多くの師と仲間を得た2年間

国際情報専攻 20期生・修了  前田 千文

今回、指導教官の丸森一寛先生から修士論文奮闘記の執筆依頼を頂き、自分自身の振り返りと、今後、修士課程に進む方の参考になればと思い、記憶をたどりながら書いていきたいと思います。

日本大学大学院総合社会情報研究科に在籍していた2年間はあっという間でした。終わってみたら、修士論文に「もっとこれを追加したら良かった」とか、「こういった別の視点でも分析したほうが良かった」と思う事が多々ありました。ただ、一つ一つはやりきった満足感はあります。

私は2018年4月に大学院へ進学しましたが、2017年12月上旬の時点で大学院に行こうとは思ってもいませんでした。そんな私が、なぜ大学院の門を叩いたのかについて書いてみたいと思います。

私の研究テーマは「タイの日系企業における労務施策とその影響」でした。このテーマを選んだきっかけですが、私の経歴と深く関っています。私は2001年にタイで起業し、翻訳会社、通訳派遣会社、出版社を経営しています。経営者という立場上、タイの法律の理解は必須であり、実務という分野で法律と関わってきました。2015年8月から、会社経営の傍ら日系企業の法人代表者向けにタイ労働法の講師を務めるようになりましたが、講義を行う中で「労使問題において、法律を使う前に出来る事があるのではないか」という矛盾を覚えるようになりました。講師としてタイ労働関連法を教えれば教えるほど、法律で対処は可能ですが、労働争議が発生した原因と、その結果を考えると、係争になる以前に防ぐことは出来なかったのかと感じるようになりました。この疑問がきっかけとなり、労務問題解決のきっかけになればと考え、大学院へ進学しました。

大学院の進学に際し、通常は年に数回開催される大学院の進学相談会や、毎年10月ごろに行われるオープン大学院に参加し、そこから進学という手順を踏むと思います。私の場合は、2017年12月15日になって初めての問い合わせとなり、出願まで時間がない中、かなり遅いスタートになりました。研究のテーマを相談した上で、指導教官を選びますが、私の中で、1番最初に連絡をくれた先生の研究室に入ろうと決めていたので、その時に連絡をくれた丸森一寛先生のゼミを希望しました。入学後に、この話をしたところ丸森先生から「担当なので連絡をした」という事でしたが、それも含めご縁だと感じました。

真夏のタイから真冬の日本での論述・口頭試験を経て、晴れて2018年4月から大学院生となりましたが、その際に決めたことが3つありました。1つ目は、必ず2年後の2020年3月に終了すること。2つ目は、履修科目は期限内に提出すること。3つ目は、ゼミには必ず出席すること、です。2年で終了するという事は、履修科目を終えた上で、かつ修士論文を書き上げないといけません。この3つをやりきるために、優先順位を2年間だけ会社経営から大学院生にし、綿密なスケジュールを立て実行しました。

1年次は5科目まで履修登録ができるため、修士論文の執筆と自分の実務に役立ちそうな科目を5つ選びました。研究の中でアンケート調査をすることを最初から想定しており、分析をする必要性があったことから「統計学」を履修しました。統計学は、全く経験がないことでしたので、毎日の学修にかなりの時間が掛かりましたが、修士論文の執筆にあたり、実際に調査を行い、結果を分析する際に大変役立ちました。どの科目も、締め切りの1か月前に初稿を提出するようにと指導を受けますが、より多くの指導時間を得るため、かなり前倒しで初稿を提出しました。初稿で合格をもらう事はほとんどなく、何回かの修正を重ね、推敲して最終稿を提出するため、より多くの指導時間を得るためにも、早めの提出を心掛けました。2年次に修士論文に集中できるよう、1年次に5科目履修したことは大きかったと思います。

2年次は、1科目だけ履修しました。残りの時間は修士論文に集中できました。ゼミは皆勤賞で、出張先や旅行先からオンラインで参加し、実際に先生やゼミ生に会ってゼミを受けたのは2回だけでした。実際に参加できないことをデメリットとは思わず、それをメリットにしようと、ゼミの前に疑問点や課題は明確にし、ゼミで指導を受けたことは、ゼミの終了後にすぐに反映させるようにしました。オンラインですので、移動時間がない分、時間の有効活用を心掛けました。

 修士論文の執筆は、先生の指導を受けながら大まかに次のような工程で進めました。
  1.先行研究を調べ表にまとめる。
  2.仮説を構築し、作業仮説として細分化する。
  3.企業へのアンケート調査票を作成する。
  4.アンケートを回収し、分析する。
  5.分析結果をまとめる。(仮説の検証)
  6.検証結果をまとめる。(考察)

この工程で進めましたが、この中で一番時間を要したのが「仮説の構築」でした。先生が「仮説構築が一番重要」と再三おっしゃっており、仮説を作るのに4ヶ月要し、修正は10回に及びました。仮説が完成したのは、2年次の2019年8月でした。修士論文は12月下旬が締め切りで、実質8か月しか時間がありません。企業へのアンケート調査も2019年9月に開始しましたが、回収まで1か月かかり、実際に分析が出来たのは10月下旬に入ってからでした。当初から早め早めで行動していましたが、時間が足りなくなってしまい、11月下旬にもなるとほとんど仕事もせずに修士論文を書いているような状態でした。毎年12月は挨拶回りもあるため、出先に資料を持ち歩き、空いた時間に検証結果の「考察」を書いたことも良い思い出です。

修士論文を執筆している間は、どんどん深みにはまっていき視野が狭くなりがちでしたが、先生やゼミ生のアドバイスのお陰で、新たな視点を得られました。修士論文を通して、自分の経験や感覚として持っていることを、理論化し数値化できたことは貴重な経験でした。そして、大学院という場を通じて多くの師と友を得たことが大きな財産となりました。唯一残りなのが、コロナの影響でタイから出国できず修了式に参加できなかったことですが、これも思い出の一つです。

最後になりますが、この2年間、専門分野外にも関わらず熱心にご指導いただいた丸森一寛先生、多くの議論を交わし新たな知見を与えてくれたゼミ生、相談に乗って頂いた先輩方、励ましてくれたバンコク桜門会の同窓生の皆様、そして研究をサポートしてくれた夫と社員のお陰でやりきることが出来ました。この場を借りて改めてお礼を申し上げます。




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