修士論文奮戦記  −修士論文に真正面から取り組んだ日々−

国際情報専攻 17期生・修了 平林秀樹

 「これまでの自分のキャリアで積み上げてきたことを体系的に整理したい」そんな思いで階戸先生にお会いし、大学院の門をたたいたのが2015年、あっという間の2年間でした。その間に、多くの仲間や友人を得られえたことはかけがいの財産です。そして、今振り返って「自分自身をもう一度磨くことができた2年間だった」と改めて思える、かけがえのない時間を作れたことは、これからの大きな自信と財産となったと確信しています。決して、同じペースで学び続けたわけではありません。仕事が忙しく、時にはレポートも何も書けない毎日を過ごし、焦る日々もありました。それでも、何とか時間を作り、本や資料に向き合い、思いを巡らせ、考えを整理し、レポートや論文に昇華させていく時間を作ることができたこと、本当にかけがえのない時間であったと思います。この2年間の取組みについて、僭越ではありますが、私自身の振返りをさせていただきたいと思います。

 私は、自分が「人と組織」「ファミリービジネス」という領域でのコンサルタントとして取組んできたものを、ぜひ論理的に、体系化したいと思い大学院に入りました。ですから、1年目履修した5科目は、必修の「国際情報論」以外は、「ファミリービジネス」関連の4科目を履修しました。そして、レポートを書くうえで2つの事を決めて、取組みました。一つ目は、教材以外に参考図書とあるものは、できるだけすべて読むこと、二つ目は、レポートを書くうえで、できるだけ自分の考え方を整理した内容にすること。こうして、1年目の5教科20のレポート作成に取り組んだのです。

 本を読むことは簡単ではありませんでしたが、必要な本は古本でもいいので、全て購入して飛ばし読みでもいいので、目を通すことから始めました。今まで自分が取組んできた、ファミリービジネスの領域については、ある程度理解していることも多く読み進めていきました。しかし「国際情報論特講」の『世界人口白書2011』を読んだときは、今までと全く違う世界を覗いたようでした。その後すぐに阿藤誠他編著『世界の人口開発問題』を読み、人口問題について基本的な考え方の基礎を一から作り直すことができた貴重な体験でした。自分の思い込みだけでなく、しっかりとした知識を基に考えることの必要性を感じ、その後は、改めて参考図書や関連図書を読み進めていきました。

 レポートを書くうえで、自分の考えを整理するために最も必要だと感じたことは、最初に与えられたテーマについての定義を、先行研究などによりまず固める事の重要性です。定義が決まらなければ、自分の考えている方向性や、考え方の成否についての基準が定まらず、結果として論理的な体系化ができないことに気付かされました。このことは、修士論文を書くうえでの重要な柱となりました。また、レポートを書くうえで、事例の扱いも大変勉強になりました。レポートの中に、必ず事例を加え、その事例の「背景情報」「切り口の提示」「事例から読み取れる自分自身の考え方」を整理して書いたのです。このことは、今までの自分の経験などを論理的に整理し、新たな発見をすることができたとても良い経験でした。

 そして、当たり前ですが、レポートをしっかり書くことで、論文の書き方の基礎、脚注の入れ方、参考資料の書き方など、修士論文を書く基礎を学ぶことができました。

 定義を整理し、自分の考えをまとめ、事例をしっかりと書いていると、レポートの字数を規定より随分オーバーし、多いものでは2万字近くとなり、平均でも1万2千字程度になりました。しかし、こうした取組みを地道に積み重ねていくことで、自分の考えを理論的に整理するというトレーニングに繋がるとともに、とった科目がファミリービジネスに関するものばかりだったので、2年目の修士論文作成の資料として大いに役に立ちました。字数の多い長いレポートにもかかわらずレポートの書き方や、理論的構成、事例の扱い方など、先生方からご指摘やご指導いただきました事、この場を借りて御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

 そして、2年目の修士論文作成へとつながっていきます。私はテーマを「家訓・家憲」に関するものと決めていましたが、結論をどのようにしていくかまで決めていたわけではありません。全体の流れを整理するために、何度も「構成案」を作成しました。キーとなるコンテンツを順番に並べていき、全体像を整理していきました。その流れについて、階戸ゼミでの発表の場で、1年の途中から何度も発表を行わせていただきました。この発表を通じて、ゼミ生やOBの皆様からの質問をいただき、「家訓・家憲」がファミリービジネスの成功にどのようにつながっているのかという事を整理するだけではダメだと気づかされました。自分の今までのキャリアの理論的な整理のためには、現代の特に戦後生まれのファミリービジネスにどう活かされるのかまで考えないといけないことに気付かされたのです。もともと持っていたテーマに、自分なりの仮説が固まったのはその時です。そこで、自分の論文のタイトルを「日本のファミリービジネスにおける「家訓・家憲」の意義に関する一考察 ―日本の現代ファミリービジネスにおける役割−」と副題を加えることにしました。

 そこから、どんな定義が必要かを考え始めました。ここでは、1年目書き続けたレポートが大いに役に立ちました。ファミリービジネスの定義、ファミリービジネスの成功の定義、老舗企業とファミリービジネスの関係について、家訓や家憲の定義、家というものの定義、まだまだありましたが、こうした定義を、本や先行研究の論文などを通じて整理していきました。この定義がある程度見えてきた時にはすでに7月も終わりになっていました。

 そこで、次に、全体の目次とコンテンツを整理したものを作成しました。定義がしっかりできていましたから、ある程度中身のある3枚くらいの「目次+概要」に整理できました。そして、階戸ゼミの夏合宿で階戸先生に個別にお時間をいただき、その資料を使い打ち合わせさせていただきました。そこで、修士論文の骨格やストーリーが出来上がったと思います。

 テーマと仮説を決め、定義をハッキリとさせ、論文の構成がハッキリとして、そこから各セクションの論文つくりが始まりました。私の論文は、5つのセクションで構成されていますが、特に時間がかかったのが、事例の整理でした。どんな事例を使うのか試行錯誤していました。そうこうしているうちに10月の中間発表を迎えました。ここでは、まだ事例やそして最後の結論部分もはっきりできない中、発表したのですが、そこでいくつものヒントをいただきました。「家訓・家憲」があって成功した事例だけでなく、失敗した事例はないのかと。成功事例と失敗事例から見えてくる、「家訓・家憲」の存在について、改めて考えたほうが良いことに気付かされ、事例の選択を行いました。私は5つの事例を使ったのですが、この時に事例の位置づけがハッキリと決まり、修士論文の形が決まりました。

 定義や現状の整理、事例の位置づけを決めそこから見えてきたことがまとまった時には、既に11月の終わりに差し掛かっていました。これらを参考に、最後の結論部分について、階戸先生とディスカッションさせていただき、「家訓・家憲」の4つの役割と一つの提言にまとめることができた時は、12月11日となっていました。その後、見直しをするなど行いましたが、こうして、私の修士論文作成は幕を閉じました。

 限られた時間の中ではありましたが、自分のキャリアで積み上げてきたことを理論的に整理し体系たてることを目的とした修士論文つくりという事では、自分なりに満足のいくものが出来上がったと思います。そして何より、修士論文つくりの中での貴重な経験がこれからも有形無形の財産になると感じています。

 現在学生の皆様も単に学位を取ることを目的に入られているのではなく、自分なりの考えをまとめたいというお考えをお持ちで、現在学ばれていることだと思います。皆様に少しでもお役に立てればと思い、僭越ながら私の経験を書かせていただきました。完成した修士論文に対して「これが自分のやってきたことの集大成」と思えるように、2年という貴重な時間、レポートを書くことと修士論文を書くことや仲間と共に考える事に、真正面から取り組まれることを祈ってやみません。

 最後に、こうした時間を許してくれた家族や会社の仲間に、この貴重な時間を最高の学びの場にしていただいた、階戸教授はじめ、大学院の先生方や階戸ゼミの皆様に感謝申し上げます。



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