私たちは「変化の時代」に何を求められているのだろうか

国際情報専攻 加藤 孝治 教授 

 少子高齢化,情報技術の進歩など,日本経済を取り巻く環境変化によって,企業経営に必要とされる資源(ヒト,モノ,カネ,情報)の内容も大きく変化しています。現在、私たちが直面している環境変化は,企業だけでなく利用者から見ても大きな変化に繋がっています。また、同時にサービスを提供する企業も変化しているため,それが再び,企業が提供するサービスを利用する利用者が、そのサービスの利用の仕方を変えていくという「技術革新が生む永遠に続く進化発展のループ」に私たちは乗っかってしまったのではないかということです。これからの社会の大きな変化は,サービスを提供する企業に影響を与えるだけでなく,そのサービスの利用者にも影響を与えていくというスパイラル的な状況で、加速度的に変化していくことになるのでしょう。
 例えば,私たちは,20世紀には見たこともなかった「スマートフォン」を普段から使用するようになり,今までは見過ごしていたような情報にも簡単にアクセスできるようになりました。この消費者の変化に対応するために企業は,スマホアプリを開発し,自社の利用者により便利な環境を提供する競争を繰り広げています。その競争の結果として,消費者にとって,スマートフォンはより一層便利な道具となっているのです。情報端末はプライベートに使用されるだけでなく,ビジネスの効率化のシーンでも利用されています。多くの家電製品や電気機器,あるいは工場設備・店舗設備などをつなぐIoT(Internet of Things)が利用されるようになりました。かつては、アィデア段階で留まっていたことがどんどん実現しています。また,人工知能(Artificial Intelligence, AI)が私たちの知能を超える日(シンギュラリティ)が近づいているなどといわれたりもしています。

 こうした社会の変化の結果,私たちは今まで以上に自分の頭で考えることが必要になっています。技術進歩の一つひとつは,すでに起こったことであり,さらに変化し続けていることです。企業が利用することができる技術が変化し,企業に対する利用者の期待が変わることは,その企業に勤める従業員一人ひとりにも仕事の仕方を見直すことを迫っています。
 企業のビジネスモデルの変化が企業経営に与える影響を考えてみましょう。企業経営に必要なおカネを基準に考えると,企業活動を行うために必要となる資金需要の性格を変化させることにつながることがわかります。これまで企業が銀行から借りようとする資金の性格は,企業設備の購入や不動産投資など目に見えるモノを買うための資金,あるいは商品の仕入代金や従業員への給与の支払いのための運転資金などといったわかりやすいものでした。工場に設置するための機械などの設備資金を5年間で分割返済する条件での借入申込み,あるいは,販売活動に必要な商品を仕入れるために必要な資金を3か月の販売期間を経て返済するという短期運転資金の貸出などのような資金使途がわかりやすい借入でした。
 しかし,これからはそうはいきません。例えば,「現在,開発中の新たな技術を活かして新規事業を立ち上げたい。この技術は、(銀行員の)あなたは今まで見たことがないようなアイデアかもしれないが、(ベンチャー企業の経営者である)私には、この事業が,成功することが見えている。成功すれば事業は急速に拡大することは間違いない。そのための資金を貸してくれないか」というような借入申込みが来たと考えてみましょう。このとき,銀行員は,「アイデアから発生するキャッシュ・フロー」を予測することができるでしょうか。そのアイデアが5年後,10年後に社会に生き残るアイデアであるかを見極めて,成功するものであれば、お金を貸すだけでなく、株式を購入した方がいいかもしれません。こんな先のわからないアイデアに対して、どのように判断したらよいか、銀行員に求められる資質がずいぶん難しくなっているのです。社会の変化に取り残されず、利用者の期待に応え続けるために,私たちは常に情報を集め、感度を磨き続けなくてはいけないのです。
 今の社会が直面する変化は,これまでの30〜40年の時代の変化をさらに上回る抜本的な変化につながるでしょう。この変化の波に乗り遅れると,企業は生き残れなくなり、そこで仕事をしている従業員は失業してしまいます。この未曽有の変化の時代に,企業としての銀行が対応できるかどうか,生きるか死ぬかは,従業員一人ひとりの個人の対応力にかかっています。今、企業で働く人々には,時代を見極め一歩先んじて変化に対応できる人材となることが求められているのです。新聞紙上では、少子高齢化・人口減少により、人手不足だといわれています。実際に、今、4年制大学を卒業する多くの若者は就職先に困らない状況です。しかし、90年代後半から2000年代の初めには「就職氷河期」と言われ、就職先が見つからない若者がたくさんいました。
 働き方改革、新卒一斉採用の見直しなど、社会の仕組みは大きく変わろうとしています。今の時代を、後から振り返ったときに、大きな変化の入り口にあったということに気が付くのではないでしょうか。今後、技術進歩によって、再び「就職氷河期」が来たとき困らないように、不断の努力が求められるそんな時代に私たちは直面しているのだ、ということを再認識し、自己の研究をさらに深堀りしていきたいと考えています。

 

 

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