知の探究

人間科学専攻 20期生・修了 山岸 輝子

■学びのきっかけ

わたしが大学院へ進学しようと思ったきっかけは、いくつかありますが、大きなきっかけの一つは当時の就業先が国際協力業界で、バングラデシュはダッカでテロ事件があり、日本人やイタリア人など外国人が死傷したことでした。東京本社勤務をしていた当時は、社員が被害に遭っていないか、情報収集と安否確認に奔走しました。テロ事件を起こした犯人グループの中にはまだ高校を出たばかりの少年もいて、テロ事件の数か月前までごく普通の生活を送っていたと少年の家族に近しい人から聞き、なにがきっかけで人を殺害する動機に至ったのか、と素朴な疑問が湧きました。
 もう一つのきっかけは企業の人事担当として職場のハラスメントをいかに解決すべきかと悩んでいました。
 人はなぜ他人に害を及ぼすのか、そもそも生来より加害する意識を持たないのか、あるいは加害の自覚があってもやがて理性が失われるのか、そうした答えのない疑問を日々、自己の中で反芻していました。
 もともと人の心理には興味を持っており、より深く学んでみたいとさらに強く思うようになりましたが、学びへの行動に移すことは少し時間が掛かったかもしれません。仕事と両立できるのか、自分にレポートやましてや論文なぞ書けるのだろうか、経済的にはどうか、などいろいろと悩んでいましたが、恩師から「人は生きている限り学ばなければならない。あなたはまだ人生の半分も生きていない、まだひよっこじゃないか。しっかりやりなさい」と喝を入れられ、進学を決意しました。

■進学、在学中

とにかく学校に連絡を取らないと始まらないと思い、日本大学に心理学を学びたいと連絡したところ、私が興味を持つ領域の指導教員として田中堅一郎先生をご紹介いただき、そこからすべてが始まりました。オープン大学院で実際にお会いし、その後、受験準備を始めました。進学してからはレポートを書く準備に追われ、研究したいことは自覚があれど、ではどうすれば論文に落とし込めるのかが分からず、仕事の合間を縫って先生の研究室を訪問し、無知なわたしを根気強くご指導いただきました。論文の題名は「特権意識に及ぼす自己愛傾向と自己像の不安定性の影響−職場環境の労働者を対象として−」ですが、ここに至るまでは相当の時間を要しました。研究手法はアンケート調査を実施しましたが、回答に快く応じてくださった同期をはじめ、研究室の皆さんにご協力を頂き感謝に堪えません。
 レポートを書く際は、なるべくまとまった時間を取るようにして関連領域の論文や資料を読み込みました。また先生を通じて学会に入会することもあり、それも視座を高めることにつながったと思います。論文を読むなど、それまではなじみのないことでしたが、やはり興味を持つ領域の論文や参考図書は面白く夜通し読んでいると、翌日の勤務は眠気に逆らうことで必死でした。レポートの提出にかこつけて先生に少々、レポートの内容から外れた心理領域の質問をすることなど致しました。そうしたことを積み重ねつつ、わたしなりに人の心理はいかに変容するかについて学びを深めました。
 しかしながら、わたしは時間の多くを学業に注ぎ込むほど高い精神力はありませんし、むしろさぼり癖がある性分です。机に向かって論文やレポートについて頭を悩ませている一方、遊ぶことも大いに楽しみました。土曜朝から夕方までレポートを書き、夜行バスに乗って日曜早朝から南アルプスの3000M級の山に登頂し、帰宅後またレポートに取り掛かったり、週1-2日は武道の稽古をする時間に充てていました。そのほかは瀬戸内海でサイクリングをしたり砂漠の国ヨルダンに行くなど、とにかくいろいろ詰め込んだ日々でした。忙しいけれど却って、仕事も勉強も趣味にも時間を有効に使い、そして何よりも一つひとつを楽しんでいたと思います。そして何事も楽しむことはわたしの知的好奇心が大いに刺激され、知の探求へと繋がりました。
 わたしは修士を修了し、確かに一区切りついたのですが、やはり人は生きている限り学びを続けないとならないと思います。知への好奇心、探求心は持ち続けて歩みたいと思っています。

■おわりに

今回、思いがけず修士論文奮闘記の執筆依頼を頂き、修士課程に進んだきっかけと在学中をいかに過ごしていたかを振り返る良い機会をいただいたと思っています。
 わたしは今年2021年3月、田中堅一郎先生ご指導のもと無事に修士の学位を取得することができました。また泉龍太郎先生からもご助言、ご指導いただきました。わたしは自分の研究室だけではなくほかの研究室に所属する方々と交流を深めることができ、それもまた自身の知への探求心が醸成されるきっかけになりました。
 先生、諸先輩方、同期の皆さんにこの場を借りて心より御礼申し上げます。




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