人が多いんですよ。

社会人の皆さんは概してモチベーションがとても高いので,バッターボックスに立ちたがるのもその裏返しかもしれません。修士課程を志願される皆さんは,それぞれ自分なりの問題意識があり,それに対する思い入れも強いのだと思います。だからこそ,その問題について研究したいと考えるようになるわけで。その気持ちは,大切にして欲しいとも思います。ただ,それを具体的に科学論文という形にするとなると,「やる気」だけでは通じない話になってくるんですよ。修士課程2年という短い期間で大変でしょうけども,まず最初に論文作成のための基礎的な技術を習得して頂きたいですね。また逆にそれを習得しないと,良い論文は書けないだろうと思いますから。

それから博士課程を志願する方に,一つお願いがあります。それは,自分の研究成果を積極的に学術雑誌へ投稿してほしいことです。心理学関連の専門誌へ論文を投稿すると,その内容を詳細に審査されます。場合によっては,かなり厳しいコメントが返ってきたりしますので,今度はそれに対してどう回答し対応するかを考えますから,論文の課題についてあらためて勉強する必要を感じたりします。私としては博士論文着手までに少なくとも3編の論文を作成して投稿して欲しいなと思っています。そうすれば,まず論文の内容も充実してきますし,博士論文の審査もパスしやすくなりますから。これは大変な課題かもしれませんが,目標は高く持ってもらいたいですしね。

先生にとっての学問とは?

難しい質問ですね。知的好奇心を満たすためだとか様々な言い方があるとは思いますが,私にとっては仕事そのものでしょうか。自分にとって学問は,少なくとも趣味や道楽ではありません。若い頃はそんなときもあったかもしれませんが,好きだとか関心があるだけでやれるものでは,既になくなっています。

どうしてかというと,いくら研究者だといっても社会の動向やニーズを無視しては成り立ちません。どうしても世の中の動向,趨勢,社会的な要求をある程度は意識してやっていく必要があります。つまりそうなると,それは仕事になってしまうんですよね。

逆に言えば,自分の知的好奇心や趣味指向だけで済まなくなった学問は本物だとも思います。たとえそれが本業でもサイドワークでも,その人の仕事になりうるほどの学問を持つということは,人間にとって大切な目標のひとつなのかもしれません。

ゼミ生の研究テーマ

  • ・倫理的リーダーシップの心理学的研究 -倫理的リーダーシップ尺度日本語版(ELS-J)の開発と要因の検討-
  • ・清掃活動への取り組みが企業業績に与える効果 -組織市民行動と職務満足感を介しての検証-
  • ・現代の母親におけるデジタル娯楽機器を有効利用した子育てを規定する要因
  • ・若手の防災推進者における“ハピネス”の心理構造分析 -修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチに依拠した混合研究法-
  • ・職場いじめと対人的傾向に関する研究
  • ・壮年期既婚女性の「無職」状態でのストレス -兼業有職女性、無職女性と未婚女性に関する心理学研究-
  • ・医療・介護機関におけるリーダーの自信に関する一考察
  • ・「心のフィットネス感覚セミナー」が主観的健康感に及ぼす心理学的効果測定
  • ・長期入院統合失調症患者の社会復帰意欲への傾聴カウンセリングによる効果
  • ・キャリア開発研修のおよぼす組織内キャリア発達における心理的影響について -キャリア成熟尺度を中心としたアンケート調査結果の考察-
  • ・「キレる」という現象と組織(学校)との関わりについて -「キレた時の攻撃性要因」に影響を及ぼす内的要因・情緒的要因・環境的要因-
  • ・スーパービジョンの展開がケア現場の職員の意識に与える影響について -スーパービジョンの確立の重要性-
  • ・2000年代のブランド志向についての心理的考察
  • ・仕事優先志向と保健行動との関連について
  • ・生徒集団の特性が教師集団の特性に及ぼす影響
  • ・組織のチームワーク・プロセスの規定因の検討
  • ・技術移転を担う技術の「目利き」人材の意識を探る -何が「目利き」を機能させているのか-
  • ・女性派遣社員の評価に関する研究 -コンピテンシー尺度を使って-
  • ・中間管理職の役割意識と攻撃性の関係
  • ・実証的な生理心理学ストレスマネジメントに関するハートマス研究のレビューと 短期的効果の部分追試
  • ・コンプライアンスと帰属意識 -面接調査によるその関連性の検討ー
  • ・医療・保健・福祉施設職員の職務ストレス・HRM施策・組織風土・バーンアウトに関する研究 -相談援助業務者の実態調査から-
  • ・保育士を対象とする人事評価項目作成の試み
  • ・教育改革の中における公立中学校教員のモチベーションの向上を図る要因
  • ・ジェンダー・ハラスメントがワーク・モチベーションに与える影響
  • ・期入院統合失調症患者の社会復帰意欲への傾聴的カウンセリングによる支援の縦断的研究 -20年あまりに及ぶ長期入院患者の社会復帰支援の願いは叶うのか-
  • ・長期的ストレスコーピング トレーニングによる効果
  • ・医療・介護のリーダーシップ

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