人生100年時代 ― 仕事と学びの循環
国際情報専攻 21期生・修了 高﨑 俊哉
この文章が「なぜ社会人として大学院に進学したのか」「実際やってみてどうだったのか」、こうした観点に関心のある方々に参考になれば幸いです。
社会人学習に関心を持ったのは2018年/54歳、新卒入社で総合商社に入って30年経ったあたりで、セカンドキャリアを意識し始めたころです。社会の潮流としては「個人」により光があたる流れがはっきりしてきた時期です。IT革命の進展の影響を受け、「社会と個人」の関係、「企業と個人」の関係、いずれにおいても「個人」へのパワーシフトが通底したキーワードになってきました。個人がSNSで社会に発信する、終身雇用の前提が崩れ個人が自分の価値観で主体的にキャリアを組み立てる、副業が広がる、起業の動きが加速する。このような構造的な変化が日本においても動き始め地殻変動が生じていました。こうしたなかでリンダ・グラットン氏が「ライフシフト」という書籍を通じ人生100年時代に個人として主体的なキャリア形成を行う人生を提言しベストセラーになりました。私はこの書籍に触れて「仕事と学びの循環」という考え方に触発されました。
私が日大の大学院に在籍したのは2019/2020年の2年間です。日本大学の大学院を知ったのは会社の先輩から階戸照雄先生をご紹介されたことが契機でした。お話を伺いファミリービジネスの知見の深さが印象的でした。私の30年間の仕事経験は多岐に亘りますが事業開発の領域が3分の2程度を占めており、この経験をセカンドキャリアで活かそうと考えていました。この考え方をファミリービジネスと組み合わせたら興味深い研究ができるかもしれないと着想しました。「ファミリービジネス×事業創造」という捉え方です。50歳半ばというタイミングで大学院にチャレンジすることは、仕事との両立上負荷が大き過ぎるかもしれないが、今だからこその意義があるだろうと考えて、思い切って決断しました。
2年間の修士課程を振り返って、実際はどうだったかに触れます。総括すると、狙ったとおり意義のある2年間であったということができます。私は国際情報専攻で階戸先生のゼミに所属しましたが、進学にあたっては3つの切り口を意識しました。①30年間やってきた実業知識を体系化する、②セカンドキャリアに向けて学習する(ファミリービジネス、事業創造など)、③異業種交流を行う。この3つです。振り返るとこの3点全てにおいて、意義のある時間を体験できたと考えています。
①については、国際情報専攻での必修科目と選択科目(ファミリービジネス、事業創造、人材マネジメント等を選択)のリポート作成をこれまでの総括のつもりで取組み自分の考えも含めて体系的に整理できたことは有意義でした。②については、修士論文で取り組むことを予定していましたが、大学院入学直後に介護系ビジネスに転身することが決まったため、急遽軌道修正を図ることになりました。修士論文でもこの考え方をできるだけ大事にしたので意味はあったと思っています。③については、リンダ・グラットン氏の指摘する人生100年時代における「インタンジブルな価値」を強化するという点で意味があったと思っています。階戸ゼミの方々との交流はOBを含めて20名超のネットワークです。全国からさまざまな職業背景をもつ方々、男女・世代が多様な方々との交流です。社会人として学ぼう、という志を共有していますのでまとまりがありますし、普段の仕事では接点を持ちえないコミュニティですから、相互触発の刺激がありました。
修士論文では「日本の介護領域の現状と今後の方向性についての一考察」をテーマとしました。自分の新しい仕事で活かすことも意識したテーマです。作成にあたっては、①言いたいこと・ストーリーラインを意識する、②そのうえで先行研究やエビデンスになる素材を集める、③論文として成立するように文章を組み立てる、という3段階を意識しました。とくに最後の③の段階では、①・②に行きつ戻りつを繰り返し時間を要しました。
全体を通じて苦心したことをひとつ挙げると「時間の捻出」です。仕事に影響を与えない、家族にもできるだけ迷惑をかけない。この2つを原則に置きましたので、特に仕事では生産性を上げるよう知恵を絞りました。日常のサイクルとしては「早朝の時間」(朝3時以降から出勤まで)と「週末の時間」を学習に充てると決めて日々のリズムをつくりました。振り返ると、この時間マネジメントが社会人学習の大きなポイントだったと感じています。
社会人大学院での学習は、時間・費用ともに大きな投資ですし個人として思いきった判断となります。私の場合「悩んでいる時間があるくらいなら行動してみる」という考えで飛び込んでみましたが、この判断は間違っていなかったと実感しています。
前述のように、大学院進学時の仮説は「ファミリービジネス×イノベーション」です。この考え方で社会価値を生み出したい、それをセカンドキャリアにしたい、ということにありました。この課題はまだ積み残していますので、今後もゼミにOBとして参加を継続させていただきながら、具体的な道を模索していきたいと思っています。