プロローグ
冒頭に,前号掲載されたエッセイのタイトル「忘れ物事情の落差を認識−失敗からの教訓抽出の具体例を顧みて」、趣を異にしていると諸賢からの有難いご示唆とご叱正を頂戴したことに心からの敬意と畏敬の念を捧げたい。是非本編をと決意を新たに、執筆と推敲に注力し、期待に応える決意である。
2020オリパラをひかえインバウンド増勢から彼等の所作に触れる機会が多い昨近である。彼等の街頭や電車内での振る舞いは当該国の民族的な長年の慣習・遺産でもある。
先日都内の都営地下鉄六本木駅から新宿間で、若い外国人兄弟が車両出入口上部の次の駅名表示板と自分のスマホ表示を見比べている場面に遭遇した。自分自身もNYやParisの古い地下鉄路線のタイル板表示には、見難くて苦労した経験がある。
そこでExcuse me but where is your destination?と声を掛けるとSHINJUKU !との由。Three more stops.と言うと、Thanks so muchと安堵の表情で兄弟にお礼を言われた。我も新宿で下車した。連れが他にあり母親と祖母らしき四人のイスラエル人だった。
イスラエルと言えば、1976年に旧西ドイツ系のゲリラにハイジジャックされた機体がイスラエルから4000Km離れたウガンダへ強制着陸させられていた。犯人側はイスラエル人乗客86名を人質にとり、イスラエルが収監中のゲリラ犯との交換を要求した。しかし、イスラエル国は断固拒否した。爾来世界のハイジャック人質対策を激変させた、同胞愛と愛国心の国との歴史的事件の記憶があった。イスラエル国は断固拒否の裏では2機のプロペラ機に特殊部隊に野戦病院施設と偽装ウガンダ大統領専用車を積載、レダーを避けた深夜の低空飛行で4000Km離れたエンテベ空港近くに着陸、偽装大統領専用車を大統領の夜間巡視に見せかけてゲートを突破、空港警備設備破壊後に人質86名を救出、帰国を果たした。犠牲者はたったの4人(誤射で人質3人と指揮官1名(現ネタニヤフ首相の実兄))、所謂『エンテベの90分』である。そこで『エンテベの90分』は貴国の同胞愛の鑑と彼等に申し向けた。
別れ際に祖母らしき女性は感極まる態度で私に握手を求め私の手の骨が折れる程であった。付近の人々が何事かと思う程の大声とアクションが凄かった。自国のことを海外で正確に評価されて琴線に触れるものがあったと確信した一幕である。
彼等の持ち物は小さな肩掛けバッグのみの旅慣れた方々とお身受けした。別れて少し離れてから振り返ると4人は立ち止まって私が角を曲がるまで手を振り、頭を下げる所作には驚愕した。1960年以降は週に1〜2回は外国人の道案内をしているが、将に初体験で感激し、我も大きく最敬礼で答えた。
1 忘れ物事情の落差を認識することの意義
11・12月は職場やご家庭ではクリスマス休暇や年末年始旅行の計画が取り沙汰される時期を迎える。職場や近隣身近にその様な方々が居る場合は、以下の忘れ物事情の落差を認識の上、知ることの不可欠性をアドヴァイスすると一層の好誼継続と更なる強固な信頼の絆が築かれて達成感に浸れる。臍を噛まない秘訣を伝えて欲しいものである。
「おもてなし」は当該国の歴史的出来事を精緻に知り伝えることを継続する覚悟である。
「備え」は甘えや油断は禁物で過去に学び、行動に反映させる意欲と継続性が不可欠。以下は、その落差の概観と教訓を提言するものである。
昭和56年(1981)以降、延べ72ケ国、415日間、41回(米国は34回アラスカ以外全州制覇)の渡航経験の自己の失敗から得た貴重な教訓抽出でもある。本学の国際情報研究科を専攻した当時の事情を顧みると、’02年当時の国際情報学修士は極めて稀有な学位記であった。16年前の本学の国際情報学の教授陣は海外の著名な大学院の客員教授や国立大学学部長の経験者などで『国際情報を専攻するなら年に一度は海外に出かけて紀要へ投稿したものはGoogleで引用されるように英文要約を推敲すること』との訓えが過る。国情の差を十分に認識・理解の上、対処が基本で、行動に活用・反映が要諦である。
『米空港係員の窃盗横行』2015.04.14 (木)CNN報道。この報道にご記憶の方もあろう。
『預荷物の盗難被害5年で3億円米空港係員の逮捕者続出』
全米国の空港預入貴重品紛失総額は3,621件で250万$、マイアミで’10-’14の5年間だけでも3万件の抜取り窃盗で31人を逮捕した。その金額は約200億7万円、マイアミ国際空港に駐機中の旅客機の機内では、数人の空港の荷物係員が乗客の預入荷物をあさり貴重品等を盗みだしの様子をカメラが撮影していることに、本人達は気づいていなかった。カメラは空港係員による預入手荷物窃盗の操作のためにマイアミ警察が密かに仕掛けていた。「荷物からの盗難の苦情が減るまで防犯対策は継続する」と警察当局は強調する。
CNNは2010〜14年の米運輸保安局(TSA)への貴重品の紛失に関する苦情は30,621件に上り、その他大半は預入手荷物から盗まれたという苦情で、被害総額は250万$(3億円)に達していたと報じている。
預入手荷物の盗難届は米国のNY JFKを筆頭にロサンゼルス、オーランド、マイアミの各国際空港の順であった。諸外国の警察制度には遺失物取扱規定はない。数年前にNYは100$以上の物の取扱を制定、ワシントンDC、パリも無く、英国は執務時間内に限り取扱等と報ぜられている。翻って本邦は、2年前に都内の遺失現金33億円のうち、24億円は持主に無事返還された(警視庁纏’15/2/16日経)。
本邦の遺失物法制度は世界に冠たる国民の倫理性の高さと警察の信頼性を再認識する。その原点は明治32年に施行されている。最近あるまじきことに警察官に拠る取扱遺失物の不祥事も散見され、報ぜられるが、一層の綱紀の粛正が求められる。
その後の社会の価値観や通信機材等(スマホ、手帳等)の驚異的発達に添うべく平成19年に法改正され警察庁は異例の52頁に亘る通達で取扱いの適正を期している。
Happy Halloween In Shibuya(2017,10,31)のライブの際、渋谷宇田川交番で遺失財布の返還に喜び、「ミラクル」と歓喜を全身で示している来日外国人様子をご記憶の方もあろう。
この格差を認識することが渡航を「楽しかった」→「絶対行かない」の暗転を防ぐ必須不可欠事項である。2020東京オリパラをひかえて本邦が営々と構築してきた遺失物法制度の世界的倫理性・国民性・警察の信頼性を再認識することが肝要である。
2 何故 「預荷物の盗難被害5年で3億円米空港係員の逮捕者続出」に括目したか
’06.5.1に米SCIP’06学会参画の途上に米国最南端のキーウエストを訪れた。帰途にマイアミ国際空港レンタカーリターンを探しあぐね迷った。折よく出遭った白バイの先導を享受し、レンタカーを返還・搭乗機にも間に合ったことがある。レンタカーのドアーを開け白バイ氏に向うと「Bye Bye!!!」とUターンして何事も無かった如くに立ち去ってしまった。フロリダの蒼い空とお礼を伝えられなかったことが忘れられなかった。
帰国後に手紙にレンタカー返還時の領収書の日付・時間(2006/5/1.10:25)を同封、フロリダ警察本部長へ「是非 お礼に伺いたい」旨を伝えたところ、60日程して約5,000名の警察職員を調査後、「フロリダ訪問者には最大の便宜供与は私共の欣快だ」との書簡に該当白バイ氏判明が伝えられた。
SCIP’13の途上の‘13.5.7に 表敬訪問、念願の謝意表明が叶った。該当者を伝えてくれた当時の本部長は米東部のフイラデルフィア警察本部長へ栄転後、中東のバーレンの警察顧問に転出中であった。フロリダ警察本部長(CHIFE OF MIAMI POLICE Manauel Olosa)は、同市特別補佐官と揃踏みで迎えてくれた。
当の白バイ氏はフロリダ州競技大会の優勝戦(2位)で転倒して包帯姿で再会した。What major in your Nihon University GSSC school? 、続けてHow about upload in web site?と問われた。帰国後に事務課清水課長のご高配で筆者執筆掲載の記要No5を送付したところ、マイアミの図書館に所蔵・展示とのmailを受信したことが過る。
『米空港係員の窃盗横行』2015,05,04CNN報道の捜査指揮はOlosa氏であった。私共が羽田からロス経由でアトランタSCIP2015への途中の羽田からロスの機内の上部収納庫に忘れた貴重品が、返還されたのは同氏のお蔭と昨年再々訪問したが、勇退後で叶わなかった。マイアミ警察本部の受付氏は「彼は今頃海辺で魚釣りをしている」とHappy retirementと伺った。米学会SCIP2015の参加者は機中遺失物は絶対に返還されないと30$賭ける方々が数人あったことは遺失物への国情の格差を看取したものである。しかし、帰国後に70$の返送料支払いで無事戻ったことが忘れられない。
縷々記載した経緯は国情の違いへの実体験を披露・教訓の一端を伝えたかったこととCHIFE OF MIAMI POLICE Manauel Olosaの功績であると確信したためである。
3 エピローグ
―旅先での遺失・忘失絶無策の一端―
折角の旅の暗転は、事件・事故や遺失・忘失にある。その絶無を期するのは、言うは易しく実行絶無を期するは相当の事前準備に旅程管理・現地事情把握にある。外務省の海外支援要請案件は渡航者増に比例して微増傾向にあることが同省HPの表から伺えるので、その当事者にならぬ一端を渡航経験上の失敗からの教訓抽出として以下数点を提言するものである。
(1) 国情の格差を理解すること
前述の如く意識の改革を出国前に完了することは不可欠である。そのことが旅程の管理であり、帰宅後に臍を噛まない秘訣でもある。
(2) 携行品の最小化に留意すること
リスクの最小化の原則にも叶うものであるが、最小化の局限化をすると不便と現地調達で費用と時間を要するので、他人の忠告や出先の要用と兼ね合いの均衡は不可欠である。
(3) 移動の際の「振り返り」を生活化すること
来日外国人の交通機関や観光地での所作を観察すると、彼等は必ず振り返るしその子達も座った椅子を指で確認する。ここが国情の違いと認識することが肝要である。
(4) 同行者との支援要請協定を締結すること
何よりの味方は同行者である。相互に相手方の携行品の数と状態確認の相互援助協定を締結する。出発事前・到着事前の相互確認の習慣化が肝要である。
(5) 遺失時の対応の秘策を履践すること
万が一忘れた場合は取扱者の氏名の確認等をする。
別れ際に、必ずThank you for you’re a favor ! やThank you (Name) !とそして届出のLuggage Serviceでは、(Name) said so that---と伝えて、別れ際にも必ずThanks for your good Job! (Name)!!!と氏名と胸のタグを見つめることが肝要、更に加えれば、帰国後に取扱社の広報部へ届ける際は必ず前記氏名も併せて通報が肝要である。“要望・苦情・抗議・感謝は宝の山”との指針で対応してくれる筈である。受付や担当者では無く、総務部や広報部の窓口がベターである。
(6) 携行品のリスト化と目的地到着直前の確認を生活化すること
以前米ヨセミテ国立公園で出遭ったメキシコからの遠路をドライブのご夫妻の夫は、降車すると脇目も振らずメモ帳にチェックを入れていた。妻は申し訳なさそうに駐車の都度交代でチェックする習慣でと、見せて戴いたら留守宅のキーからパスパートやクレジットカードに土産リスト・地図等々をA4両面に縦軸に品名、横軸に確認・日時の細かな一覧表であった
(7) 究極のAI活用の忘失対策の兆しにも括目すること
横浜の某集客施設は昨年1年間に1000件の忘れ物から、一定のタグ(有料)を持ち物等に取り付けると当該所持人が忘失に気付かなくとも、AIシステムとGPSの働きで当該所持人のスマホに通知するシステムの試験運用を始めたことが括目される。
この拙稿から忘れ物絶無策を浚って頂けたら望外の幸せである。
“満足は天然の富だ” ソクラテス と帰宅した際に浸りたい。