交友プランニングセンター・友月書房編
『私のたたかい 阪神・淡路大震災から20年 語り継ごう!書き残そう!』
(友月書房・2014年12月)
文化情報分野 博士後期課程・修了 楠田 真
本書は、1995年に発生した阪神・淡路大震災から今年で20年を迎える節目にあたって、神戸市の出版社「交友プランニングセンター・友月書房」が企画・出版した寄稿集である。本書の構成としては、阪神・淡路大震災から20年の歩みを振り返った被災者の手記や関係者の論考が38編収録されている。
本書を通読すれば、「あの日を忘れまい」という共通の思いが浮かび上がってくる。筆を執ったのは市井の老若男女で、震災発生直後の状況やその後の暮らしの中での心境がそれぞれの言葉で綴られている。どの寄稿文も現場での実体験や複雑な感情が切々と語られており、文字通り今を生きる者たちの「生の声」としてリアルに響いて胸を打つ。一見すると神戸の街並みは物理的な復興を遂げているが、人々の心の傷は今なお癒えることはない。本書には阪神・淡路大震災の記憶を風化させてはいけないという寄稿者の強い決意が表明されており、復興の経験と教訓を活かしていくことの重要性を再認識させられる。
また、本書の特筆すべき点としては、2011年に発生した東日本大震災に言及する寄稿文も収録されていることである。拙稿「当事者性を共有できるか〜1.17、9.11、3.11をめぐって〜」もそのひとつである。阪神・淡路大震災と東日本大震災は戦後日本史におけるターニングポイントであり、その後の社会のありよう、人々の価値観を一変させた。我々は2つの大震災の経験から多くを学ばなければならない。東日本大震災からもう4年というが、むしろまだ4年というべきなのだろう。現在も地震速報が頻発する中で、課題は山積している。本格的な復興に向けて、被災地・被災者への継続的な支援活動が必要だと痛感させられる。
編者は本書の「はじめに」を次のように結んでいる。「震災を語るとき哀しみや心の痛みは癒えることなく、篤い涙が溢れる瞳は忘れられません。」当事者にとって震災は昨日のことのように思い出されるが、時計の針を戻すことはできない。今を生きるすべての者の使命は、命の限り生きていくこと、そしてその人生経験を後世に伝承していくことである。本書のタイトルにもある「語り継ぐ」「書き残す」は記憶の継承、記録の保存に他ならない。自己の思考を言葉で紡ぎ、他者と共有する行為はまさに文学の原点といってもいいのではないだろうか。この記念碑的な一冊が一人でも多くの読者の心へ届き、復興支援活動の拡充や防災意識の向上につながっていくことを期待する。
(友月書房 A5判 183頁1,200円+税)