司書のつぶやき(9)
“Libraries Change Lives”

文化情報専攻 13期生 大塚 奈奈絵

 1か月程前のことだが、2013-2014の米国図書館協会(ALA)会長バーバラ K. ストリプリング(Barbara K. Stripling)博士の講演「インフォプロと図書館の新たな役割:米国図書館協会(ALA)の取り組み 」を聴く機会があった。講演では、インターネットの普及や情報技術の進展を背景として、地域の学校図書館、公共図書館におけるインフォプロや図書館司書に求められる資質や能力が変化していること、インフォプロや図書館司書に求められる教育的役割が紹介された。そして、これに関連して、日本ではあまり知られていないアメリカの公共図書館でのメイカースペースの設置や、調理器具や工具、そして時には「自分の経験を語ってくれる人間」までを貸し出すサービス、学習支援や求職支援サービス等も紹介された。
 メイカースペースは、個人が通常では利用できない3Dプリンターなどのハイテク機材を備えた公共スペースで、ALAは創作や学習のためのスペースとして図書館内に設置されることをサポートしているとのことである。メーカースペースの設置は、コミュニティのメンバーを情報の消費者から情報を生みだす人に変える、つまり、図書館と住民との関係性を変えるものだとの説明が興味深かった。
http://current.ndl.go.jp/e1378, http://current.ndl.go.jp/node/26345
 求職支援サービスについては、アメリカでは講演に先立つ2014年7月22日に成立した「労働力の投資と機会に関する法律」(“Workforce Innovation and Opportunity Act”)において職業訓練と求職支援を行う“One-Stop”のパートナーに公共図書館が追加され、ALAはこれを歓迎しているというニュースが流れていたことを思い出した。アメリカの公共図書館は、職業訓練や求職支援のサービスを受けられる場として社会的にも認知されているということなのだろう。マイノリティーが人口の半数にせまり、識字が切実な問題であるアメリカでは、公共図書館の役割自体が日本とは少し異なるのかもしれない。
 ストリプリング博士は、長年教師として演劇などを教えるかたわら、公立学校の図書館のメディアスペシャリストを務め、米国学校図書館協会会長などの役職を歴任して、2012年からはニューヨーク州シラキュース大学iSchoolのアシスタントプロフェッサーを務めている。ALA の会長イニシアティブとして“Libraries Change Lives”を掲げ、2013年8月に、図書館の重要性に関する宣言“Declaration for the Right to Libraries”を公表して署名を呼びかけているとの紹介があった。
 「アメリカの独立宣言と世界人権宣言の精神に則り・・・」という文章で始まる“Declaration for the Right to Libraries”は、中国語をはじめとして様々な言葉に訳されてALAのHPで紹介されているが、日本語の翻訳はまだ掲載されていないという。私個人は、図書館で自分の人生が変わったと思っているのだが、日本では、一般的には“Libraries Change Lives”という考えそのものに共感する人は多くないのかもしれない。
( http://www.ala.org/advocacy/declaration-right-libraries-downloads )
 講演の後のレセプションでお話ししたストリプリング博士はとても気さくで、温かい方だった。私が、通信制の大学院で学び、現在は大学の通信教育部で図書館・情報学を教えていると自己紹介すると、博士ご自身も2011年にシラキュース大学で博士号を取った時には、ニューヨークから通学するのが遠すぎたため、遠隔教育のコースを取ったことを教えて下さった。アメリカの大学では、どこでも概ね遠隔教育のコースが用意されているとのことである。私が、教える側になってみるとビデオ授業の収録がとても大変だったと言うと、それは同感とおっしゃって、二人で思わず笑ってしまった。
 アメリカと日本の図書館、特に公共図書館には共通することも多いが異なる面もある。例えば、先に挙げた“Declaration ”の中では、“LIBRARIES BUILD COMMUNITIES. ”など、日本ではあまりなじまない内容もある。講演とレセプションに出席した後、司書仲間で話し合った時には、ストリプリング博士の講演にあったサービス内容のいくつかは日本では公民館活動の対象とされていること、社会教育や生涯教育は、自治体では社会教育主事の役割とされていることなどが話題となった。図書館を取り巻く社会環境の違いはあるももの、ストリプリング博士の講演はこれからの日本の公共図書館の可能性を示唆しているようにも思われた。



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