司書のつぶやき(7)
名刺が語る図書館

文化情報専攻 13期生 大塚 奈奈絵

 東日本大震災の記録を収集する業務を担当するようになって、もうすぐ1年になる。公共図書館の方々とお会いして名刺を交換することが多いのだが、昨今のゆるきゃらブームを反映して、かわいい図案入りの名刺が目をひく。北海道立図書館のハートの眼鏡をかけたぶっくん、茨城県立図書館のブック・マーくん、千葉県立図書館のチーバ君、埼玉県立図書館のコバトンも本を読んでいる。多くは自治体が選定したマークや写真を使っているのだが、中にはREFERENCE SERVICEというロゴや「図書館海援隊」と書かれているものもある。
 レファレンス・サービスは、以前から来館者に対する情報提供や相談業務の他、電話や文書、メールでの問い合わせへの回答業務として行われてきたが、現在ではこれを発展させて、あらかじめ準備した主題情報等をパスファインダーとして図書館のホームページや印刷物で提供する情報発信や、利用者教育と呼ばれるオリエンテーションやガイダンスが盛んである。また、多くの図書館のレファレンス回答の経験を蓄積した「レファレンス共同データベース」が国立国会図書館から提供されていて、利用者が自分で「文献の調べ方」等を参照したり、主題に関する文献リストを入手することもできる。
 つまり、図書館のレファレンス・サービスは、利用者からの問い合わせに対して情報源や情報を提供する質問回答型の直接サービスから、利用者が容易に情報にアクセスできるように情報環境を整備する間接サービス、特にインターネットを利用した「発信型」サービスに進化してきているのだが、レファレンス・サービスという言葉そのものの知名度はあまり高くない。さらに、最近では、レファレンス・サービスと同義に使われる情報サービスという言葉の方がよく使われるようになっている。実際、平成22年度の司書資格取得に必要な科目の変更によって、「レファレンス演習」と「情報検索演習」が「情報サービス演習」に統合された。レファレンス・サービスという名称を持つ科目がなくなってしまったのは少し残念だが、情報サービスという言葉の方が一般の方々にも分かりやすいのだろう。
 一方、もう一つの「図書館海援隊」は、平成22年1月に有志の公共図書館がハローワーク等の関係部局と連携した貧困・困窮者支援を本格的にはじめたことから広がった活動である。その後、参加館を広げて、現在では、医療・健康、福祉、法律関係等、地域が抱える様々な課題に役立つ情報の提供等が様々な図書館で行われている。図書や雑誌、行政の支援制度に関する資料等の提供に加え、自治体や専門団体等と連携して、各種の相談会・講演会・説明会・セミナー等を開催する等、従来の図書館サービスの枠組みを広げる活動として、課題解決支援サービスとも呼ばれている。多くの図書館がネットワークを組んで相互に協力しあうことも特徴である。
 こうした活動を反映して、平成24年12月に改訂された文部科学省の「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」では、「地域の課題に対応したサービス」が新設された。公共図書館の研究会などでは、図書館海援隊のメンバーをはじめ、図書館職員が積極的な活動の報告を行っていて、とても頼もしい。
 ところで、最初の名刺に話題を戻すと、宮城県図書館の方々の名刺には、むすび丸と共に「復興へ頑張ろう!みやぎ」のスローガンが、岩手県立図書館長の名刺には陸前高田市の軌跡の一本松の写真に白く大きな「三陸復興」の文字が入っていて、名刺の裏に刷られた「復興を目指す姿」というタイトルの文章が心に響く。被災地の地域の課題は、まだまだ先の長い復興であり、大震災の記録や復興に必要な情報を集め、それを提供していくために被災地の図書館はがんばっている。ホルダーに並べた様々な名刺を眺めて、私は今日も元気をもらっている。




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