亀歩当棒の2年間

文化情報専攻 2021年度入学 2022年度修了 後藤 康人

 

はじめに

「修士論文奮闘記を書いてみませんか」と島田めぐみ先生からお声掛けをいただき、少しばかりの戸惑いもありましたが、これからGSSCで学ぶ後続のどなたかの励みになればと思い、引き受けることにしました。振り返ってみれば甚だ不器用で、速力に乏しい、まさに亀の歩みのような2年間でしたが、手を伸ばして当たった先の棒を掴んで離さなかったことが完走の秘訣だったような気がしています。

出願前の研究室訪問(2020年秋)

30余年勤め続けた会社を早期退職する決意を固めたのち、大学院出願にあたって教授との事前面談の機会をいただいたのは、2020(令和元)年9月30日のことでした。ざっくりではありましたが、研究領域とテーマは決まっていたので、前々からその教授(のちに指導教員になっていただく野口恵子先生)の門を叩くことしか考えていませんでした。古代日本の文献に登場する亀(特に祥瑞とされた亀について)の生物学的な解釈と、古代人の心情理解という、2方面から調査研究を試みてみたい。亀は日本人にとって自然存在であると同時に文化的存在という一面も持ち併せます。なぜ古代人が亀を特別視するようになったのかを解き明かしたい。持参した(いまから思えばお恥ずかしいレベルの)研究計画書をお見せすると、野口先生から「やってみましょう」と心強いお言葉をいただき、それが2年間を通じての推進力となりました。GSSCホームページにあった「院生にとっての修士論文は、それを書いた時の生き様を映すものだと考えている」という先生の一文にも奮起させられました。

コロナ禍のなか過ぎていった学びと執筆の日々(2021年春~2022年夏)

2021(令和3)年4月8日。この日は武道館からオンライン配信された日本大学の入学式を自宅のPCで視聴していました。各種制限で人影まばらな会場の映像に衝撃を受けつつも、2年間の大学院生活への期待で胸が高鳴ったことを今でも鮮やかに思い出します。5月の対面スクーリングが、やはりコロナの影響で中止になってしまったことはとても残念でしたが、くよくよする暇もなくNUCCSの操作方法を覚え、履修科目登録を済ませ、manabaを駆使して先生方へのリポート提出あるいは受講生間で意見交換を進めてゆく日々が始まりました。昭和の終わりに学部生時代を送ったオールドタイプにとっては目新しいことばかりでしたが、在宅での学習方法に少しずつ慣れながら、同時に修論作成のための資料収集も始めました。コロナの影響で(学部生だったときの母校の)大学図書館が使えなかったり、地元の公立中央図書館が改修工事で長期閉館だったりと、想定外のアクシデントに何度も直面しましたが、それでも国立国会図書館、国立公文書館、東京都立図書館、そして地域の公立図書館と、目的に応じて実際に足を運び、引用資料あるいは参考資料を読み漁ったことは、のちの理解度や成果に直結したと感じています。

修論完成間近に学会発表を経験(2022年秋冬)

文献資料や先行研究の収集、それらの比較検討に時間を費やしたのち、論文の章立てに七転八倒しながらも何とか自分の考察から結論めいたものが見え始めた時期が、大学院生活2年目の夏から初秋にかけてのことでした。ひたすらPCに向かって入力する日々。よし、これで何とか年内に終章までたどり着けそうだと、ほんの少し安堵し始めた矢先の11月上旬のことでした。野口先生から「せっかくなので来年1月の学会で口頭発表してみましょうか」と、思いもよらない提案をいただきました。先生の勧めもあって、自身の勉強のためにと1年次から入会していた上代文学会(1952年に創設された古代日本文学を研究対象とする学会)の例会で、修士論文の内容を1時間ほど口頭発表する機会を与えていただいたのです。錚々たる研究者の方々の前で、初学者の研究内容が果たして通用するのだろうかと悩みましたが、せっかくのチャンスを無碍にするのはあまりにも惜しい。たとえサンドバック状態で叩かれまくったとしても、それもまた経験だと開き直って(コロナ対策のためオンライン発表会になったことも少しだけ気持ちを楽にしてくれました)、最終的には「ぜひやらせてください」と返答させていただきました。修論(全60頁)は最終段階に入っていましたので、それを口頭発表用に再構成し、最終的には12月末に図表含め全26ページの配布資料を作り上げました。2年間で心身ともに最もハードな日々でしたが、同時に何物にも代えがたい充実した時間を送ることができました。

学位取得は始まりの終わり(2023年春)

GSSC生活の総仕上げとなった最後の3か月間は、学会の口頭発表、残った受講科目のリポート提出、そして最大の関門であった修論の提出から口頭試問へと、気の抜けない毎日が続きました。学会発表の場ではふだんなら教わる機会のない高名な先生方から、そして修論の試問会場ではmanabaでお世話になった諸先生方から、多角的に深く鋭いご指摘を頂戴し、新たな気付きと同時に自分自身が研究の裾野に連なって立っていることを実感しました。数々の得難い経験をさせてもらったこと、指導教員の野口先生はじめGSSCの諸先生方には感謝の念しかありません。兎のようにスマートに駆け抜けることはできませんでしたが、亀の歩みで修論を最後まで書き上げ、50代半ばを過ぎて自分が志す学問の一丁目一番地に立てたという実感は何にも代えがたい体験となりました。ただし、学位取得はあくまで自分にとって探求の一里塚にしか過ぎません。あいかわらず亀の歩みではありますが、自ら課題を発見し、調査研究を行い、それを発信してゆく活動を続けてゆきたいと考えています。GSSCの出身者として、そして文化情報を専攻した者として、今後も精進してゆく所存です。

「奈良県明日香村の亀形石造物」




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