石部 尚登教授 文化情報専攻 言語教育研究コース
先生の研究テーマについてお聞かせ下さい。
これまで⼀貫してベルギーの⾔語問題に関する社会⾔語的研究を継続してきました。ベルギーは人口1,200万弱の小国ですが,フランス語とオランダ語,そしてドイツ語の3言語を公用語とする多言語国家です。しばしば「言語戦争」というセンセーショナルな用語とともに紹介されることもありますが,また「社会言語学者の楽園」との別名ももちます。確かに,1830年の独立以来,言語の不平等な地位に起因するオランダ語話者とフランス語話者の対立が続き,両者の調停を目的として言語政策の試行錯誤が重ねられてきました。それは中央集権制から連邦制へと国家の在り方さえ変えてしまうほどの影響力をもちました。
しかし,ベルギーの言語問題はこうした公用語間の争いだけにとどまりません。一般に公用語の「方言」と認識されていることば(言語「外」的変種)の復興へ向けた動きも一部にみられます。ヨーロッパ各地の地域語復興運動に連なるものですが,フランス語圏とオランダ語圏でそうした言語変種の認識が異なるという興味深い特徴もあります。フランスのフランス語とは異なるベルギー特有のフランス語,「ベルジシスム」(言語「内」的変種)も存在します。さらに,近年ヨーロッパ諸国の移民(統合)政策でトレンドとなっている「言語要件」も,両言語圏で厳格さに違いをもちながら導入されています。
また,1866(慶應2)年に9番目の幕末条約として締結された日白修好通商航海条約の交渉過程の調査をきっかけに,日本の幕末外国交流における言語認識と言語選択についての研究にも着手しました。
先生の経歴について教えてください。
理系学生として大学に進学しましたが,そこで第二外国語としてフランス語を選択したのがフランス語との出会いでした。なぜか勢いあまって外国語大学に編入学してしまうことになるのですが,そこで交換留学先としてベルギー南部のモンス大学を選択したのがベルギーとの出会いでした。ベルギービールが飲める!,そして「言語戦争」という刺激的な語になんとなく興味をひかれたという程度の理由でしかありませんでしたが,結果としてベルギー沼にどっぷりとはまりました。大学院時代にはベルギー・フランス語共同体政府奨学⾦を得てリエージュ⼤学に再度留学し,そのおかげで博士論文をどうにかまとめることもできました。きっかけは2度の偶発的な選択でしたが,今ではベルギーの言語問題を「専門」とすることになってしまいました。
インターネットを使った通信教育についてのご感想は?
以前から学部のLMSを利用して練習問題を作成していたこともあり,コロナ禍でのオンライン授業化への移行は比較的にスムーズに進みました。学生が自らの習熟度にあわせて練習問題に挑戦できることはおおきな利点だと感じています。公開された授業動画を繰り返し視聴する学生や,定期的に(平日の真夜中に!)何度も練習問題に取り組む意欲的な学生が複数いたことは新鮮な驚きでした。場所を選ばない,(授業形式によっては)時間を選ばないという特徴は,教員と学生の双方にとって有益で魅力的なものであると感じています。
オフラインでのエピソードは何かありますか?
昔から学会や研究会の後の懇親会はあまり得意ではないと思っていたのですが,コロナ禍で学会・研究会が全面的にオンライン開催に移行した際には,懇親会のないことが多少さみしく感じられました。特に発表した会ではその思いを強くしました。自分の研究生活で,また自分の人生で,意見交換の場としての懇親会は思いのほか大切な場だったのかもしれません。
趣味,休日の過ごし方は?
ずっと趣味のひとつに旅行がありましたが,最近は旅行に出かけても特に名所などを訪ねることも少なくなってきていて,今の趣味は「移動」と言えるかもしれません。日本の津々浦々,ときに外国と,休みさえあればとにかく移動しまくっています。場所がかわることで気分一新,リフレッシュされます。移動中がもっとも集中して読書できる貴重な時間ともなっています。身体的にはとても疲れるのですが……。
志望者に向けて,一言お願いします
ごく狭い範囲で構いませんので,ここは絶対に誰にも負けないという領域を作りあげて欲しいと思います。