修士論文奮戦記
―山積みの本に囲まれて―
国際情報専攻 16期生・修了 白鳥 和生

 50歳を前に「キャリアの棚卸しをしたい」という思いで階戸照雄先生にお会いしたのが2013年秋。その後の2年間はあっという間でしたが、仕事抜きで話ができ、励まし合える友人を得たのはかけがえのない財産です。学位をいただきましたが、修士論文の自己採点は「30点」。そんな修士論文が出来るまでの歩みをお伝えしてみたいと思います。

 修士1年目は課題リポートの提出に必死で、仕事と勉強の両立の仕方やペースがつかめず修士論文にはまったく手がつけられませんでした。計20本のリポートを出し終わったことで“プチ燃え尽き症候群”にも似た状況に陥り、今振り返ってみると、「もっとコツコツやっていれば後悔しなかったのに」と反省する次第です。
 新聞記者として長く小売業を取材してきた経験から、当初は小売業態の変遷に関する論考を考えていました。業態の盛衰に関する論文は沢山あることは十分承知していましたが、大規模小売店舗法(大店法)などの制度要因ではなく、消費者の変化によってもたらされるという「仮説」を提示すれば乗り切れるのではないかと漠然と考えました。
 1年目の7月、サイバーゼミで上記のストーリーに沿って問題意識と目次を発表。その前後から「業態」や「消費者行動」「顧客接点」などをキーワードに、アマゾンで関係しそうな書籍(主に中古)をせっせと買い集めていきました。
 ただ、書籍や論文を集めながらも、頭の片隅には常に「テーマが大きすぎるのではないか」「果たしてオリジナリティーが出せるのか」といった不安がありました。悩んでいた頃、知り合いの編集者から「米国のオムニチャネル・リテイリングの動向をまとめた記事を書いてもらえないか」という依頼があり、原稿を書くことになりました。
 オムニチャネルについては以前から注目しており、業界誌の特集やセミナーなどで情報収集していました。オムニチャネルはリアルな小売業の座をネットの小売業が脅かし、それがいずれ融合していく――というまさに業態の変遷。消費者がチャネルを横断的に利用する動きに対応したものであるハタッと気付き、2015年1月、タイトルを「オムニチャネル時代おける小売業の課題――日米の先進事例を踏まえて」と決めました。
 当時、私が知る限り学術的な論文は少なく、しかもオムニチャネルをタイトルに入れた単行本はありませんでした。研究者の一人、日本大学商学部の金雲鎬准教授が日本マーケティング学会の研究会で話されたのを聴講しましたが、それはオムニチャネルが学際的な研究領域だという視点でした。また、流通経済大学の複数の先生方の論文を読んだところ、それらはロジスティクスやSCM(サプライチェーンマネジメント)に軸足を置いたもので、マーケティング的な視点、特に消費者や消費者行動の変化との関係性についてなら「まだ入り込む余地があるのではないか」と考えました。
 とはいえ、「2年生になるまでの2〜4月ごろが参考文献を読み込む時期」と階戸先生からご指導いただいていたのにも関わらず、前述の通りの“プチ燃え尽き症候群”。一方で参考文献の購入はコンスタントに続け、「やった気」になって時間がいたずらに過ぎるばかりでした。
 「これはまずい」と思い始めたのが2015年4月後半。重い腰を上げ、手元にある書籍で参考文献一覧を作り始めました。そこで活用したのが自宅の本棚。ゴールデンウイークに修士論文とは関係ない書籍を本棚から追いやり専用スペースを確保しました。関連書籍を並べる際、斜め読みで引用や参考になりそう思うページに付箋を貼っていきました。
 結果、書籍を眺めることで目次のイメージができあがっていくことになり、それが後々大変役に立ちました(ただ、本棚は整理されましたが、周りは雑然と関係ない本が山積みになり、家人に苦情を言われ続けました)。
 そして2015年7月、1年ぶりにサイバーゼミで発表することになり、目次を作り直し、序論、「オムニチャネルとは何か」といった章を書き始めました。このゼミはシステムの不具合で中止になりましたが、修士論文の骨格が固まり、参考文献リストがほぼできあがったのが大きかったと思います。
 その後は仕事の忙しさも手伝って研究は遅々として進まず、8月の軽井沢でのゼミ合宿も不参加。本当に執筆を加速したのは、10月、大橋幸多ゼミ長経由で「11月末には1次提出すること」というアナウンスがあってからです。
 何とか期限に間に合わせましたが、「不本意」この上ない論文でした。しかもWordのスペルチェック機能を使うと誤字脱字が多く、文意が伝わらない箇所も多々発見。12月から年明けにかけて3回ほど階戸先生に修正版を送って指導を仰ぎました。そして口頭試問を経て、3月25日に学位をいただくことができました。

 長々と私の“ダメダメぶり“を書かせていただきましたが、自戒の意味を込めて後輩の皆様に以下の3点をアドバイスさせていただきます。
  @ ゼミの皆さんと密に交流し、情報交換すること(それぞれの経験や知識が「助け」になることが多い)
  A ゼミの発表や中間発表会に参加することは大変ですが、ペースメーカーになるので積極的に参加すべき
  B 困ったことや悩みは遠慮なく先生に相談する

 最後に日本大学大学院総合社会情報研究科、階戸ゼミで学べたこと、お世話になった先生方、セミのOB並びに同級生の皆様に対し深く感謝を申し上げ、ペンを置きます。



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