数々のチャレンジを積み重ねた博士後期課程

博士後期課程総合社会情報専攻 17期生 二瓶 哲

2022年3月25日。午前は日本武道館における卒業式、午後は市ヶ谷キャンパスにおける学位記伝達式に出席いたしました。博士号の学位記をいただいたときは、ズシリと重く感じるとともに、学位取得までのあらゆる出来事が走馬灯のように蘇ってきました。

博士後期課程は、様々なチャレンジの連続でした。それぞれのチャレンジの過程では、嬉しさ、苦しさを味わいながら前進してきました。今振り返ると、かけがえのない時間であったと感じています。ここでは、特に思い出深いチャレンジに絞ってお伝えしたいと思います。

1. 査読付き論文の採択へのチャレンジ

博士号の学位請求論文は、一定期間にわたり後期課程に在籍すれば提出できるわけではなく、定められた複数の条件を満たすことが必要です。研究実績においては、査読付き論文の採択がその一例として挙げられます。

学会誌に論文が掲載されるためには、査読というプロセスを経て最終的に採択される必要があります。査読プロセスは、投稿された論文に関する分野の研究者が当該論文について学会誌の掲載に値するか否かを審査します。私の認識に基づき簡略的に説明すると、編集委員の先生(以降、編集委員と称します)が論文を査読する先生(以降、査読者と称します)を複数名選定し、査読者が論文を審査します。そして、査読者の審査コメント等に基づき、編集委員が論文掲載の可否を決定します。ここで不採択という結果が出されると査読プロセスは終わります。その場合、基本的には別の学会誌に投稿する(同じ学会誌に再投稿できる場合もあります)、あるいは投稿自体を諦めるといった検討をすることになります。不採択ではない場合でも、いきなり採択されるというのはまれであり、多くは論文の修正を求められるようです。私の場合は、数多くの修正に関するコメントをいただき、一つひとつ真剣に対応していきました。コメントに対応すれば査読プロセスをクリアできるのかというと必ずしもそうではなく、(コメントに十分に対応していないと判断された場合は)結果として不採択になることもあります。私がまさにそうであり、修正再投稿、不採択という審査結果を複数回経験しながら採択に至りました。特に修正再投稿の後に不採択通知を受けたときは、論文投稿から数ヶ月間という時間が過ぎているため、「これまでの努力は何であったのか」と落胆してしまい、しばらくは心理的に苦しい状況が続きました。しかしながら、査読プロセスにおいて出されたコメントには、論文を良くするためのポイントがたくさん含まれているので、諦めずに次へ向かうという思いで論文をブラッシュアップし、新たに投稿しました。こうした経験を経てきたことから、最終的に採択通知を受けたときは、思わずガッツポーズをとり叫んでしまいました。

採択された論文は、掲載に向けてレイアウトの修正や誤字脱字のチェックを行います。私は「いよいよ投稿した論文が学会誌に掲載される!」とワクワクした気持ちで取り組みました。そして、論文が掲載された冊子が届いたときは、手に取りながらずっと眺めていました。それ程、私にとって査読プロセスを突破するのは大変なことでした。

2. 国際会議発表へのチャレンジ

世界中の研究者や関係者が集結して研究成果を発表し合う場として国際会議が挙げられます。よって、このような貴重な場に参加することには大きな意味があると考えます。私が2年次のときにICAP 2018(29th International Congress of Applied Psychology)という応用心理学分野の大きな国際会議がカナダのモントリオールで開催されることを知り、海外で発表できる良い機会であると捉えチャレンジすることを決意しました。申込に際しては、発表の要旨を提出、要旨の内容は審査され、発表できるか否かが決まります。結果として採択され、カナダに向かいました。

ICAP 2018での発表形式は複数あり、私はポスター発表(研究内容を記した大きなポスターをボードに貼り付けて発表するという形式です)を行いました。ポスター発表の場合、聴き手がいないとポスターの前で立ち尽くすことになるので、「ポスターに興味を持ってくださる方がいなかったらどうしよう」と心配しましたが、結果として一定数の方々がポスターの前で立ち止まってくださり、与えられた発表時間のほとんどにおいて話し続けていました。これまでの内容から、私は英語で普通にやり取りしていた、というイメージをお持ちの方がいらっしゃるかもしれませんが、私は英語が得意ではありません。何度も発表練習をして、発表当日は冷や汗をかきながら行いました。発表を終えると「何とか乗り切れたかなぁ」と感じつつ、一気に疲れが出てきました。カナダでの発表は私にとって大変貴重な経験となりました。

3. 学位請求論文執筆へのチャレンジ

学位請求論文は、題目に基づき、積み重ねられた複数の研究成果をもとに内容を取りまとめていきます。よって、個々の研究の位置関係に整合性がとれていないと構成が成り立たなくなってしまいます。学位請求論文を提出するための条件の一つとして、予備試験において学位請求論文の内容(主に骨子となる部分)を発表し合格することが挙げられます。私は論文の要点を多くの付箋紙にまとめ、大きな紙の上で何度も動かしながら論文内容を組み立てていきました。その後は、スライド作成と発表練習を行い予備試験に備えました。予備試験では論文の内容として加えることが望ましい項目について先生方よりアドバイスをいただき、何とか合格することができました。

そしていよいよ具体的な執筆段階に入ります。学位請求論文が最終的な審査をクリアすれば博士号の取得につながります。一方、最終的な審査で認められなければ、今後は同じテーマで学位請求論文を提出することができないと私は認識していましたので気が引き締まりました。初めのうちは、論文を第1章から順に書こうとしましたが、どうにも筆が進みません。他の後期課程の学生の方はどのように執筆しているのだろうと調べてみたところ、「とにかく書けるところから書く」というアドバイスが記されていたので、ある日は第3章、そして次の日は第1章と、章立ての順番に関わらず執筆していきました。この方法は私に合っていたようで、執筆が少しずつ進みました。また、これまで論文として発行された内容の章であれば、比較的スムーズにまとめられるのではないかというイメージを執筆前に抱いていましたが、そうはいきません。学位請求論文の構成に合わせて執筆し直すことが必要であるため、かなりの時間を要することになりました。こうしてまとめた(最終章である総合考察を除いた)各章を今度は一連の流れがつくられるようにつなぎ合わせていきます。ここでも多くの時間がかかりました。

最後に執筆するのは最終章である総合考察です。これまでの章において述べられたことが結果としてどのような学術的な価値を創出するのか、研究成果を社会においてどのように役立てていくのかをまとめていきます。先生より、総合考察は極めて重要である旨のアドバイスをいただいていたため、最も多くの時間を費やしました。かなり悩みながら、そして何度も修正しながら何とか書き上げました。ここまでくると、学位請求論文としてのかたちが整ってきました。この時点で草稿として先生に提出いたしました。時期は8月の下旬頃であったと記憶しています。「大幅な修正が求められると厳しい状況になってしまうかもしれない」と不安を抱えながら先生によるコメントを待ちました。結果として草稿をベースに提出に向けて論文を仕上げていくことになりました。学位請求論文の提出は10月であるため、残る約2ヶ月間で微調整、引用箇所のチェック、誤字脱字の確認・修正を行いました。この行程では論文を何度も精読することが求められます。ひと通り読み終えて修正作業を行うのに数日から1週間程の時間を要しました。このサイクルを7~8回程度繰り返しました。何度精読しても修正箇所が数多くあるため、次第に気が滅入ってきました。それでも何とか乗り越えようと必死で取り組みました。博士論文は公開されるため、仕上げには大きなプレッシャーを感じました。

学位請求論文を提出した後になされるのは最終試験(口述試問)です。ここでは、自身の学位請求論文についての発表を行うとともに、あらゆる質問に答えることが求められます。試験前日は会場近くのホテルに泊まり、何度もプレゼンテーションの練習を行いました。また、質疑の対策も行いました。最終試験ではかなり緊張しましたが「これまで頑張ってきたのだから」と自分に言い聞かせて臨みました。最終試験が終わると学位請求論文の最終提出に向けた修正があります。これが最後の段階なので気合を入れました。最終的な審査結果(合格)の通知を受けたときは部屋の中で大の字になりひっくり返ってしまったことを覚えています。

4. 博士後期課程を振り返って

私は博士後期課程で5年間、同課程に入る前には研究生として在籍していたときもあり、その期間等を含めると約8年間、博士論文のテーマである職場交流活動の研究を行ってきました。振り返ってみると、博士号の取得につながる様々な要因があったと感じています。

まずは、あらゆる方々によるサポートです。紙面の関係により、ここでは、特に所属していたゼミについて記します。指導教員である田中堅一郎先生にはゼミの定例会はもとより、メールや研究室訪問により、多くのアドバイスをいただきました。ゼミの先輩方には論文投稿で不採択になり先行きが見えなくなってしまった時に「これを読んでみたらどうですか?」と参考資料を送付してくださったり、研究の疲れが溜まったときにリフレッシュする機会をいただいたりといろいろと支えていただきました。また、後期課程および前期課程の方々とのやり取りを通して元気づけられたり、刺激を受けることも数多くありました。研究を行ううえでは、人と人とのつながりが大変重要であることを強く感じました。

次は時間管理です。社会人として仕事をしながら研究活動を行うのはかなり大変でした。仕事を終え、22時頃から眠い目を擦りながら論文を読んだり、データ分析を行ったり、論文を執筆することが多かったと記憶しています。気づいたらしばらく寝ていたといった経験も数えきれないぐらいあります。このため、自身に強い心理的なプレッシャーをかけることで、少しでも前進するような働きかけを行いました。その具体的方法の一つとして、先生に比較的早い段階から、例えば「〇月〇日までに□□の書類を提出いたします」といったような宣言をすることが挙げられます。宣言したからには間に合わせる必要があるため、何としてでもやり遂げようと行動することにつながります。心理的にはかなりのプレッシャーですが、結果として研究を進めていくための大きな推進力になったと思います。

体力も大切な要因であると捉えています。私の場合、仕事をしながら研究を行うには相当なパワーが要りました。よって、体力がないと成し得ません。そこで私はよくジョギングをしていました。ジョギングは運動になるばかりでなく、頭の疲れも解消された感じがして私にとってはとても効果的な方法でした。

最後は諦めないことです。どんなに辛いときでも、私自身が博士号を取得して様々な活動をしている姿を思い描きながら気持ちを高めていきました。また、小さな前進が見られたとき(例えば、先行研究の整理が一区切りついた、調査票の案が完成した等)は大いに喜ぶようにしました。このように自身のメンタルが良い方向に向くように働きかけ続けました。

博士号を取得できたのは大変嬉しいことです。しかし、それがゴールではありません。むしろ、スタートラインに立った状態であり、これから博士号取得者としてあらゆる研究を行っていきたいと考えています。また、社会人として仕事を続けながら研究を行ってきた経験を活かし、学術分野と実業界を橋渡しすることで社会貢献につながる取り組みも積極的に行っていきたいと考えています。




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