帰宅難民皆無の「タイムライン」(事前計画)、現地遭遇者からの提言
―他山の石に学ばぬ不作為を避け―リスク・リデュース=人智で減災

国際情報専攻 4期生・修了 長谷川 昌昭

はじめに

2011.8.27にNYタイムズスクェァ交差点角のホテルに9泊A中ハリケーン「アイリーン」に遭遇。今年の1月末に国交省防災・減災対策本部の初会合は標記の原案を年内策定で地域限定試行構想行動計画が発せられことは、諸賢はご高尚と存じます。しかし 本邦独特の帰宅難民には概観したところ本試行には触れていない。何故か ? 第一に事前行動計画「タイムライン」を実施の米国の当該行政庁・住民は帰宅難民現象自体を知らない。第二に 専門家調査団、有識者委員会の現地入りは発災後の長時間後で触れられていないこと。第三に 当該現地では帰宅難民現象は無いので話題にもならないこと。

所謂 専門家の罠に嵌った結果と言うのは、聊か厳し過ぎるか。だからこそ以下の報告・提言についてご叱正やご示唆を賜りたいものである。当然に当時当該超大自然災害に遭遇した方々も大勢いらっしゃると思う。従ってそれらの方々の貴重なご意見で当方の足らざる箇所の補正・修正を衷心からお願いする。国交省と防災関連学会等の合同調査団は現地で’12.10のハリケーン『サンディ』への対応状況の現地調査報告を’13.10に国交相へ報告した。その経緯等は国交省・防災関連業界紙誌で報ぜられたものは、本年1月末である。NHKも台風27号関連ニュースで触れた。私は繰り返すが、2011.8.27に現地の対応状況を現地滞在者として「専門家の罠」に嵌まらぬ立場で見聞きした。日本の減災計画の一助に海外の成功例から我が国土と我が国民のために探ったものである。

何故今頃になってか、また 専門家・有識者委員会かと訝った方々も多く、試行の項目のみでは遅過ぎたとの感触の方も多いことは否めない現実である。

拙稿が目に触れる頃は東日本大震災から3周年を迎えるこの時期に「帰宅難民」に加え「超高層階難民」は超高層マンション自体の耐震性・耐津波性は高くとも他の電気・ガス・水道等の最低限必須インフラの脆弱性が俎上に登場している。自家発電、自家給水源、自家備蓄には現居住者実態の超高齢化は、前記「超高層階難民」の新たな動きに居住者は、公助を期待することは納税者としても当然である。しかし 現実は、時を同じくして先頃「地震の際は消防・救急は駆けつけられません。近所の初期消火・初期応急手当が防火・救命率の向上の基」との某県被災経験県の例を紐解くまでも無いことである。つまり 公助は、完結困難性と増税高負担の両リスクが存在することが被害予測との権衡上、当然視する時流となった現状に剋目することが生残り策でもある。

公助は予算です。その源は税金です。ヒト・モノ・カネを伴う支援増は増税を齎しても完結の度合いは高度の困難性を伴う実態を理解し始めたことが「近所」の「近助」への転換への予兆である。つまり 総ての防災対応を国・行政に求めても完結は不可能な実態が、首都直下型・南海等々の甚大被害予測の発表時期と重なった厳しい情勢下にある。

だからこそ「タイムライン」を現実に現地NYで86年振りの超大型ハリケーン遭遇者(2011.8.27)は、現実の対応実態の現況との絡みを教鞭を執る千葉科学大学他や処々の行政の長との議論を踏まえ、当該市の管理職研修の講師提言等に交えた。その結果は学生・受講管理職の関心の度合いが極めて高いことはご同慶の至りである。

翻って現下の本邦企業の海外進出や渡航者増勢の実勢は彼等の実体験と豊富で専門的知見に基づく「現地体験者提言制度」の切っ掛けをも本稿とするものである。必ずや費用対効果と日本の海外進出企業尖兵であった団塊世代前後の諸賢の日本を経済大国に伸し上げた実績に裏打ちされた技術的・管理的な知見と英知を再度披露の上、減災対応に貢献することにより再度の達成感と信頼を享受することで迫り来る超高齢者社会対応策と地球温暖化の影響?でスパンの短い自然大災害対対応に再度一肌脱ぐ「提言募集システム」を提言する。

本項はプロローグで、将に 役者が舞台の板付きで幕開前の緊張を持続する境地である。アジェンタは最大3点がプレゼンのベーシックとの由、以下を読了の上ご叱正とご示唆を賜りたいものである。


1 何故「タイムライン」? 

以下に論考する如く極めてシステマテックなものである。超大自然災害は地震・津波・ゲリラ豪雨とは全く性格が異なり世界的観測網の発達と気象関連情報共有に支えられているからである。第一に事前予測可能体制が確立されている現実を肝に銘じること。第二は先を見越した減災対応が可能なこと。予測と被害発生時の発災前の間にタイムラグが存在、それを活用すること。その時間に関係機関が時系列的に事前準備の実施項目を確立された事前計画の基づき実施する−準備・勧告・配備・配布・避難等の諸措置が可能となるのである。第三は本邦では全く想像だに出来ず、従って考えられない対処方法が厳然と存在すること。72時間前の緊急事態宣言、36時間前の避難勧告、24時間前の公共交通機関の全面運休、だから 帰宅難民不在であった。最後の極めつけは避難勧告後の一定時間後(0 hourハリケーン上陸時間)の当該地域にハリケーン上陸直前は警察・消防等の市民を護る筈の機関も活動停止。市民を護る側の安全も確保は本邦では想像も不可能である。タイムズスクエアの交差点の上陸26時間前は、タクシーとパトカー以外は走行してない異常事態は、当時の撮影の写真が物語っている。


NYの例は前記現地調査団の報告にもある−東京・大阪・名古屋はNYに無い大規模地下街対策−対水害脆弱性から喫緊の課題で警鐘を乱打したい。『過去に生起した事象は必ず再来する。』歴史の教訓に学び名古屋駅前地下街浸水事案等の想起が大事である。


2「タイムライン」とは如何なるシステムか

国交省や関連業界・防災学会紙・誌の発信情報に当時のメディァは概ね『’12年10月29日にキューバやハイチなどのカリブ海諸国で66人の生命を奪ったハリケーン・サンディは、29日夜から30日朝にかけて米国のニュージャージー、デラウェア州の沿岸部に上陸、カナダからの寒冷前線と衝突すれば北に進路を変え寒冷前線と衝突すると米東部諸州やオハイオの内陸部で洪水や強風、大雪になる畏れがあるとの予報。サンディの進路にあたるとみられる米東部には約5000万人の人口密集遅滞と政治経済の中心地で広い範囲で停電や洪水などの被害』が予想された。『サンディ』は、’11年に米東海岸に上陸、前年に死者47人、推定150億ドル(約1兆2000億円)の被害を出した『アイリーン』よりも大型ハリケーンでより大きな被害を出す畏れがあるとして、事前計画「タイムライン」を発動、結果的に減災対応の好事例となったものである。当時は大統領選の最終盤の選挙戦を繰り広げていたが、両候補はこの時期の選挙活動は自粛したことでご記憶の方も多いことと確信するものである。

この『サンディ』の前年の『アイリーン』を私はNY滞在中に現地体験している。『自然大災害−水害−先見的の事前行動を伴う対応例に学ぶ』と『現地滞在者からの生の提言』に思い入れが一入である。真の理由はここに存在する。

しかし、’11の好事例の訓えが何故 ‘12の好事例まで待って、更に’13と経年は歯がゆい、自然は待ってくれない。喫緊の課題に為政者も専門家も何故即対応しないのか、理解に苦しむ。私は2011.8の3.11から間もない時期に米国滞在中に機内、ホテル、競技場等々でHow about FUKUSHIMA DAIICHI ?に数十回も遭遇したことが過る。

然らばそのシステムの効用とは?

1 本邦の三大都市圏は、政治、経済、産業等の国民生活基盤が過度集中の特殊事情は他国には見られないこと。
 国土の狭さが地下街と海抜0メートルに居住者が集中している特異性がある。だから 発災時には百万人単位の広域避難が予想されるものの国・行政・住民、企業等々の横断的防災計画が進んでいない実態にある。この実態への対応策の一環であることへの認識が不可欠である。横断的防災計画が無く「予想外」では済まされない。

2 水防活動の現状は、伝統的に気象情報、実害発生への対応であること。
 だから 来襲予測による事前対応策の事前訓練は実施されているが、事前配備は皆無に近い実態にある。つまり 事前行動計画を伴う先を見越した対応は、発想さえも無い実情にある。『見送りはあっても 見逃してはならない』の発想の転換による。予測から発災までのタイムラグの活用を事前行動指針として平素から国・行政・企業体等・住民が横断的に取込むことは費用対効果からも有意義である。それに早期に気付いた事前行動が大事で効果的減災に結実した成功例が現存することを認識の上、地域特性を考慮した事前計画の策定・検証・訓練・実施が減災を招来する。
3 事前行動計画の試行に防災関連の国・行政・企業体等・市民は刮目すること。
 三重県紀宝町は昨年の大風27号来襲時期に前年の9月に紀伊半島を襲った豪雨で死者・行方不明各1名の被害教訓から「タイムライン」を計画・実行して減災の効果を享受している。
 日本災害情報学会の松尾一郎事務局次長は職員一人ひとりが防災情報の共有の有用性を説いている。「タイムライン」の概念は20世紀後半に米国で広く普及、2012「サンディ」で改めて注目、米東海岸に8兆円規模の被害、NJ州のある町は、4,000棟が全半壊したものの死者は0が早期避難を実現させた「タイムライン」の実行にあったことである。先のフィリッピンを襲った台風に際、町長の最大台風の表現を「悪魔の来襲」と呼びかけた早期避難が減災に貢献したとの外電をご記憶の方もあろう。国交省の事前行動計画の試行を概観すると、都市圏水害の課題である組織間の連携不十分な水防活動の現状を踏まえた先を見越した水害防災としての米国「タイムライン」を日本型タイムライン式対応計画の試行を求めている。

@ いつ−基準時間Timeline台風上陸前の120-96時前、以下72,48,36,24,12時間前
A 何を−防災行動Activity準備、公共交通機関停止可能性予告、停止、地下街閉鎖、避難、
B 誰が−緊急支援機構Emergency Support Function行政、消防、警察、ボランティア、

具体例で本邦に無いもの

@ 72時間前の州知事による緊急事態宣言後36時間前に車による一方通行避難準備と24時間前の公共交通機関の停止12時間前の一方通行避難開始
A 12時間前の緊急退避 0 hour上陸時の警察・消防の活動停止と避難が特異
B 120時間前に各機関は防災行動レベル格上 36時間前には郡・州の避難所開設完了


3 現地体験の概要

@ 朝10時ホテルのロビーTVの前に大勢が画面に食い入っていた。NY市長、警察本部長、消防局長の緊急共同記者会見中継『86年振りの大型ハリケーンは明日未明午前2時来襲』3時間後の本午後1時に公共交通機関全面運休、復帰見込無し、湾岸浸水予測地区は即退避等々。A前記の如くにカリブ海諸国の被害は知っていたが、この中継に大勢人々は直ぐに散った。各局は防災機関の準備現況中継で消防・警察・港湾局の状況を競って伝え要員の自主参集状況放映等々で現実の逼迫性を聴視者に強烈に与えている。本邦には準備・参集の現況放映は無く、広報の便宜供与も無い。現職時代に災害対策主管課や広報課のNo2経験者としては忸怩たる思いであった。B 『暴風雨でここは大丈夫? 』とホテル支配人に尋ねた『市のインフラには頼らない自家発電に給水・備蓄がある。』の由、自家発電に備蓄と従業員の参集まで説明された。近隣の摩天楼は次々と消灯、店も消灯、ブロードウェーのネオンも、8階から見下ろすとあの混雑するタイムズスクェァ交差点は、何と人影疎ら、取り急ぎ水をと向側の店に飛込むと商品は2割も無い、店員は「早く買って帰れ」と店終準備中が午後2時の現況。C通過の翌日も地下鉄は安全確認で全面運休、セントラルパークまで歩いた。帰路のタクシーはNYC発行の3倍料金徴収許可書を見せられた。是非と所望すると「商売道具」と断られた。受益者負担の原則と危険負担者優遇策と新たな発見をした。


4 終章

「タイムライン」と「提言募集システム」は事前対応が不可欠の訓えである。

The country of Japan is very fortunate to have citizen like youと電子マガジン53号「日大大学院 紀要No5マイアミ図書館所蔵・展示」をOrosaマイアミ警察本部長に送付したら、謝意のe-mailと懇書を新年早々着信した。


【注釈】



総合社会情報研究科ホームページへ 電子マガジンTOPへ