眞邉ゼミ学会参加報告

人間科学専攻 榊原岳・杉本任士

 2015年は、行動分析学領域の研究者にとっては、8月と9月に国内学会と国際学会の2つが日本で開かれるという特別な年でありました。
 国際行動分析学会は毎年アメリカで開催されますが、国際大会は、国際行動分析学会とは別に、アメリカ以外で2年に一度開催されます。これまでの開催地としては、メキシコ(2013年)、スペイン(2011年)、ノルウェイ(2009年)、オーストラリア(2007年)、中国(2005年)、ブラジル(2004年)などがあります。これまで何人かの眞邉研究室のメンバーがノルウェイやメキシコの国際大会に参加しております(ノルウェイ国際学会参加記:http://atlantic.gssc.nihon-u.ac.jp/~e-magazine/037/report/report4.html)。国際大会をアメリカ以外で開催する提案を行ったのは、当時国際行動分析学会の会長であった故佐藤方哉先生で、2004年の最初の開催から11年目にして母国である日本での開催になりました。眞邉研究室のメンバーは、国内学会の参加にとても積極的ですが、国際学会に参加するチャンスはなかなかありません。しかし、今回は日本の、しかも京都で国際学会が開催されるということで、多くの研究室のメンバーが参加しました。
 以下、日本行動分析学会年次大会(明星大学)での眞邉研究室のゼミ生と修了生の研究発表と国際行動分析学会国際大会(京都)での眞邉教授の招聘チュートリアルと博士課程後期の村井氏のシンポジウムでの発表について報告します。

1.明星大学での「行動分析学会」
 8月29日(土)と30日(日)、明星大学にて開催された第33回日本行動分析学会においては、ゼミ生や研究生、修了生による活発な発表が行われました。

@日本行動分析学会・学会論文賞受賞
 修了生の松本啓子氏、博士課程後期在学中の村井佳比子氏、眞邉一近教授による共著が日本行動分析学会の学会論文賞を受賞しました。受賞した論文は、「美容師の指名客数増加のための社会的スキルトレーニングの効果」(行動分析学研究・第29巻・第1号に掲載)です。学会論文賞は、行動分析学会員による投票によって決定され、選考の対象となる論文は、「基礎、応用、あるいは理論的分析において、さらなる発展へとつながりそうな画期的な研究」です。


受賞祝賀パーティーにて(左から)村井氏、眞邉教授、松本氏

 松本氏が中心となって行われたこの研究は、新人美容師に対する社会的スキルトレーニングが指名客数増加に及ぼす効果についての研究で、社会的スキルの効果的な訓練方法について、長期間にわたるデータの収集によって検証されたものであり、これまでにはない独創的な研究でした。日本がかかえる今日的な課題でもある若者の離職率低減や企業の生産性の向上に資する点など、その研究の社会的な意義が大きく評価されました。

A公開シンポジウム
 修士課程2年で言語聴覚士の矢作満氏が「行動リハビリテーションの最先端」と題した公開シンポジウムに登壇しました。


シンポジウムで発表する矢作氏

 矢作氏は、言語指示が理解されにくい言語障害者、特に失語症者に対して強化子を計画的に提示したいくつかの事例を紹介しました。言語聴覚療法にも行動分析学の方法論が有効であることを提言しました。シンポジウムでは積極的な質疑応答が行われました。

Bポスター発表
 2件の研究発表が行われました。修了生で理学療法士の由良優実夫氏は、「観賞魚を用いた運動療法」を発表しました。リハビリ場面において、認知症の患者は意思疎通が困難な場合があり、その際に適切な運動がおこなえない場面に遭遇することがあります。観賞魚は見ている人にリラックス効果を与えることが報告されています。そこで由良氏は、観賞魚を窓の外に設置し、観賞魚を見ようとする行動が高度認知症患者の自発的なリハビリテーションへの参加を促すという仮説のもとに行った実験結果について発表しました。


鑑賞魚を用いたユニークな研究

 実験の結果、全ての認知症患者のリハビリ従事行動に増加があったことを報告しました。由良氏の研究成果は、リハビリに困難を示している認知症患者に対する安全で効果的な運動療法として大変興味深いものでした。

 博士後期課程在学中で中学校教師の榊原岳は、修士課程のテーマである「中学校内エコキャップ回収活動に及ぼすグラフ型回収装置の促進効果」について発表しました。この研究は、中学生に対して、リサイクル活動への参加を通して、ボランティア精神の形成を促すにはどうしたらよいのだろうかという現場の思いからスタートしたものです。


回収装置について説明する榊原

 この研究で開発された「グラフ型回収装置」にエコキャップを提出すると、エコキャップが、色鮮やかなグラフのように蓄積されていく仕組みになっています。この視覚的なフィードバックにより各学級における提出者数、エコキャップ個数ともに増加させることができました。このような行動分析学の方法論を用いた介入により、道徳的行動を実体験させる試みは、今後、教科化が予定されている道徳教育の一つの方法論としての可能性を秘めており、さらなる研究の蓄積が必要であると考えています。

2.国際行動分析学会国際大会(ABAI Eighth International Conference)
 9月27日〜9月29日の3日間、京都市のホテルグランヴィアを会場にして「国際行動分析学会国際大会」が開催されました。京都の地に、世界30カ国近い国や地域から、数多くの行動分析家が集まりました。多くの分科会があり、行動分析学の実験的、応用的、理論的な研究、哲学や実践まで、幅広く、深い議論が展開されていました。また、若手から大御所まで、著名な研究者も数多く参加していました。そのような大きな大会で、眞邉研究室からは、眞邉教授による招聘チュートリアルと博士課程後期の村井氏のシンポジウムでの発表が行われました。

@眞邉一近教授による招聘チュートリアル
 行動分析学は大きく分けて基礎と応用の分野に分かれています。日本の基礎研究者を代表して眞邉一近教授が、応用分野からは奥田健次先生が招聘チュートリアルを行いました。眞邉教授のテーマは「Challenges to New Species in the Experimental Analysis of Behavior: How to Conduct Animal Studies(実験的行動分析における新しい種への挑戦:動物研究をいかに行うか)」でした。風力発電施設へのバードストライクが問題となっているオオワシやオジロワシなど猛禽類、脊椎動物研究のモデル生物として注目されているゼブラフィッシュなど動物を対象とした長年の研究成果についてエピソードを交えながら披露していました。特に、ゼブラフィッシュのトレーニング映像や眞邉教授の開発した自動給餌装置を見た参加者からは感嘆の声が上がりました。


会場を熱い熱気に包んだ眞邉教授のプレゼン

 プレゼン後は、世界各国からの参加者たちと活発な討論が繰り広げられました。難解な学術用語ではなく、綿密なデータと事実を基に語られる眞邉教授のプレゼンに、研究者としてあるべき姿勢を改めて教えられました。講演終了後も眞邉教授の周りには各国の研究者が集まり、さらなる活発な議論が行われました。

Aシンポジウム村井佳比子氏による発表
 2日目のシンポジウムでは、博士後期課程在学中の村井氏が、「Effect of Instructional and Reinforcement Histories on Response Variability of Participants Having a Few Mental Health Problems(教示と強化履歴が精神健康の問題を持っている実験参加者の変動性に及ぼす効果)」について発表しました。村井氏は臨床心理士として、うつ病などの精神疾患の患者に対するエビデンスに基づく新たな治療方法の開発のため、基礎研究と臨床研究をつなぐブリッジ研究に真摯に取り組んでいます。


基礎と応用をつなぐ村井氏の研究

 今回の発表は、臨床心理士としての経験と眞邉研究室で研究してきたことの集大成とも言えるべきものでした。また英語による発表やプレゼンのスライド資料の完成度が高く、シンポジウムに参加した研究室メンバーの中には、これまでの日本語での発表よりも英語での発表の方がよく理解できたという感想もありました。村井氏の研究によって得られた知見は、今後の精神疾患に対する臨床研究に大いに貢献することが期待されます。

 眞邉研究室は、今年度15周年を迎えました。研究室メンバーの職域は、臨床心理士、看護師、柔道整復師、理学療法士、言語聴覚士、臨床検査技師、臨床工学技士、教員(小・中・高・大学)、アナウンサー、航空管制官、パイロット養成教官、警察官、児童相談所職員、動物園飼育員など多岐にわたります。そんな多種多様なメンバーが集う研究室のモットーはエビデンス・ベーストであること。眞邉教授の的確なご指導のもと、観察可能な行動や測定されたデータに基づき、眞邉研究室は今後も人類や社会、生命に貢献できる実証的な研究を続けていきます。
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行動分析学会(明星大学)にて、眞邉教授、河嶋教授を囲んで



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