デトロイトからの便り(6)-2 ―2008年マスターズTV観戦しての感想記―

                       国際情報専攻 6期生・修了 森田 喜芳


 男子ゴルフの今期メジャー第一戦である第72回マスターズ・トーナメントが4月10より4日間、米・ジョージア州オーガスタ・ナシオナル・ゴルフカントリーで開幕した。今年のオーガスタは前回までとは違ってグリーンがやわらかく、止まりやすい。フェアウェーも湿り気味でランが出にくい。そのためにロング・ヒッターでアイアンの名手であるタイガー・ウッズ(米国)が大本命との下馬評であった。

 しかしながら、結果はトレバー・イメルマン(28歳、南アフリカ)が初日からトップを守りきって8アンダーで優勝した。南アフリカからはゲーリー・プレイヤーに続き2人目であり30年ぶりの南アフリカ出身者の優勝であった。タイガー・ウッズは4日間で一度も首位に立つ事も無く、トップと3打差の2位であった。
 優勝したイメルマンをTVの解説者は、かつて鉄人と言われたベン・ホーガンのスイングにそっくりであると盛んに称賛しており、TV放映中も度々ベン・ホーガンのスイングのVTRとイメルマンを比較して細かい技術的な解説をしていた。

 私は、今回のマスターズは4日間ともデトロイトの自宅でTV観戦した。今回のマスターズで気がついた特徴点を幾つか以下に挙げてみる事にする。

 最初に優勝したイメルマン選手であるが、久しぶりにパンチ・ショットを得意とするプレーヤーである。パンチ・ショットはグリーンを狙うときに打ち、ボールに対してアイアン・クラブで打ち込んで、ターフを多く取る打ち方である。日本でも、二昔前に台湾の女子プレーヤーで除阿玉という選手が大活躍したときに得意技として有名であった。このパンチ・ショットの球筋の特徴は低い弾道で飛び、落下地点でバックスピンが掛かりボールが止る。しかし、手首で打ち込むため、相当な手首の強さが要求される。最近ではこのショットを打つプレーヤーは少なく、ターフをほとんど取らず芝が少々刈られるように打つ。弾道は高く上がりグリーンの上には高いところから落下してきてボールは落下地点で止まる。この打ち方の代表選手がタイガー・ウッズである。弾道が高くなるだけに風の強いときには少々向かないのが難点である。

 実は20年前にマスターズを観戦している。3日目と4日目の決勝トーナメントを会社の同僚と初めて観戦した。しかしながら、4日目はプレー・オフでの決戦となったために残念ながら、帰りの飛行機のフライト時間の関係で最期まで観戦できず、飛行場のTVで観戦したが、優勝者を決めた最終パットを確認した後、飛行機に乗り込んだ。その時は優勝者のバンカー・ショットが印象的であった。
 20年経過した今でも記憶にあるホールは#10(当時はパー5だった)、#13と#18である。#13はアーメン・コーナーのツツジの花が満開のもっとも美しいホールである。
 最初にコースを回って驚いたことは、全てのホールがTV放映できるようにホールとホールの間が広いことであった。更に各ホールごとにTVを放送しているの大きなモニタを備え付けたタワーが設置されていた。1989年までは10年間オハイオ州のコロンバス市にあるメアフィールド・ゴルフコースで開催されるメモリアル・トーナメント(4月末のメモリアルデイの週に開催される地元出身のジャック・ニクラウスの主催による。)を中心にプロのゴルフ・トーナネントを観に行っていたが、オーガスタ・ナシオナルとのゴルフ場の規模、トーナメントの開催、運営の違いに驚かされた。たとえばオーガスタでは#9と#10の間にはもうひとつのホールが出来るほどのスペースが空いている。毎年のTV観戦でも上記の3ホールは必ずTVで映されるので記憶を戻しながら楽しく観戦している。
 今回のTVはタイガー・ウッズを中心に放映しているように感じられたが、私には、今回のタイガーが4日間ともイマイチで、本人もかなりフラストレーションがたまったように感じ取れた。特に#18は毎日かならず映されたが、タイガーの#18は3日間(初日は見逃した!)とも右のラフに打ち込んだ!タイガーは昨年から#18のティー・ショットをドライバーを使わずに3番ウッドを毎日使用していたが、右に押し出していた。最終の#18番はティー・ショットが真直ぐ飛べばバーディーも狙える貴重なホールであるが、そのホールの2打目がラフから出すショットでグリーンが狙えないためにパーを取るのにかなり苦労していた。優勝したイメルマンが18番ホールのティー・ショットを全てフエアーウエーのセンターに落としていたのとは対照的であった。タイガーはこのティー・ショットのブレと、バーデー・パットが決まらないことに苦労していた。ティー・ショッのがブレても、おそらく調子の良いときのタイガーのようにバーデー・チャンスのパットが決まっていれば、今回もダントツで優勝していただろうと思えた大変惜しいトーナメントであった。それほどタイガーの実力は他の追従を許さないほど技術的には全ての面において抜きん出ている。
 また、今回のタイガーのティー・ショットで気が付いた点は、打ったあと、ティーが後ろに飛ぶことである。何時ものタイガーであればボールのセンターを打つためにティーは絶対飛ばずに刺さったままである。TVで観ていてもこの事は良くわかる!すなわちティー・ショットをした後に刺したティーを抜くときは調子が良くて、ティーを探したり拾ったりしているときは調子が悪いというバロメーターである。(この記事を読まれた方も、ティーを拾うプロの選手を見て成績をチェックしてみてください。成績の良い、悪いとの因果関係が良くわかります!)

 上記のティー・ショットのティーが飛ばないことに気が付いたのは、1983年頃だったと記憶している。オハイオのメモリアル・トーナメントに、当時、全盛時代の青木功選手が招待されていた。ご存知のようにプロのトーナメントは4日間だが、事前に練習ラウンドなどがあり、実際は其の週の月曜日いから来て練習をする。私は其の練習ラウンドを見に行った。その日、コースを回る前に青木選手は練習場でドライバーのティー・ショットを打っていた。青木選手独特のフォームからのティー・ショットは快音を残してボールは真直ぐに飛んで行き、ティーは後ろに飛んでいた。当時の日本では、ティーは後ろの飛んでいくのがプロ級の打ち方であると、我々アマチュアは理解していたし、TVなどでも、プロ選手やプロのコーチが解説していた。
 私は、当然のように青木選手の練習を羨望の眼で見ていた。暫らくしてから練習場の他の選手が同じようにティー・ショットしている動作と青木選手の動作が少々違うことに気が付いた。グレッグ・スタドラー選手(あだ名はセイウチ=体形がセイウチに良く似ているのと口ひげがなんとも愛嬌がある!)もティー・ショットを打っていたが、青木選手が2回ティー・ショットを打っている間にスタドラー選手は3回打っていた。良く見ていると青木選手はティー・ショッの後、後ろに飛んだティーを拾ってからボールとティーを挿しドライバーで打つのに対し、スタドラー選手のティーは挿されたままなので、ボールを載せるだけでドライバーが打てた。すなわちスタドラー選手はドライバーを打った後にティーを探すアクションが不要である。青木選手は後ろに飛んだティーを探す手間が掛かっていたので、打つ回数がスタドラー選手に比べて少なかったのである。(ドライバーのフェイス面にボールのセンターが正確に当たらない場合のティーは後ろに飛んでいくのである。)

 この事を知ってから、ゴルフ場やTVでゴルフ観戦をしてティー・ショットを見ていると、当時からアメリカの選手のドライバー・ショットはほとんどティーが飛ばない!逆に日本のプロは青木選手と同様にティーは後ろに飛んでいた。現在ではアメリカの女子プロトーナメントでも07&08年の賞金女王のロレーナ・オチョア選手やアニカ・ソレンタム選手などのトップ・プロもティー・ショットのティーはドライバーを打ち終わっても飛んでいない。

 以上の事を見ているだけでも選手の調子や技術のレベルがTV観戦していて判断できる。私は今年のマスターズの観戦はTVを通してだったがタイガーのドライバー・ショットはティーが後に飛んでいた。上述したように18番のティーショップでは左の松林に3日間とも落ち込んでいた。そのため、タイガーは最終日の最終ホールまでトップに躍り出ることができず、トップに一打差の2位で最終ラウンドを終了した。タイガーがいつものようにドライバー・ショットでティーが動かない打球であったならば、多分楽々と優勝できたのではないか?と私は感じている。タイガー・ウッズにとって、大変残念で悔しい今年のマスターズであっただろうと、彼の心境を想像している。

 出来れば今後もこの観点から選手の調子と成績結果の因果関係などをチェックして行こうと考えている。

 以上が、今年のマスターズをテレビ観戦した感想記である。
<以上>




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