司書のつぶやき(14)
本と文化交流

文化情報専攻 13期生 大塚 奈奈絵

 クリスマス・カードの季節になり、この1年間に仕事で交換した外国の方々の名刺を整理してみた。チュニジア、サウジアラビア、イギリス、シンガポール、リビア、パレスチナ、中国、韓国、イスラエル、アメリカ、モロッコ、ヨルダン、ベトナム、インド、ハンガリー・・・。以前、最近の図書館員の名刺はゆるキャラが使われていて、かわいらしいものが多いとを書いたのだが、外国の方々の名刺は、美しいデザインのものや写真付きのもの、個性的なものが多い。当たり前であるが、文字も言語も様々で、「そうか、○○語も向かって右から左に書くんだ。」と納得して見入ってしまう。
 私の働く図書館には外国の方向けの見学コースがあり、昨年は500人以上の見学者があった。図書館員も多いが、来日された政府関係者や在日大使館の方々が自国の出版物を持参されることも多い。お持ちいただいた本を前にしての会話や、一緒に書庫の中を歩きながらの会話から、各国の図書館の機能や出版の仕組みには、それぞれの国の法律や文化、その時々の社会の状況が反映していることが感じられて興味深い。同時に、それまで自分が深く考えたことのなかったことを質問されて、「何故だろう?」と考えることもある。先日は、ある国立図書館関係者から、「日本の本には何故CIP(Cataloging In Publication)i が付いていないの?」と質問された。日本の図書にはCIPの代わりに寛政の改革に遡る日本独特の慣習といわれる奥付が付いていることを説明したのだが、「でも、CIPなら分類や主題も分かって便利なのに。」と言われてしまった。日本の書店で図書と雑誌を一緒に売っていることが珍しいと話題になることもあるが、これも戦前から続く日本独特の出版と流通の仕組みである。
 他方、大使館の方々が自国の本を寄贈するために来館される場合には、短い言葉の中に自国の文化に対する自負と誇りが伝わってくることが多い。昨年末頃から、中東では戦火が拡大し、日本人が人質に取られたり、テロにあって亡くなる事件が相次いだ。そうした時期に在日のアラブ諸国の大使館の方々が団体で図書館見学においでになり、それぞれ自国の歴史や文化、宗教等に関する出版物をお持ちになったことがあった。代表の方の「私達は日本の文化を理解したいと考えて、日本の文化機関を見学して学んでいます。同時に、日本の方々にも私達の文化を理解していただきたいと思っています。」という言葉が今でも印象に残っている。
 アメリカン・シェルフii をはじめ、中国や韓国が行っているように、自国の歴史や文化、そして価値観を理解してもらうために各国政府が海外の図書館や教育機関にまとまった数の本を寄贈することも、世界では広く行われている。今年建国50周年を迎えたシンガポールは、独立数十周年の記念として政府刊行物からシンガポール料理の本までを含む数百冊の図書セットを作り、大使館を通じて世界の国立図書館に寄贈した。
 自国の文化を理解してもらう手段は本以外にもたくさんあるが、インターネットの時代になっても、本はまだまだ国の広報や文化交流の有効な手段の1つなのである。けれども残念なことに、今のところ、日本では国のレベルのこうしたプロジェクトは行われていない。もっとも日本がジャパン・シェルフやジャパン・コーナーを作ることができたら喜んで受け取ってくれる国はあるに違いないと、職場の同僚たちと話すことがある。グローバル化の現代、日本の文化や歴史を他国に上手に伝える努力も求められているのではないだろうか。

i 図書を出版する際に予め作成した書誌情報を標題紙裏面などに印刷すること
ii http://japanese.japan.usembassy.gov/j/irc/ircj-spaces.html




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