きっかけと道のり

人間科学専攻 2022年度入学 2024年度修了 宇佐美 裕命

1. はじめに

修士論文奮闘記の執筆の機会をいただき、感謝申し上げます。ありがとうございます。私が博士号前期課程(2022-2024)終了までの2年間を振り返って、大学院に「40歳後半になって進学したきっかけ」と「修士論文完成までの道のり」を執筆してみると、修士論文完成の達成感から2年前の自分と現在の自分がまったくの別人になったように感じています。それは、当初私の研究のテーマとしては存在していたものの、昭和の高度成長期の働き方改革の研究が一般的でした。そのため、新型コロナウイルスの影響もあり、働き方改革にも急激な改革が必要となりました。その急激な働き方改革をおこなうためには、まず、労働者の労働意識を明確にすることが大前提であると思いました。しかし、社会というものは急激に変化することは難しく、令和という新時代にいたっても表面的な労働形態に多少の変化があるにすぎないものでした。また、この分野の研究は、昭和の高度成長期から慣習的におこなわれていたため、捏造や改竄問題が目の前で日常化していました。それは、暗黙の了解のようで誰も研究のテーマとして先行研究がない状態であったのです。そのため、研究を始めてから、このようなデータの捏造や改竄に関する問題はささいなことがらのようにみられ、不正とは社会問題ではあるものの社会的に黙認されているのではないのかと不安でいっぱいでした。しかし、研究論文の執筆をはじめて1年くらい途中から大手自動車メーカーや電装部品メーカーからの改ざん、捏造問題が社会問題としてクローズアップされ、今年にいたっては大手製薬会社の社会問題まで次々と明るみになり、自分自身の研究が社会問題の実態に適合していることを再認識するとともに自身の研究に対する明確な自信になりました。また、このような社会問題をなくすために、もっと深く掘り下げ研究することで新しい健全な会社組織の貢献になるのではないかと思います。そして、高度な知識や技法などの習得にご指導、ご尽力いただけた田中教授をはじめ多くの教授の皆様に言葉には言い表せられない感謝の気持ちでいっぱいになります。

2. 進学のきっかけ

私の進学のきっかけは、ものごとの大小はあるものの日常業務でよくある計測数値の改ざんや捏造が私の心の中で疑問符となっていたためでした。このような問題は発覚時に指摘や懲戒を与えても必ず出現する問題でした。そこで、こうした問題を解決するには、どうすればいのかを考えた結果、研究を通して労働者の意識を明確に見つけ出すことでデータの大小にかかわらず捏造や改竄をする労働者の心理的意識に対して根拠をもって対応することがデータの捏造や改竄の抑制につがながり健全な社会への貢献となる。そうすることが大前提であり重要だと強く思っていました。そのためには、大学院に進学して高度な知識を取得するとともに、改善に向けた根拠を見つけ結論付けることが問題を解決するための研究をおこなうことこそ、最良の方法と思っていました。そして、研究の結果を社会の中の実務で実践することで少しずつでもデータの捏造や改ざん問題が解決していくと確信していました。しかし、社会人で管理職の私に勉強や研究のために日常的に時間があるのかと考えているとこれは無理があると思い停滞していました。その時、社会情勢として、世界に猛威を振るった新型コロナウイルスの影響で私に転機が訪れました。世界の人々が恐怖と不安感に心理的に追い詰められ、社会的に人との接触やさまざまな制限があり、大変な思いをしましたが、在宅勤務が主流となり往復の通勤時間約3時間を取得できるようになったので大学院への進学を決心しました。

3. 修士論文完成までの道のり

修士論文完成までには、社会的制約や大失敗などさまざまなことがありました。また、進学して1年を過ぎたころから在宅勤務の日数が減っていき時間の利益が激減していきました。しかし今思うと、考え方によっては修士1年は単位取得や特別研究指導などさまざまなことがあるため、かなりの勉強時間が必要な時期となるので行政や会社組織から厳しい制約は受けるものの、在宅勤務は時期的に幸運だったのかもしれません。しかし、当時はそのような状況を楽観視することもできずに、ひたすらに修士論文の完成に向けて勉強、研究をしていました。また、人間の適応能力は苦戦な状況になると発揮されることを知りました。在宅勤務の期間は毎日、朝9時の勤務時間直前まで2時間半、夕方17時45分の退勤時間後に2時間の勉強時間を取得できましたが、新型コロナウイルスの規制が緩和されるにつれて、在宅勤務の日数が減っていき通勤に変わりました。そうなると勉強時間を確保するためにどうするべきかと非常に不安でした。そこで、通勤方法を自由の利くマイカー通勤から時間に制約されるが公共交通機関に変更して勉強時間を確保しました。公共交通機関である電車やバスなら、バスや電車内で勉強時間を確保することが可能だからです。あまりにも勉強に熱中していて駅を乗り過ごしたことなどは数えきれないほどありました。ひどいときには業務による出張の時に空港で飛行機を乗り過ごしてしまいました。しかも、その数が4回も乗り過ごしたことから会社から懲戒処分を受けたこともあります。また、修士論文を完成させるためには、勉強時間の確保のため、家族からの理解も必要不可欠です。会社の休日は毎月、お盆と正月を除けば、月8日あります。その休日を勉強時間に費やすためには家族の理解が必要で、この度は、家族の協力もあり、休日は月のうち8日間の休日のうち6日間を勉強日として1日8時間以上を確保して修士論文の完成まで勉強時間の確保をしました。ただし、休日の勉強日に10時間以上もパソコンの画面と向き合って思った成果が得られなかったときは、心が折れそうになった時もありました。しかし、必ず修士論文を完成させるという確固たる目標意識で頑張ることができました。

3.1 いきなりの大失敗

大学院に入学当初、私は修士論文の研究計画や調査方法やデータの分析方法に関して多少の困難はあるとしても計画通りに修士論文の完成をできると思っていました。その後、私自身の修士論文完成に対する考えの甘さを思い知ることになりました。それは、当初計画していた研究論文の調査方法やデータの分析手法も調査分析などは、はじめの修士1年間の履修科目で知識が増すたびに少しずつ違和感を感じるようになり、調査方法を一部変更したりしたことが大失敗になりました。当初は、自作の質問紙法により自社の関係する協力会社や協力可能な客先企業からアンケートデータを回収して調査するというものでした。しかし、本学大学院前にて配布していたアンケート調査会社のパンフレットを知ったことで、もっと、広域で明確なアンケート調査ができると思いアンケート会社に調査依頼をしてしまったのです。もちろん、アンケート調査会社も精度や倫理配慮面、堅実性などの視点から3社を比較して依頼することにしました。はじめは、修士論文の完成に向けた大きな大成果と思っていました。ところが、そこに盲点があることをのちに思い知ることになりました。調査方法を変更するということは、今思うと当たり前のことですがデータの分析方法も十分に再検討したうえでなければ安易に変更するべきではないのです。そこで、調査方法を変更してデータを収集した結果を改めて分析する手法に苦戦することになりました。自分なりに、国立電子図書館での分析手法の検索、分析手法の書籍やGoogle Scholarなどの分析手法を見たりして、さまざまな手法を用いてデータの分析をおこないましたが、どうしても最後の手法の違和感が取り切れずに田中教授にご教授のお時間をいただき、ご指導いただく結果になりました。

この他にも、参考文献や引用文献の確認などをするためにEndNoteも活用しましたが、これも、はじめての経験で最初の設定などにかなりの時間を費やすことになり大失敗したと思います。EndNote を含め普段から利用や活用していないものを使用する場合は、はじめの設定から勉強することになるので安易に新システムなどに頼らないことがよいと痛感しました。その後の1年目のはじめての夏合宿では、学びと発表の場として確固たる信念のもとに発表資料の準備をおこないいち早く申し込みをしました。しかし、これは社会情勢ともいえるかもしれませんが新型コロナウイルスの影響により、行政から強制的に濃厚接触者に指定されてしまい、断腸な思いでありましたが、合宿にはZOOM参加となってしまいました。ただし、今、思うとこのような失敗を経験して一つ一つ乗り越えてきたことの経験が自信となっているのではないかと思います。

4. 学位取得を得て

最後に、修士論文を完成させて学位を取得した2年間の生活の中で、一番緊張したのが最終口述試験でした。修士論文を執筆する前に、はじめの1年目は、まずは履修科目のリポート作成からはじまります。リポート作成も悪戦苦闘の日々でした。それは、前期と後期に分けて時間の制約があったからです。また、私自身が凡才であるためリポートを的確にまとめ上げることができませんでした。まさに、誰がどう見ても日進月歩とはいえない状態です。しかし、担当の教授からの鋭くも手厚い的確なアドバイスもあり、苦悩しながらも制約時間内に履修科目のリポートを提出することができました。しかし、一息つく間などなく修士論文の完成に向けた日々が続きます。リポートも修士論文も同様に、科目担当の先生から鋭く的確なアドバイスが返ってきます。そのたびに、教授からのアドバイスをしっかり意識しつつさまざまな参考文献や専門図書、インターネットを駆使して調査分析を理解することで知識の向上を図ることができました。担当教授の先生には深く感謝いたします。そのように悪戦苦闘をしながらでも充実した時間を通して、修士論文が完成しました。

しかし、ここからが1番の試練である口述試験です。口述試験の主査は田中教授であることは、田中ゼミの定例会で知ることできていましたが、副査の教授は知らされていないので、どのような質問が来るのか不安しかありません。また、田中ゼミでのリハーサルでは口述試験時間15分をかなり超過してしまいました。もう不安しかなく、口述試験当日まで繰り返し練習しました。副査の教授にどこを聞かれるのか心配で修士論文の台本に赤ペンで数多くメモ書きをしたり、数十枚になる付箋を貼って即時応答できるように工夫をしました。そして、口述試験当日の副査の教授は、うわさには聞いていた有名で高名な教授でした。その教授が席に座っているだけで緊張が最高点になって頭の中が真っ白になりかけました。普段なら絶対にお会いすることのない教授でしたので、心配というより恐怖と言った方が正解といえます。口述は時間内に終了できましたが、その後の教授の質問で鮮やかで的確な質問の数々に、肝を冷やしました。それでも思う限り一生懸命に応答しました。実際、ベストは尽くしましたが練習の成果の7割発揮できていたのか微妙な心中でした。そして、人間科学修士として合格したことを知ることになりました。しかし、取得した学位は私自身の人生の通過点として深く思い今後も疑問に思うことや自分自身の知識と能力の向上のためにも研究などを通してさまざまな分野で活動を継続していきたいと思います。




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