修士論文奮戦記
文化情報専攻 19期生・修了 清原 剛

 大学を卒業後30年以上が経過し、また、その間の仕事おいて、レポートのような文章を作成する機会がなかった私が、日本語教育に関する修士論文を書きあげることができた経過を入学前から述べることにする。

 入学試験にあたり、研究計画書の提出が求められたが、私の周りに大学院を修了した知人がいなかったため、どのように書けばよいのかわからなかった。そこで、大学院受験のための参考書を読んだところ、大学院は「社会に役立つ研究」を行うところだと書かれていたので、入学試験に合格するには、社会的にそれなりの効果が見込まれるテーマが必要と考えた。地域の日本語教室でボランティアとして複数の国の外国人に日本語を教えていた私は、「各国の学習者ごとの日本語教育のあり方」という、とてつもなく大きな漠然としたテーマを研究計画書に記載し、入学試験を受験した。このときの私は、「CiNii」等の論文検索サイトの存在さえ知らなかったため、先行研究を調べることなく研究計画書を作成したのであった。

 夏期スクーリングの初日1番目の講義において、研究及び論文には、「新規性」・「有用性」・「実現(実行)可能性」の3つが必要であり、また、「研究テーマが大きすぎる人が多い」との話があった。これにより、私のテーマが、実質1年半の修士課程で研究するにはあまりに大きすぎ、「実現(実行)可能性」に問題があることを初めて気づいたのであった。スクーリングでの各自の研究計画報告では、受験時のテーマで報告をしたものの、今後、テーマの変更を考えているとも報告した。

 9月に行われたゼミの夏合宿の研究計画報告で、テーマをこれまでと大きく変え「日本語教師の資質及び能力」に変更することにした。これは、スクーリング以降、「CiNii」等を利用して先行研究を調べ、実現可能性に重点を置いて決めたのである。その後、しばらくの間、レポートの作成に追われ、研究を進めることはできなかったが、12月になり、先行研究を調べていたところ、自分の考えていたものと一致する参考になりそうな先行研究を見つけることができた。このことが、その後に研究が進む大きな要因となった。

 1〜3月、テーマは決まったものの、研究の分析方法で問題が発生した。先行研究では、因子分析が用いられていたが、私の研究では、因子分析を用いるにはサンプル数が足りないこと、さらに、t検定もサンプルの間の条件が異なるため用いることができないことが判明したのである。修論には、t検定や因子分析等の統計分析を用いることがふさわしいと思い込んでいたので研究が進まなくなってしまった。しかし、先生から「t検定や因子分析を用いたから優れた論文ということではない。要は、調査方法にあった分析方法を用いればよい。」とコメントをいただけたので、ほっとして分析方法に記述統計を用いることにした。

 2年の6月、「論文題目の届出」を提出する。これを機に、本格的に論文作成モードになったような気がする。今にして思えば、この「論文題目の届出」は、大学院から論文提出を目指す全員に対する「論文の作成を始めなさい」という最終通告のように感じる。7月に入り、データ収集を行った。その後、8月末のゼミ合宿、10月の研究(中間)発表会、その間のゼミでの報告と発表する機会が続いたが、常に、それぞれの時点までに進めておく項目を決めて発表を行った。先輩方の奮戦記にも、これらの発表機会をペースメーカーとして利用し論文作成を進めるとよいというアドバイスが見受けられるが、まったく同感である。

 9月になり、遂に、論文の執筆に取りかかった。保坂ゼミでは、まず、論文の前半部分、つまり、「はじめに」から「研究の方法」までを提出し、次に、後半部分「研究の結果」・「考察」を提出することになっている。前半部分は、論文の定石にしたがってなんとか書くことができたが、後半部分には苦戦した。私が、論文の後半部分の書き方をよく理解せずに執筆に取りかかったのが原因であろう。後輩の皆様には、先行研究を読む際、後半部分をどのようにまとめているのか十分意識して読むことをアドバイスする。  また、論文の考察部分には、ゼミでの発表時に、先生を始め、他のゼミ生から頂いたコメントを盛り込むことにより、なんとかまとめることができた。私、1人の視点からでは、限られた考察しか書けなかったので、他の視点からのコメントは、非常に参考になった。この場を借りて、感謝申し上げたい。

 計画的に論文の作成を進めようとしたが、論文を読み返すたびにおかしな箇所を発見し、年末年始も、論文の改訂に追われた。それでもなんとか、論文提出期間初日の前日に完成し、翌日には副本を発送することができた。

 「社会に役立つ研究」とは言い難い修論であったが、私の2年間の修論への取り組みから、後輩の皆様にお伝えしたいことを述べたつもりである。どんなにわずかなことでも「社会に役立つ研究」になること。そして、「実現(実行)可能性」を見極めるのが重要であることを強く感じる。このような奮戦記でも、皆様の修論を書く助けになれば幸いである。




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