還暦なのに学生?
人間科学専攻 酒井 桂子



 ある職場関係者に「勉強していますか?」と言われたのが、入学動機である。一念発起して、家族に話したところ、「還暦だというのに今から学生? 隣の奥さんも、○○さんも悠々自適で海外旅行やら、趣味を楽しんでいるじゃないか。何考えてー」と夫と長男夫婦が声をそろえて呆れました。
 「還暦なのに…」の意味が分かってきたのは、研究を始めた頃からです。新しい分野のことがなかなか馴染まないのです。文献検索し、関係ありそうなものは、文献リストを作成、アルファベット順に整理し保存しました。後日、良い論文を見つけたぞ。とカードを作ってファイルしようとすると、すでに出来ているではありませんか。このショックの大きいこと。もっと問題なのは、パソコン操作でした。どこを触ったのか分からないのに、ポストのマークが無くなった!メールができない。職場をこっそり抜け出して自宅からヘルプデスクに連絡、ようやくメールが復旧ということがありました。サイバーゼミに参加したのはいいのですが、音声が届かない。「酒井さん、Ctrl押しながらですよ。Shiftではないですよ」と眞邉先生の声は聞こえるのですが、こちらの声は届かず。練習してから再チャレンジでした。次回困らない様に操作手順をメモにしたのですが、困った時に出てこない。これが問題なのです。ヘルプデスクさんはやさしいので、つい甘えてまたまたSOS。
 未知への遭遇は困難を極め、挫折感を味わってばかりでしたが、先輩の石津さんの呼びかけで北陸ゼミを企画していただき、同期の臼井さんと私の3人で毎月加賀市のファミレスに集合していました。2年目の6月から12月の忘年会まで7回。心理学研究法の基礎を勉強したいと取り組みましたが、知っている手法は理解が深まるのですが、体験のない一事例実験のことになるとさっぱりでした。実験したくても倫理委員会を説得できる説明ができず、断念しかけた時、分かりやすい石津さんのご助言と臼井さんの励ましで「やれるかもしれない」から「絶対できる」と気持ちが変化したのです。そして、この頃からチャレンジすることの楽しさをじわじわ感じていました。“還暦だって、知識がつかなくても知恵があるじゃないか。生きる力もあるぞ。”修論の仕上げ間近な12月8日、還暦を迎えました。
 こうして眞邉先生、ゼミの皆様、さらに特に北陸ゼミでの石津さん、臼井さんにたくさん助けられてどうにか論文をまとめることができました。仲間がいる実感はたいへん貴重でした。皆様に心より感謝しています。今まで日曜日というのに一人で食事をしていた夫に、海外旅行とまではいきませんが、秘湯の露天風呂で雪見酒のお付き合いをいたしましょう。



 
       
電子マガジンTOPへ     特集TOPへ