「自分らしい研究」をするための4つの取り組み

人間科学分野 山田 智之

 『理論なき実践は盲目であり、実践なき理論は空虚である』、これはグループダイナミックス研究の創始者であるKurt Lewinの言葉である。この言葉は、私の所属した田中ゼミの合い言葉でもあった。私はこの言葉を脳裏に置き、博士論文の執筆に取り組んだ。
 博士論文は、単なる思いつきや自己主張ではない。自分の研究が何故必要なのかを、先陣の学術的な研究を基にしながら「理論的に」かつ「誰もがわかるように」説明をしていく必要がある。そこで、大切なのが「自分らしさ」である。
 「自分らしさ」というものを見つけるのは非常に難しい。自分の顔を、鏡を介さずに観るようなものだからである。自分のことは自分が一番知っているようでありながら、客観的に自分を観ることはなかなかできない。しかし、これを乗り越えないと自分らしい研究をすることはできないのである。
 私は、「自分らしさ」を発見するために、四つのことを行った。その一つは、ゼミの定例会への参加である。そこで、自分の研究を発表し、ゼミの仲間から忌憚のない意見をもらい、指導教官の田中先生からご指導をいただいた。その繰り返しが、自分の研究を方向づけたといっても過言ではない。二つめは、学会への参加と論文投稿である。私は5つの学会に所属し、研究大会での発表や論文の投稿に努めた。そこから知り得た知見は、非常に厳しく、自分の未熟さを痛感するものであったが、自分自身を磨き、よりよい論文を書くために最も有効なものであった。また、多くの研究者と知り合い、論議が進められたことは、いまでも私の宝となっている。三つめは、様々な学術論文に触れることである。そこで有効だったのがGSSCのネット図書館とGeNii(学術コンテンツ・ポータル)である。夜中でも図書館に入り、自分の研究に必要と思われる論文を、国境を越えて引き出すことができる環境は、社会人大学院生にとってかけがえのない環境であった。この環境を最大限に活用し、様々な論文に目を通すことで、研究の進め方や調査・分析の方法を学んだ。四つめは、科学研究費補助金(以下「科研費」と表記)への挑戦である。科研費とは、日本学術振興会の競争的研究資金であり、この研究費を申請・取得できているか否かが、研究の軽重を問う重要なバロメータの一つとなるとも言われている。研究を進めるには学費以外に、研究資金が必要になることは言うまでもない。GSSCで提供されるSPSSでは分析が困難な場合、新たな分析ソフトなどを購入しなければならない。また、学会参加のための交通費、アンケートの郵送代金なども馬鹿にならない。私は在学中、この科研費(奨励研究)の補助を受ける機会にめぐまれ、思う存分に研究を進めることができた。そして、これら4つを実践に取り組むなかで、調査と分析、博士論文の執筆を進めた。
 博士論文を完成させた今、やっと「自分らしい研究の方向性」がぼんやりと見えてきたと感じている。そして『理論なき実践は盲目であり、実践なき理論は空虚である』という言葉を胸に、新たな研究に取り組む日々が始まった。

謝辞
 私は、GSSCで7年間(博士前期課程2年、研究生2年、博士後期課程3年)の学びの機会を得ました。そして、研究の仕方を学び、研究を発表することの意味を学びました。私の人生の中で最も意味のある貴重な時間であったといっても過言ではありません。 最後になりましたが、私の研究の遂行に関して終始ご指導をいただきました主査の田中堅一郎先生を始め、副査の北野秋男先生、野々村新先生、GSSCの諸先生方に心より感謝の意を表します。また、研究遂行にあたり日頃より有益な討論、ご助言をいただい田中ゼミの各位に感謝申し上げます。これからもGSSCのますますの発展と皆様のご多幸をお祈りし、感謝の言葉とさせていただきます。どうもありがとうございました。



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