オープン大学院2024を終えて

文化情報専攻 2022年度入学 2023年度修了 松本 文子

1. はじめに

令和6年10月5日土曜日、私たちの「オープン大学院2024」は実施された。このような行事は、多くの場合前年を踏襲した形で行なわれるものである。一昨年と昨年、コロナ禍での感染症対策という「新しい日常」を経てきたことから、多少の修正はあるにせよ、大きく変更することはないと、当初私自身は考えていた。オンラインと対面でのハイブリッド開催の形式は、通信制という特色をもつ本学大学院のオープン大学院であることからすれば、むしろ理想的な開催方法である。したがって、コロナ禍が比較的落ち着いたとされたかたちで社会が動き出している今年度、ハイブリッド開催での実施は、当然の前提とした計画が求められていた。ハイブリッド開催の方法論は、すでに昨年度の実行委員会で充分に熟慮され実施されたうえで検証されていたので、今回はそれを基にして、工夫しさらに発展させていけばよいはずであった。

ところが、今年度当初に今回のオープン大学院の具体的な検討に先立って「昨年同時に開催された入学相談会、そして昨年大盛況だった公開講座の二つの大きな目玉行事を、今回の『オープン大学院2024』では行なわない」という方針が決定された。今年度担当の文化情報専攻の保坂先生からこれまでと方針が変わったことを伺ったとき、私は驚いた。目玉行事が外された形で、集客可能なオープン大学院を開催する、それができるとの意図なのか、うまくいく保証はあるのかと。前例踏襲を決めこんでいた私にとって、非常に厳しい方針だった。しかし、これは既に決定事項である。私に即座に自分の頭の中を切り替えて、新たな形のオープン大学院を生みだす方向に積極的に歩き出すことを決意した。その後の実行委員会のなかで、「そもそも普通のオープン大学院は…」「そもそも世間一般のオープン大学院は…」とのまくらことば付きで何度も繰り返しこの方針の意図についての説明を求められ、変更を迫られた。また、個人的に「無理をしてオープン大学院を実施する必要があるか疑問。全専攻が参加をする必要はないのでは…。そもそも」と主張してきた実行委員もいた。しかしすべては大学の方針であり、公開講座と入学相談会をつけた昨年度の形にもどすことも、オープン大学院の中止をすることも、私にはできない。私が実行委員長としてできることは、何と言われようと、どれだけ責められようとも、新たな形のオープン大学院を創り上げる方向で進むしかないと腹を決め、そういう気持ちで「そもそも論」に対応した。私は、私に託された「軽装備になった『オープン大学院2024』」というこの船を外海へ漕ぎ出さなければならない。

今年度の実行委員の募集は、いわばこのたよりない(私が船長という)船に一緒に乗り込んで生死をともにしてくれる仲間集めであった。例年より早めの実行員募集が必要と考え、保坂先生にご相談し、6月から声かけを始め、さらにまた多くの先生方からも学生らへお声掛けをしていただいたことによって、早々に予想以上の人数の実行委員(命知らずの、勇者たち)が集められた。私自身この春に修了した身であるので、社会人大学院生の日常の忙しさは充分わかっている。この「オープン大学院」というよくわからない行事に、自身の貴重な時間を割く余裕はないと思われても当然と覚悟していたので、たくさんの方々が手を挙げてくださったことは、まさに涙が出るほど有り難いことだった。ともに最後まで苦労を分かち合ってくれた、すばらしい仲間に恵まれたことに、今でも心から感謝している。

2. 実行委員長を拝命した経緯

思い返せば、私が実行委員長を拝命されたのは昨年の春であった。しかし、もとはといえば、大学院1年生として入学した春、人間科学専攻の修了生の小林敦子実行委員長が2022年度の「オープン大学院」の実行委員募集をされていることを聞き、応募したときに、この運命の茨の道に足を踏み込んでいた。小林実行委員長は、あのコロナ禍の困難な時期にありながらも、多くの先生方のご協力のもと、委員会組織を統轄して、非常に素晴らしいオープン大学院を行なった。その年、私自身は実行委員としては、せいぜい実行委員会に出席することぐらいで、ほとんど大した仕事はできなかったが、それぞれの実行委員の方々と先生方が語り合いながら重要な行事として「オープン大学院」を創り上げていく姿には強く感動したのである。

そのため、翌年の応募に際して、実行委員として手を挙げることに躊躇いはなく、「今年は修論を仕上げなければならない年」というプレッシャーも何のその、「今回のオープン大学院ではがんばろう」という純粋な積極的な気持ちでエントリーしたのである。ところが、そのときの気持ちの高揚が後々の災いの種(日本大学大学院にとって)となった。その年、私が「オープン大学院」の実行委員会副委員長という大役を担うことになってしまったからである。この副委員長という役割は本来、委員長のサポート役であるとともに、次年度に引き継ぐ役割を負う。ただし、私はこの年、橋本丈次委員長のサポート役は全く果すことができなかった。橋本委員長は、ハイブリッド開催の「オープン大学院2023」として、大学院校友会組織による後方支援体制を敷き、実行委員会内部の調整に大変なご苦労をなさりつつも、専攻別イベントの開催という新たな道を切り拓かれた。大変な盛会で終えられ、橋本委員長は偉大な功績を残された。ちなみに今年度この副委員長という役職を設けていない。しかし、事実上専攻別のまとめ役を担った仁科丈彦さん、湯浅有希子さん、岩澤平さん、この三名が今年度の副委員長の役割を果された。

今年度においては、昨年度に橋本委員長が行なって高い評価を得た校友会との連携や校友会からの直接の後方支援は、残念ながら校友会組織の改編により難しかったが、OB・OGの方々が実行委員会を力強くサポートしてくださった。このご支援なくしては、私が今回実行委員長の大役を果すことは不可能であったろうし、今回の「オープン大学院2024」の成功は為し得なかった。

3. 開催について

公開講座や入学相談会を外して軽装備となった今回の「オープン大学院2024」は、本来の目的にたちかえり、「学生の学生による学生のための大学院」として「全在籍生が参加したくなるイベント」とのシンプルなコンセプトで企画した。私としてはピンチをチャンスに、在籍生が「オープン大学院」で、新たな知を得て、新たな交流をして、心から楽しめるようなイベントであって欲しいと考えたのである。保坂先生がこのコンセプトに快く賛同くださったことで、私は勇気づけられた。


オープン大学院ポスター(湯浅有希子さん作成)


今年度ほど、我が日本大学に社会からの注目の眼差しが向けられた年はない。

「自主創造」との建学の精神を掲げる我が大学に寄せられる社会の強い期待に応える義務は、私たちにはある。外部の多くの方々が、私たちのこの大学院に興味をもってくださること、そしてまた多くの学生が入学を希望してくれることは、これまで「オープン大学院」の目的のひとつであったと考える。そのことは、もちろん重要なことである。ただし、外部への発信のイベントということを意識するあまり、かえって内部の多くの在籍生にとって「オープン大学院」自体の魅力が充分に感じられることなく過ぎていたのではなかったか。外部への発信というその目的を否定するつもりは毛頭ないが、通信制の大学院であればこそ、在籍生が交流する場としてもまた、この「オープン大学院」は貴重であるという新たな提案であった。交流という主体的な目的をもって多くの在籍生が集い、心から楽しむことができるのならば、その姿こそが、私たちの大学院の魅力の発信につながるに違いないと考えた。

開会式では、実行委員にくわえ、多くの方々が当日スタッフとして自ら集まってくださった。通信教育部の学部生や外部の教育機関の方々なども、対面会場に集まってくださった。開会式セレモニーで、松重充浩研究科長の温かいお言葉の後、全体イベントで仁科丈彦さんを中心にした有志による特別企画「修論作成のために:これを1時間かけて勉強すれば、修士論文は2週間短縮できる」をオンラインと対面のハブリッド形式で実施できた。この実施に至る経緯は誌面の都合上割愛するが、このことは、今回の在籍生のための「オープン大学院」という今回のコンセプトにおける工夫の賜物であり特筆に値する。


特別講座に登壇の発表者(仁科丈彦さん)及び案内スライド


また、専攻別イベントでは、数少ない人数の企画者による限られた時間内での発表であったにも関わらず、それぞれ周到な検討と準備がなされ発表されていた。後日の参加者アンケートでは、どの専攻においても、充実したものでありその専門的な知の探求の世界に感銘をうけた、もっと情報交換や議論を行いたかった等の感想を多く戴いている。

閉会式もハイブリッド方式で実施し、専攻別イベントのオンライン、対面それぞれの参加者からの感想を直にその場で聞き共有することができた。


「オープン大学院2024」開始直前の関係者の皆さん(1号館1階入口ロビーにて)


懇親会においては、さらに嬉しいハプニングがあった。閉会式までをオンラインで参加した後、懇親会に対面で参加したいと駆けつけた方々が何人もいたのである。「入学しようかと迷い少しだけ相談するつもりで訪れたがあまりに盛り上がって楽しげであったので、とうとう最後まで懇親会にまで参加した」という方もいたというのだ。これこそが、私たちが目指した「オープン大学院」だった、私たちは間違っていなかったとの想いが心の底から湧き上がり、この新生イベントの産みの苦しみは、一瞬で消え去ったのである。

各会場の参加者数は結果的に時間と内容に分けて開会式で対面参加者数29名、オンライン参加者が35名であった。さらに全体イベントの特別講座は対面22名、オンラインが44名であった。専攻別イベント参加の内訳は国際情報の対面参加者が最大14名、オンラインでは最大7名・文化情報では対面参加者が最大で11名、オンライン参加者が最大34名であった。さらに、人間科学の対面参加者が最大で3名、オンライン参加者が最大で8名という結果であった。また、イベント終了後の懇親会では国際情報専攻の現役生が7名、教員3名で、文化情報は、現役生5名、修了生3名、一般参加者2名、教員2名、人間科学は現役生2名、修了生1名、一般参加者が3名、教員2名であり、総勢30名の参加となった。また、一般参加者には、日本語教員養成プログラム受講の通信教育部も複数参加されており、自身の進路として大学院への憧れの意を強くしたとのことであった。

4. さいごに

今回のオープン大学院の翌日から、引っ切りなしに届いていた私のスマートフォンの通知音は間遠になった。気がつくとメールの受信フォルダに数通立て続けに届いていたメールも少なくなり、次第に静かな日常の生活がもどってきた。開放感に浸ってのんびりした気分になって図書館で本を読み耽ったり、寝溜めしたりできそうなものだったが、現実は違った。張り詰めていることに慣れていたピーンと伸びた心の糸を持て余した。「オープン大学院ロス」とでもいうか、数日間は「オープン大学院」の残像イメージを抱えたまま、ぼんやりしがちだった。しかし、徐々に反省アンケートの返信が集まってやっと我に返り、整理作業に着手した。今回の報告書をまとめ始め次第に、終わったんだという実感が湧いてきた。

多くの方々のお力(底力)に支えられた今回のオープン大学院の成功によって、ハイブリッド方式でのオープン大学院の開催の長所はさらに高く評価され、今後も安定して継続できる新たな方法が確立できたといえるだろう。オンラインと対面の両参加者らが時間と空間を超えて深く交流でき、ともに学び合うことが可能な最良の夢のような方法である。

ところで、この方式の成功の背景には、広い社会経験や知識を備えた発表者や発表内容を吟味し専門性の高い発表を行なうことを可能とした実行委員諸氏、協力者の存在が不可欠であった。

ここに、実行委員のお名前を記してあらためて謝意を表する。青木みあさん、岩澤平さん、黒田暢彦さん、内田幸さん、野中ゆき子さん、伊藤光子さん、蛭田恭代さん、古田佳秀さん、山下志織さん、中村昇太郎さん、尾崎圭紀さん、林聖子さん、津曲秀一郎さん、仁科丈彦さん、荒川恵子さん、松下和哉、宮下誉史さん、湯浅有希子さん、感謝申し上げます。各専攻イベントで発表いただいた、宮下浩幸さん、山下志織さん、牧久美子さん、上林彰仁さん、佐藤孝一さん、有り難うございました。

昼夜を分かたず私の疑問に応えて、有り難いアドバイスのメールやメッセージをくださった先生方…メール等だけではない。事前に直接開催会場をまわって使用機器の異常を確認してくださり、会場変更の手続きも行なってくださった主担当である保坂敏子先生、釋文雄先生、神井弘之先生、そして様々な場面でお心を砕いてくださった田中堅一郎先生、加藤孝治先生、島田めぐみ先生、秋草俊一郎先生、他多くの先生方、教務課、事務課他大学職員の方々、有り難うございました。最後に研究科長松重充浩先生は、いつも優しい言葉で激励し、強く勇気づけてくださいました。有り難うございました。

皆様は、非力な私を常にしっかりと力強く支えてくださいました。このことを私は決して忘れません。今回のオープン大学院が無事終了できましたことに、あらためて感謝を申し上げ、結びといたします。




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