デトロイトからの便り(5)-1 ―08年自動車事情予測―

                       国際情報専攻 6期生・修了 森田 喜芳


(2008年2月10日・記)

 デトロイトは冬将軍到来の真っ只中です。銀世界一面で毎日チラホラと雪が舞っています。今年も2008年となり既に2ヵ月を過ぎております。1月には恒例である自動車関係の「デトロイト・オートショー」が開催されました。

 今回は、昨年の締めくくりとして日本自動車メーカーの通称JB・スリー『3』」といわれている「トヨタ、ホンダ、ニッサン」について以下に述べてみる。なお、最近の北米市場はアジアのメーカーの韓国車や中国車も話題になっている。ちなみに最近では「ASIAN・フォー『4』」といって上記の3社プラス現代自動車を加えている。
 ご参考までに、新興経済国の代名詞である「BRICsブリックス」とは、ブラジル、ロシア、インド、中国の頭文字を合わせた4ヵ国の総称だ。最近では、「ネクスト11『イレブン』」という新語がある。これは、ブリックスに続く有望な国のことであり、米証券会社ゴールドマンサックスが作った新語です。経済規模の順に、韓国、メキシコ、トルコ、インドネシア、イラン、パキスタン、ナイジェリア、フィリピン、エジプト、バングラデシュ、ベトナムの各国である。これらの多くの国々がイスラム圏である。
 インドネシア、中東各国とトルコ、ナイジェリアも北東部はイスラム人口が多い。今後これらの国々は、中国やインドのように中間層が増加し携帯電話や自動車、住宅などをどんどん買うようになれば、消費市場として重要になってくる。また、賃金水準も低いので生産拠点としても魅力的である。すなわち、今までの日本企業の直接投資は中国一辺倒になりがちだったが、ネクスト・イレブンへの投資を検討することにより、リスク分散の選択肢が増えたことになる。

1.当面の環境対応車はハイブリットかディーゼルである
 それでは最近の話題となっている環境対策について、JB3各社の動きを見てみよう。
 最初に、トヨタ自動車について。同社はハイブリッド車では圧勝しており、また06年11月に、いすゞ自動車に出資して、発行済み株式の5.9%を取得し、低燃費のディーゼルエンジンを共同で開発、生産をすると発表している。同年4月に、GMとの資本提携を解消したいすゞは、トヨタ・グループに入って経営基盤を強化すると、06年11月8日付『日経新聞』は伝えている。しかしながら、なぜトヨタがディーゼルエンジンの開発で、世界のトップレベルにあるデンソーを前面に出して自社開発しないのかという疑問は残る。個人的推察ではあるが、日本ではディーゼルエンジン環境公害問題で、損害賠償請求・汚染物質などの差止めなどを求めた訴訟があり、現在も争われているが、このことと関係があるのではなかろうか。日本の自動車会社では、ホンダを除くすべての自動車会社が訴えられている。したがって、近年の日本の自動車会社は、ディーゼルエンジンの乗用車国内販売の宣伝はほとんど行っていないのである。
 次にホンダであるが、従来ディーゼル車を国内販売していない唯一の会社であるため、ヨーロッパを中心に北米、日本との世界販売に力を入れている。トヨタが、ハイブリッドで先行しており、このハイブリッド分野でホンダはトヨタと開発・発売は同時期であったが販売がイマイチのため現在は後塵を拝している。ホンダは2000ccのアコードクラスより北米でディーゼルエンジンを採用することをいち早く決定し、今年の秋から販売を開始した。このあたりの販売戦略については、トヨタとホンダは大きく違っている。両社の今後の動向が大いに注目されている。
 ニッサンについては、環境技術で、ライバル社に離された観がある。例えば、ハイブリッド車については06年12月に発表した環境計画「ニッサングリーンプログラム2010」で10年度に独自のハイブリッドを米国などに投入することを発表しているとともに、排ガスの綺麗なディーゼル車や電気自動車、そして水素と酸素を燃料として水だけを排出する燃料電池車など、多岐にわたる環境技術を近い将来に市場投入する方針を明らかにした。ただし、こうした動きについては、もちろん「ニッサンは環境技術で遅れている」という指摘を回避する目的でもある。ニッサンは2000年にカルロス・ゴーンが社長に就任して以来7年、この間にドラスチックな経営回復を果たしたが、その間の新車開発、および技術開発の遅れが、ここにきて大きくライバルの差として現れている。

2.日本国内市場は軽自動車が主体となる
 次に現在の日本国内の市場に目を向けると、自動車全体が縮小傾向にあるということがわかる。そのなかで唯一軽自動車は従来以上の販売である。軽自動車市場では、トヨタのプライドをかけた猛攻撃で利益無き繁栄を続けてトヨタ・グループのダイハツ工業、さらに富士重工もグループに加わり、業界をリードしている。
 ホンダは、自社にて製造販売しているが乗用車の販売に経営資源を集中しており、製造は関連子会社に委ねており、スズキ、ダイハツの後塵を拝し国内市場では第3位である。ホンダの自動車分野参入のスタートは軽自動車であり、この分野での巻き返しを期待したい。
 ニッサンは、この分野では、他社よりOEM供給(相手先ブランドによる生産)を受けている。2006年度で見れば、スズキ(約8万台)&三菱(約7万台)より供給を受けて販売している。すなわち自社及び系列会社に製造会社がなく、相手企業の生産余力に頼らざるを得ない状況にある。ちなみにスズキは08年に国内新工場を建設稼動、三菱の国内工場は100%稼動しており、一時は閉鎖を考えていた愛知県の岡崎工場ですらフル稼動の状況である。

3.30万円以下の激安車は次の「世界の工場」インドから
『ビジネス・ウィーク』2007年10月23日号では以下のように述べている。
「[インドはIT]はもう古い。いまやスニーカーから車まで作る大製造拠点でありBMWや現代自動車と世界の大手が進出、大量の雇用を生んでいる。国内には300の経済特区が誕生、熱心な誘致が更に企業を呼びそうだ」
 2,500ドルという価格は今市販されているもっとも安い車より約40%安い。2003年に2,500ドルの格安車を作ると発表したインドのタタ・モーターは、今年発売にこぎつける。この価格は通常2輪車の価格帯である。タタの車は本物で33馬力のエンジンを積み、最大時速80マイルを出せる。試作車を見たことがある一握りの業界関係者によると、デザインも悪くないという。ルノー・ニッサンは、タタの挑戦を受けてたつ最初のグローバル自動車メーカーである。
 トヨタが開発中の格安車は7,000ドル以下になる見込みで、2009年にインド、ブラジルで発売する予定である。同社経営陣は新素材や生産面でのブレークスルーを期待している。エンジニヤーらが目標を実現できれば、そのコスト削減戦略は「カローラ」から「レクサス」に至る全車に採用される。
 ホンダもインドに第二工場を09年10〜12月に稼動させる見通しである。この工場稼動時は、小型車の生産は年産20万台に増産する見通しであり、第一工場とあわせた総年産能力を30万台に増やす予定である。ただし、インドでの低価格小型車市場への参入は急がない方針を示している。ホンダはタタ自動車やルノー・ニッサンによるインドでの低価格小型車販売市場では、競争しない考えである。
 以上、JB3各社の対応が各々分かれている点に08年以降注目していきたい。世界の自動車生産及び販売は、現在中国がもっともホットな市場であるが、今後は中国のさらなる拡大と併行して、激安車の販売増に伴い、緩やかに経営の重心移動がされ、インドが中心になっていくだろうと推察される。

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