宮本晃 著
『あなたの未来を拓く通信制大学院―日本大学大学院・宮本ゼミの12年のドキュメント―』
(東信堂・2011年9月)

文化情報専攻 教授 松岡 直美

 平成11年、総合社会情報研究科は日本初の通信制大学院としてスタートし、日本大学の歴史に1行を刻んだ。著者はその創設に中心的役割を果たし、以来、12年間にわたり、人間科学専攻教授として本研究科の教育研究活動を牽引した。この間、90名もの修了生を世に送り出しただけでなく、文科省大学設置審議会・通信教育専門委員会委員等を歴任し、本研究科だけでなく、日本の通信制大学院の基盤整備に大きな足跡を残した。こうした功績によって、平成25年3月、日本大学より日本大学名誉教授の称号を授与されている。 本書は、そのような日本における通信制高等教育のパイオニアたる著者が社会人通信制大学院の意義と役割、そして未来に向けての可能性を、自らが主宰した宮本ゼミの12年間の実践を例証に語り尽くしたものである。
 第1章「大学院開設の経緯」は日本の通信制大学院創世記でもあって、教育機会拡大の理念を具体化するにあたって、著者自身が修学した日本およびアメリカの大学院を掛け合わせてモデルとしたこと、また、ITの飛躍的発達を受けて、遠隔教育の手段をインターネットとパソコンを活用した双方向性システムとし、その構築に焦点を定めたことが述べられている。現時点からみれば当然と思われても、ITの開発・進歩の方向が定まっていなかった時代の判断として、その先見性に敬服する。
 第2章「12年間の推移」では、加速するIT化に追走しつつ、教育システムを更改し、また情報リテラシーの向上著しい学生の変化と要求に対応すべく努力を続けた様子が語られる。同時に、ライバル校の開設が続く中での志願者数の減少、ひいては研究科の運営が厳しさを増していく状況についても忌憚なく、報告されている。
 第3章「ゼミの紹介」は宮本ゼミの活動記録であり、筆者などにとってはゼミ運営のための貴重な参考書・指南書とも言うべき内容である。社会人大学院生一人々々の特性を尊重し、その自己啓発の力を信じること、孤独に陥りがちな研究生活を支えるためにゼミのネットワークを常にオンにし、互いに励まし合い、助け合う雰囲気を醸成することなどなど。
 第4章「大学院受験の手引き」は、これから進学を考える社会人に向けての、具体的な助言集である。タイトルの「あなたの未来を拓く・・・」が示すとおり、サイバーやインターネットの先にあって、修学の術を求めている「あなた」一人々々に向けて語りかける言葉の調子は著者ならのものだ。ゼミ生の体験談も交互に挿入されており、宮本ゼミの対話と語らいの風景を彷彿させる。
 第5章「新しい通信教育」は12年間の実践を踏まえての、これからの通信制大学院の具体的ビジョンを示すものだが、同時に、生涯教育、延いては教育の本質を語るものである。さらなるICT の発達によって、教育の民主化も加速している。アメリカなどではオンライン・コースの開講で履修生数万人という事象も報告されており、教育はその機構や概念において大きな変革を迫られている。そのような時代にあって、教え育むという教育の本質を説く本書は本研究科の教育・研究に関わる筆者にとって、大きな拠り所ともなるものだ。
 著者は「まえがき」を次のように結んでいる。「これまでゼミ生と議論を重ね、成果としてインターネット上に、ヴァーチャルな研究室を完成させた。そして、通学制の大学と比較しても遜色ないような研究室、すなわち在校生だけではなく修了生をも含めた、コミュニティーを創造できたと考えている。」本研究科は平成25年3月、同窓会を正式発足させた。宮本晃先生の「コミュニティー」を研究室から研究科に拡大することを意図したものであることは言うまでもない。




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