修論執筆を振り返って − 私なりの工夫

人間科学専攻  2021年度入学 2022年度修了 小林 和子

 

1. はじめに

私がGSSCの門を叩いたのは,数年前から従事している仕事の領域で、もっと専門知識を身に付けたい、仕事をする上で湧いてきた疑問を明らかにしたいという思いからです。さらに新型コロナウィルス感染症によりフルリモートでのワークスタイルとなり,時間のやりくりがしやすくなった状況も背中を後押ししてくれました。
 今回、修士論文奮闘記執筆の機会をいただきましたので,2年間を振り返って,私の経験が少しでも現役の皆様にお役に立てばと思い,苦労したこととそれをどう乗り越えたかという視点でお話ししたいと思います。

2. 仕事や体調とのバランス − 同期,ゼミ定例会のありがたさ

1年次はレポート,2年次には文献やデータ,論文執筆に追われます。毎日少しでも進めなくてはという焦燥感に追われていた2年間でした。
 オリエンテーションの際,ゼミの先輩から1週間に1本レポートを書く,月〜木で素読して,金〜日でレポートを書き上げるというペースだと思っておいた方がよいとアドバイスをいただきました。そのときは,(えっ?もっと時間あるはず)と思っていたのですが,初稿を提出した後,先生方とのやり取りなどにかかる時間も必要ですし,実際,締切が近づくにつれ先輩から聞いたようなペースでやる必要がありました。また,計画をしていても仕事の波によって全く進まない週もあったり,M1の夏に熱中症になって体調がなかなか戻らず,ペースダウンしてしまったり思うようにいかないこともしばしばありました。M2のときにはレポートのように締切はないものの,自分で研究のスケジュール管理を全てしていかなくてはならないため,余計精神的にプレッシャーがかかりました。
 こんなプレッシャーを軽減し,励みになったのが,同期との繋がりと,月1回の田中ゼミ定例会での先生,先輩方との意見交換の場でした。私達の代はオリエンテーションもスクーリングもリモートの状況でした。対面でのコミュニケーションは少なかったのですが,同期の2人,古矢さんと相原さんとは入学後すぐにLINEでグループチャットを作りました。そこは,締切や連絡事項の確認だけではなく,今どういう切羽詰まった状況か,どんなことで悩んでいるかなどのぼやきも気兼ねなくつぶやき,同期3人で励まし合える場所となりました。BellCurve の使い方などチャットだけでは解決しないときは3人だけでZoomで集まって教え合ったり,ゼミで発表する前に同期の前で発表して聞いてもらったりもしました。同期の2人とこのように励まし合わなかったら2年で修了できなかったかもしれないと思っています。2人には本当に感謝です。
 さらに助けていただいたといえば,田中ゼミ定例会の存在でした。田中ゼミでは,毎月定例会があり,そこで話題提供者として自分の研究の進捗や関係する先行文献を紹介する機会があります。指導教官である田中先生,そして後期修了された諸先輩方に,迷走している自分の研究計画や進捗を発表するのは、なかなか勇気がいることでした。しかし,発表した際にいただいた助言が本当に助けとなりました。自分の狭い視野で見ていた研究の可能性を拡げていただいたり,最後,口述試問で審査いただく副査の先生方を想定して,専門が違う場合でもわかる説明の配慮が必要であることを諭されたり,根本的かつ実践的な助言をいただける場でした。修了後もゼミの定例会には参加させていただいていて,引き続き学問へのモチベーションを得る機会となっています。

3. 先行文献との格闘 − 身に染みた「巨人の肩の上に立つ」の言葉

先行文献を読み進めていくことも大変だったことの一つでした。私の研究テーマが日本語の文献があまり多くなかったこともあり、英文の文献を探し読み進めるのにとても時間がかかりました。一つの文献で引用されていた文献をさらに読み進めていく。どんどん読まなくてはならない文献が溜まっていき、一体どこまで読めばいいのだろうかというプレッシャーで焦りました。また,文献を読めば読むほど、まだ探せてはいないけれど、自分がやっていることは既に先人がおこなっているのではないかという不安もいつも感じていました。国立国会図書館オンラインやカーリルもよく利用し、時間があれば直接図書館に行き、なければオンラインで取り寄せました。コロナの影響で図書館に行くのも事前予約が必要、オンラインの取り寄せにはかなり時間がかかり忘れた頃に届くこともしばしばあるという状況で、読みたいときに読めない苦労がありました。
 これらの先行文献との格闘については,効率的な英文論文の読み方,テーマの絞り込み,文献の検索や整理ツールで解決していくことができました。
 英文論文の効率的な読み方を昔の恩師に改めて聞き,AbstractとConclusionを最初に丁寧に読んで自分のテーマに沿っているかどうかを見極め,さらに引用数とインパクトファクターも参考にしてなるべく関係が薄そうな文献は後回しにしたり,読まない決断をしたりしました。
 無限に拡がりそうだった先行文献の範囲も、研究スコープを自分ができる範囲に絞り込んだ方がいいとゼミで具体的なアドバイスをいただき、落ち着かせることができました。オリエンテーションでも先生方から言われた言葉ですが、Google Scholarを開くたびに目にした「巨人の肩の上に立つ」の言葉が本当にその通りであると心に沁みました。先人がやってきたところに少しでも何か新しいことがわかればそれでいいのだと悟るまで苦労が続いた日々でした。
 文献の検索では、CiNiiやGoogle Scholarはもちろんですが、有料論文もしばしば読む必要があったので、大学経由で有料論文のアクセスができる「学認」の利用や、ResearchGateという研究や論文を紹介し合うSNSで、著者に直接フルテキストのリクエストをすると論文や草稿を送ってくれるツールも利用しました(著作権の問題やそもそも返事が来ない場合もありましたが…)。また,文献の整理には、Paperpileというアプリを利用しました。タイトルや著者名で本や論文を検索し、文献の情報リンクを追加してファイリングするような感覚で使うものです。カテゴリー別に整理もでき、ここまでならExcelで自分でも整理できるかと思いますが、いろいろ便利な機能がついていて,特にCitation(引用)ボタンを押すと指定したスタイル(たとえばAPAとか)で引用文献の記述の方式で書き出してくれるのでコピペすればよく,時短になりました。有料ですが、アカデミックは月2.99ドルなので、2年間限定と考えれば、結果的に多くの文献を整理することになった私にはとても費用対効果の良いものでした。

4. データ、分析手法に関する格闘 – 御作法の習得にも時間がかかる

私の研究テーマと内容では,定量的な分析ができるほど研究参加者を集めることが難しいことが予想されたので、M1の冬は,質的データの分析方法について調べ,どの方法が一番向いているかを検討することに時間を費やしました。分析方法が決まるまで1ヶ月くらいかかったかと思います。最終的にSCATという手法でインタビューデータを分析することにしたため、実際にその分析方法を使った論文もかなり読みました。前述の同期の仲間は定量分析だったので、この部分については自分で進めるしかなく,迷った時は本や論文を参照してやり方を確認するという作業を何度も繰り返しました。ちなみに同期たちの定量的分析の場合でも、どの分析方法を用いるか、出た値は何を示しているのか、何回も試行錯誤を繰り返していたので、定量・定性関係なく、集めたデータの分析には時間がかかるということを実感しました。仕事上でもマーケティングの在籍期間が長いので、環境分析、仮説構築、調査、分析、提案という流れで仕事をしていましたが、GSSCでの前期課程2年の学びを経て、より精緻な研究の御作法が身についたと思います。

5. 最後に

修士論文をまとめ無事修了できたのは、田中堅一郎先生、副査の外島先生,和田先生,田中ゼミの諸先輩方によるご指導,同期の仲間の助言、励ましのお陰です。本当にありがとうございました。また、職場上司,同僚や家族の理解,協力にも感謝しかありません。ここでの経験を忘れずに今後も組織や学会を通じて、自身の研究テーマについてインプットとアウトプットを繰り返していきたいと思います。




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