デトロイトからの便り(5)-3 ―中国ビジネス事情―

                       国際情報専攻 6期生・修了 森田 喜芳


(2008年2月12日・記)

 最近5年間、中国に年間5回〜6回仕事関係で上海を中心に出張しています。その中で、小生が感じた中国のビジネス事情について以下に述べます。なお、昨年はすでに上海地区に自動車部品関係の製造会社を中心に5回、出掛けました。最近出張したのは、07年の10月28日から11月06日までであり、出張の目的は中国自動車部品製造会社へのトレーニングであった。

1.サプライヤー・トレーニング ―リーン(lean)生産方式、改善活動の導入―
 今回のトレーニングは、リーン生産方式1の一環である改善活動の導入について、T-1及びT-22のサプライヤーの5社に対して行った。トレーニングは2日間であり、第1日目は座学で、5種類のトレーニング教材により(生産管理、5S、在庫管理、品質管理、改善の見方&考え方、ムダ発見)その手法を学ぶ。なお、5種類のトレーニング教材の内容は、前々回6月末に初めてサプライヤーを視察した際に我々が重点テーマとして緊急に改善しなければならないポイントとして取り上げたものである。第2日目は、現場を観測し現状把握の中で何が「ムリ、ムダ、ムラ」なのかという問題点の抽出を行い、「どうすれば問題を解決できるか?」という改善案のタマ出しと改善案と実施策の発表をグループごとに行ってもらった。
 今回の我々トレーナー・グループのメンバー編成は、日本チームは小生と技術者4+アシスタントの女性1+韓国より品質管理者1=トータル7人であった。トレーニングの期間は合計10日間(5社×2日間)であり少々長い感じであったが、サプライヤーの出席者及び出席率は高かった。また、経営トップ陣の関心度合いも高いために、受講者全員も熱心であった。スケジュールもほぼ予定通り守られ、スムースにトレーニングが行われた。今回我々のトレーニングの特徴は座学だけではなく、現場に行き現場を見て改善案を出すというところに力点を置いたものである。一般的なトレーニングは座学だけで終わってしまい、頭の中では知識として残るが実行する現場での「Haw to do」ができない点が従来の最大の欠陥であった。製造会社の改善とは生産現場を改善することである。すなわち「現場、現物、現実」の三現主義が改善ポイントである。
 この生産現場でのトレーニングが我々の新しいトレーニング内容であり、従来の他のトレーニング会社やコンサルタントと大幅に違う点である。我々のトレーニング講師は、ほぼ全員が40年以上の自動車製造現場及び現場指導の経験者である。中国のサプライヤー各社からも、このトレーニング方法に興味を持っていただいた経営トップより、個別の指導を打診されており、大好評であったと自負している。以下に昨年のトレーニングを通じて感じた中国事情を述べてみる。

2.交通事情 ―交通事故=毎朝・毎晩、ヒヤリ・ハット=毎日―
 一般的に上海には300万台の車が走っていると言われている。新旧の車が混然一体となって、乗用車、バス、トラック、ミニバンなどが人力車、自転車及びオートバイと同一車道内で走行している。車の運転の仕方は、信号無視はおかまいなしで走行の邪魔にならないものがなければ走っていく。車線の変更は空いているところがあれば、いつでもどこでも変更してくる。車線の変更のルールは全くなく、先に車の頭をつっこんだ方が勝ちである。したがって、2車線以上の道路では、ほとんどの車が、センターラインに寄って走っていて、いつでも車線が変更できるような態勢で車を運転している。すなわち、後方から見ていると、どの車も右や左に蛇行運転しているように見える。左ハンドル車で進行方向に対して全くルールがなく、運転者は事故を起こさなければ良いという考えで、我先に前へ前へと運転している。しかしながら、小生は、上海での朝晩のラッシュ時には、毎日必ずと言っていいほど交通事故を起こしたシーンに出わしている。ルールはあっても無いに等しい状況である、と言わざるを得ない。

 
3.都市計画、―都市の治安、環境整備は急ピッチ―
 北京オリンピックを今年に控えたせいだろうか? 07年の11月出張の時に気づいたことがある。その一つは、大きな交差点で、巡査員が交通整理を行っていたことである。そのため、信号無視をする人や車はほとんど皆無となってきた。従来までは、時々朝晩の交通ラッシュ時には、交通整理を行っていたが、11月の出張時には、毎日朝から夜まで長時間にわたって、交通整理を行っていた。二つ目は、物乞いをする老若男女が街角にいて、従来は我々が、ホテルの外に食事に出たりすると、必ず2回から3回声をかけられたものだったが、今回は物乞いをする人たちは全く見当たらなくなったことだ。三つ目は、ホテルの周りや交差点の周りには、必ずイミテーションの時計を自転車の荷台に、2段から3段の木箱に積んで「ロレックス、ロレックス、ロレックス、安よ! 150元、100元にまけるよ!」と片言の日本語で、いつも声をかけてくれたおばさん達も全く影を潜めてしまったことだ(私はちょっと寂しい感じもした!)。

4.毎晩、宴会 ―乾杯・乾杯の連続―
 昼食は、取引先の食堂で従業員と同じもの食べさせてもらった。この従業員の食堂で食事をさせていただくことは、初回より何回となくリクエストをして、ようやく3回目になって実施された。従来は、昼食の時間になると外の中華料理のレストランに行き、昼間から、アルコールをいただき、たっぷり2時間以上かけて昼食を頂戴していたが、我々は仕事に時間をかけるように切り替えるため、できるだけ時間短縮と経費節約を含め、取引先の食堂で食事をするようになった。しかしながら、相変わらず夕食は、毎日が宴会の連続である。特に小生は、一緒に行ったチームメンバーのリーダーである関係上、中国からの出席者全員から乾杯を2回〜3回と要求された。乾杯は、完全に飲み干したという証拠にグラスの底を見せ合うしぐさの習慣が今でも残っており、一般的である。小生は今回の出張で、最初の日からアルコールを多く取りすぎて心臓に変調をきたした。しかしながら、無理して出張中は付き合ってきたが、中国出張から帰った後にかなり長時間静養しなければならなくなってしまった。中国から帰国後2ヵ月を経過し、その後アルコールを口にしたのは2度だけである。現在なんとかようやく体力を回復し、また次回の上海行きの出張のスケジュールを計画中である。

5.ホテル内での水 −相変わらず濁っている−
 上海では、ホリデーインとマリオットコートヤードの2ヵ所を常宿として使用している。3年ぐらいまでは洗面所の蛇口をひねり、コップ1杯に水を入れるとかなり水は濁っていた。しかし、昨今は水が透明になりかなり改善された。ただし、そのコップ1杯の水を1晩テーブルの上に放置して置くと、相変わらずコップの底には細かい粒子のゴミが滞留している。やはり口に入れる水は歯磨きやうがいを含めて、ペットボトルの水を使用しなければならない(ただし、このペットボトルの水も全く信用できるかどうかは不確実である)。

 以上のように仕事以外にかなり気をつかったり、体力を気にしながら、毎日を過ごさなければならないのが、中国出張の現状である。ただし、小生はまだ下痢をしたり体調を悪くして寝込んだりしたことが無いのを幸いと思い、次回以降も中国出張の耐久レールに望もうとしている。

【注】


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