デトロイトからの便り(6)-1 ―デトロイト・オートショー見学記―

                       国際情報専攻 6期生・修了 森田 喜芳


 今年も北米国際自動車ショーが1月13日よりミシガン州デトロイトで開幕した。私がデトロイトの自動車ショーのレポートを書き始めて今回で五回目になる。今年はアメリカの燃費規制の強化や、原油高によるガソリン1ガロンの価格の100ドル突破、地球温暖化対応の環境技術向上、などをテーマにして見学した。私は1月21日(月)に恒例となっている会場のコボ・ホールに行ってきた。この日は、「キング牧師の日」であり、3連休の最後の日であったために、老若男女、多くの人が、カジュアルウェアで見学に来ていた。リタイアした夫婦、子供連れの夫婦、中には乳母車を動かしながら来ている若夫婦、若いカップル、など多く見られた。また全体に会場も広いせいか、ゆったりして車に触ったり車内に座ったりすることができた。以前は日本からの見学者で、ダークスーツにネクタイ姿の人が多く見られたが、今年はほとんどそのような姿は見られなかった。自動車におけるデトロイトの地位が、低くなったせいであろうかちょっと寂しい気がした。昨年の秋に、日本の自動車ショーを晴海会場に見学に行った。あいにく当日は、強い風と雨降りの悪天候の中を行ったが、電車を降りてから大勢の人が連なって会場に行った。私もそのうちの一人であるが、駅からかなり歩いて、びしょぬれの状態でオートショーを見学した。晴海会場では、とても車に触ったり車内に座ったりすることは無理であった。そのような昨年の晴海会場と、比較しながらデトロイトの会場を見て廻った。

 今年のオートショーの入場料は、昨年及び一昨年と同様に12ドル50セントだった。しかし毎年、私の車の駐車場は会場に近いところにと決めていたが、今年も同じところに駐車をしたらなんと駐車料金が15ドルだった。オートショーの入場料金よりも高く、昨年の駐車料金は10ドルであったように記憶している。それでも、この時期のデトロイトは猛烈に寒く、冬の真っただ中であるため、料金を気にせずにどんどん駐車場に車が入ってきた。ただし会場に入ると、とても温かく快適に過ごすことができた。なんと若い人では、コートの下は半袖のTシャツを着て会場内を闊歩している姿が多く見られた。

 昨年と同様に、私は会場には中央の入り口から入った。中に入ると、左側にホンダの展示場、右側にフォードの展示場があった。その奥は、トヨタとGMの展示場であり、昨年と全く同じ会場のレイアウトであることに気がついた。会場にはやはり最初の左側にあるホンダ車にかなり人が集まっていた。新しい小型車でハイブリッドの「CR−Z」という車に人気があり、多くの人が写真を撮っていた。その場でしばらく見ていると、アメリカ人の中年の一団が来て「この小さい車にハイブリッドを搭載してとは、Good job」と会話をしている。また、昨年フルモデルチェンジになった量販車であるアコードは今迄よりも一段と大きく、また丸みを帯びてきたざん新なデザインであった。この車は4ドアーが基本車であるが、同時に展示されていた2ドアーの車も素晴らしく良いと、私は感じた。また、モノコックのボデーだけを展示してあったが、これは衝突、安全性を解説したものであった。かなりの人が興味を持って見ており人気があるのにはいささか私も驚いた。四輪駆動車の足回りだけのディスプレイも興味を持って見ている人が多く、やはりアメリカの人は自動車のことに詳しい人が多いのだとつくづく感じさせられた。

 次にテレビのコマーシャルで見たベンツの1ミリオンカーを間近で見ることができた。さすがにこの車には触ったり、乗ったりすることができなかったが、車体色は白で、大型のリムジーン・カーであった。いろいろな趣向を凝らした室内や大型サンルーフが私の目を引いた。どのような人が、この車に乗るのであろうか? 1年間に何台位売れるだろうか? などを想像しながらしばらくぼんやりと1ミリオンカーを眺めていた。ベンツをはじめBMW、アウディなどのヨーロッパ車は、50万ドルから80万ドルを超える車をかなり展示していた。日本車では、トヨタの8万ドル代の車が最高である。日本車は一般的に小型車が多い関係もあり、2万ドルから3万ドル代の中間車種である。しかしこのヨーロッパ車については、高級車とミニクーパーやスマート車などの小型車を多くの人が見ており、ヨーロッパ車の個性ある小型車の人気が年々高まっている様子がよく伺えた。ヨーロッパ車各社の元気さを感じた。

 ニッサン車は、毎年の傾向であるがRV車を多く展示しており、人々の目を引く車が多かった。それとニッサン車は、私はつねづね感じていることであるがブランド力よりも、トヨタ、ホンダなどよりも車の装備品などを考えると、コストパフォーマンスのよい車、言い換えれば割安感があるのではないか思う。

 近くにはスズキの展示場があったが、小型車を中心にコンパクトなレイアウトが目を引いた。昨年と同様に、大型のオートバイを一台展示していたが、これはかなりの人気であった。昨年から感じていることであるが、ホンダも同様に大型オートバイを展示すればよいのではないかと思った。同社が日本のオートショーでは、乗用車の隣に多くのオートバイを展示しているのとは対照的だった。

 トヨタの会場は、やはり昨年から世界一の自動車メーカーにふさわしく、フルラインのモデルを展示してあった。しかしながら、なんとなく総花的な会場のレイアウトで、イマイチ何が今回の目玉商品だったか?ということをあまり感じさせない会場のように見えた。ここでちょっと気がついたことはトヨタ車の説明する人は全員金髪の白人の女性であった。これと対照的なのが隣のGMで、車の説明する人はすべて男の白人であった。

 GM車は相変わらず大型のSUVなどを中心としたV−8エンジンを積んだ車が展示されていた。又、これらの大きな車を見ているアメリカ人が多いことにも驚いた。冒頭にも述べたように、ガソリン高、燃費規制、環境技術対応、などに関心が多いと思っていたが、やはり大型で馬力のある車を好んでいる人々がまだまだ多くいるのを目の当たりにした。ただし、さすがにGMも大型車だけではなく、小型車に多くのスペースをとって展示していた。「 Best, Trax, Groove 」の小型車を開発した展示車が多くの人々の目を引いていた。

 今年の特徴であろうか、全体に会場が静かであり、音楽も少なく、説明でマイクを使って、大きな声を出しているなどの行動が見られなかった。かなり静かで淡々として見学者が思い思いに車を見ていた。このような感じは、日本のオートショーとまったく違う雰囲気であると私は感じた。

 又、今年は、中国の自動車メーカーが5社この会場に展示していた。将来の海外戦略の一環として、今から海外に車を展示して拡販を目標とする姿勢が伺えた。韓国からもHyundai自動車が展示しており、今後ますますアジアの国々のメーカーが、世界の舞台であるこのデトロイト・オートショーに展示するのであろうと予測される。さしずめ、来年あたりは今年の年頭の大ニュースとなっているインドのタタ社による超低価格小型車「ナノ」あたりが展示されるのではないかと期待している。このタタ社による「ナノ」は今後世界の自動車業界に、どのように影響を与えるかたいへん注目される車である。今後間違いなく、小型車へとシフトしていくことであろうと考えられる。そのような状況の中で「ナノ」の出現によって小型車の価格破壊が起きることは間違いない。現実に私は28日にホンダの販売店に寄ったらシビックより1ランク下のフィットのほうが販売する車が無くてリース価格が高いとセールスマンより聞かされた。多分この車は日本ではコンパクトカーと呼んでいるトヨタのヴィッツ、ホンダのフィット、マツダのデミオ、であり今年の世界市場で大きく販売を延ばすことは間違いない。
 これらの詳細については、別途レポートしたいと考えている。

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