デトロイトからの便り(6)-3 ―08年大リーグ野球開幕戦、感想記―
国際情報専攻 6期生・修了 森田 喜芳
3月31日(月)は大リーグ、デトロイト・タイガースの開幕戦であった。当日の天候はうす曇で、デトロイト地区特有の曇り空の冬景色であった。ファンの人々の服装も手袋とロングコートや厚手のスタジャン姿であった。多くのファンは、タイガースのマークが入った、Tシャツ、スタジャン、帽子、小旗、などを持って球場の入場口へと向かっていた。大勢のファンが朝早くから球場に駆けつけており、私は試合開始30分前の12時30分ごろに行ったが、すでに近くの駐車場は満車となっており入ることができなかった。仕方なくちょっと遠くの民間の駐車場を利用したが、その料金はなんと$40であった。昨年のタイガース球場の内野の良い席は記憶によると$38であったが、(今年の入場料はさらに値上げされていると思う!)今回の駐車場値段の高さには驚いた。昨年は球場の近くに駐車したときの金額は$20であった。しかしそれでも続々と駐車場を求めて車が長蛇の列をなしていた。このことは、昨今のタイガースの人気の高さに比例しているのであろう。5年前に私はデトロイト・タイガースとイチロー選手の所属しているシアトル・マリナーズの試合をこの球場へ見に来たが、当時のタイガースはリーグの最下位であった為、球場は閑古鳥が鳴くような状態で、観客もパラパラとしか見当たらなかった。しかし今年の下馬評ではリーグの優勝候補と言われているために、開幕戦からファンの熱意がつながるような球場周辺の出来事であった。
この日、私は「シアター」と呼ばれる球場に隣接した大きな建物に入った。入口で受付の女性に$15を入場料として支払うと、身元確認ため私の名前と勤務先の会社の名前などをチェックして、当日のプログラムとこの建物の出入りが自由になる通行証代わりのプラスチック製のグリーンの腕輪を渡された。中はいくつかのグループに分かれており、各々の部屋の正面に巨大なスクリーンが設置され、音響の良い左右のスピーカからテレビ放送のアナウンサーと解説による実況放送が伝えられていた。シアターの中は真紅のカーペットが敷かれており、ウエイターやウエイトレス、バーテンダーもきちんとした服装で、一流レストランのような雰囲気をかもし出していた。ここに来ている人たちは、男性が全体の80%であった。服装などはまちまちで、男性は背広姿にネクタイで正装している人や、スタジャンにタイガースの帽子、など思い思いのいでたちである。食べ物はビュッフェ・スタイルになっており、サンドイッチやサラダ、ポテトチップなどが山盛りに並べられており、飲み物はすべてのアルコール類が用意され、デザートもケーキ、チーズ類、フルーツなどが食べ放題であった。これらの食べ物や飲み物を各人が思い思い勝手に皿に取って、気の合った仲間同士でテーブルを囲んでワイワイ・ガヤガヤとゲームを楽しんでいた。時々、大きな拍手や奇声を発しているテーブルがところどころあったが、このシアターの会場に来ているファンはほぼ100%タイガース・ファンである。
私がアメリカではどの球場もほぼ90%以上が地元チームのファンである事を知ったのは、初めて大リーグを観戦した1979年のことである。
初めてのゲーム観戦は、シンシナティ、オハイオにあるシンシナティ・レッズであった。そのときは同僚の5人と初めて大リーグを観戦した記念としてシンシナティ・レッズの真ん中にCのマーク入りの赤い帽子を購入した。この帽子は日本で見慣れている広島カープの帽子にそっくりであった。
その赤い帽子をかぶり、大ジョッキ2杯分くらいの容器に入った生ビールと、バケツのような容器に入ったポップコーンを食べながら観戦した。球場は大きく、当時の人工芝の緑がとてもきれいに球場に映えていた。音響効果や演出などもよくてファンを雰囲気に乗せやすく、彼らが大いにエンジョイしている様子や、試合開始前の国歌斉唱が非常に印象的であった。また、日本と比べてすべての料金が安いこと、交通整備の面で、試合終了後、多くの車が一斉に球場を後にして帰宅するのに、スムーズに車が流れていることに驚きを感じた。さすが車社会のアメリカであると感心させられた。ちなみに大リーグの発祥の地、すなわち初めてプロ野球を行ったのがこのシンシナティ・レッズである。したがって現在もその証が残っており、毎年の大リーグの試合はシンシナティ・レッズの1試合のみ行われる。当日は試合開始前にシンシナティのダウンタウンで盛大なパレードが行われる。私は1980年からオハイオ州に会社の関係で駐在しており、大リーグのスタートにあたる日に、一度このシンシナティのパレードを小雪降る中で見たことがある。
初めてシンシナティ・レッズの試合を見てから1ヵ月後に、オハイオ州内にあるもう一つのチームの試合を観戦しに行った。そのチームは、クリーブランド市にあるクリーブランド・インディアンスである。この試合も会社の同僚5人と観戦に行った。そのときに、仲間の一人が、前回シンシナティで買ったレッズの帽子をかぶって球場に入ろうとしたら、周りのアメリカ人のファンから、ブーイングを受けた。最初は何故ブーイングを受けたのか?われわれ全員が分からなかったが、インディアンスの試合を見に来ているのにレッズの帽子をかぶっていたことであると気がついて、素早く帽子を脱いでポケットにしまった。その結果ブーイングが収まった。すなわちファンは地元チームに一辺倒であることをこのとき初めて体験した。
帽子で思い出したが、私のアメリカ人の同僚は、子供の頃から野球が大好きで、小さい時にお父さんにフィラデルフィアで野球観戦に連れて行ってもらい、初めて野球帽も買ってもらった。以後、新しい球場に行くたびに、そのホームチームの帽子を購入しコレクションとして集めており、あと2チームの帽子を集めればコレクションが完成すると私に自慢していたが、翌年から大リーグのチームの新規参入が毎年のようにされ、今では当時の2倍以上のチーム数となってしまい、本人は本当に残念である!とその後私にバーで1杯飲みながらこぼしまくっていたことを思い出す。
私は、冒頭で触れたデトロイト・タイガースの開幕日に球場に来たのは初めてであり、またシアターと呼ばれる球状に隣接した観戦施設に入ったのも初めてである。多くの人たちはシアターで観戦したり、また球場に行って観戦したりと、シアターと球場を往復しながら野球観戦を楽しんでいた。尚、シアターの中ではイニンイングのチェンジやラッキーセブンのときは、球場とは別にアトラクションや抽選会などの催しが行われ、ファンを盛り上げ楽しませてくれた。
じつはこのシアターを訪れたのは、かつて私の同僚であった人が現在勤めている会社からの招待であった。その人とは偶然にも私が初めて出席した今年のデトロイト商工会開催の新年会にて再会し、そこで、お互いの近況などの情報交換を行ったのがきっかけである。
今回初めて、シアターでの大リーグ観戦を経験したが、このような娯楽設備があり、野球観戦の楽しみ方があるのだということを初めて知ることができた。同時に、アメリカでは、球場に行くだけではない大リーグ観戦の楽しみ方が他にもあるということを教えてもらった。
このシアターは一般的なスポーツバーより高級感があり、実際の野球を球場で選手のプレーを見て臨場感を感じたり、シアターでゆっくりと食事をしながら観戦したり、野球観戦を2倍の楽しみ方をしているのではないかと感じた。私も、アメリカでの生活が23年になるが今回は初めての体験であり、このような野球観戦の仕方もあるということを知り、大いに勉強になった1日であった。
以上が、08年大リーグ野球開幕戦の感想記である。