司書のつぶやき(5)
MLA連携
文化情報専攻 13期生 大塚 奈奈絵
闘病中だった友が、あっけなく逝ってしまった。20年以上を同じ職場で過ごし、若い頃は一緒にリサーチをして論文を書いた。子育てを経て、彼女が図書館情報学の社会人大学院の博士後期過程で学び初めた頃、私も総合社会情報研究科に入学し、二人で女子大生気分を味わった。現在、私は、彼女が大学の先生方と書いた本を教科書にして、司書科目を教えている。
亡くなる1週間前まで、あれこれ電話で語り合っていた。あまりに早い逝去に呆然として家に帰り、本棚に彼女の言葉を探した。目にとまったのは、数年前に専門雑誌に書かれた「私の就活とMLA」というエッセイである。そこには、私が知る前の大学生時代の彼女の姿があった。
史学科で学び、社会科の先生か博物館に勤めたいと考えていた大学3年生の彼女は、就活のつもりでアルバイトに行った東京国立博物館で図書館学を知り、学芸員の資格だけではなく、司書課程も取ってごらんという博物館職員のアドバイスにしたがって、勉強を始めたという。彼女との会話の中で、この話をサラっと聞いた覚えはあるのだが、すっかり忘れていた。
MLA連携という言葉は、博物館・美術館(Museum)、図書館(Library)、文書館(Archives)の連携(partnership)の略称である。どの機関も、文化的な情報資源を収集・蓄積・提供しているという共通点があることから、時には、それぞれの組織の枠を超えた連携が求められる場合がある。1990年代から使われていた言葉であるが、日本では、東日本大震災後の被災地での支援活動で、文化財レスキューという言葉とともに、図書館員の世界に浸透した。最近では公民館のKを加えた「MLAK連携」が使われることもあるという。
私の働く国立国会図書館は、刊行物以外の文書類や様々な形態の資料を持っているため、様々な機関と協力を行っている。私自身が担当する仕事の中でも、同じような資料を分け持つ博物館やアーカイブズ等と協力する機会は増えている。一方、公共図書館でも、郷土資料(地域資料)と呼ばれるそのサービス地域に関連するさまざまな資料を収集することがあり、司書が本や雑誌以外の古文書や行政資料、時にはオーラルヒストリー等を扱うこともある。したがって、郷土資料を担当する司書が、必要に迫られて学芸員勉強を始めたというような話を聞くこともある。
そうしたMLA連携が論じられる場合には、それぞれのコレクションのデータベース化や情報資源のデジタルアーカイブ化が共通の課題として取り上げられることが多いのだが、彼女のエッセイは少し違った。最後の文章は、「博物館・美術館、図書館、文書館の連携、という話題をきくたびに、まずは人の面での交流や、それぞれの最も得手とするノウハウの交流がもっと盛んになれば、と思っている。」と結ばれている。
この文章を読んで、私は実に楽しい気分になった。今年の私の仕事の一つがテレビやラジオの脚本・台本を受け入れる事なのだが、まずは、同じような脚本・台本を所蔵する博物館やアーカイブズが集まり、それぞれの機関のノウハウや状況を報告しあう機会を持つことを決めたところだったのである。標準となるようなデータベースの開発はその次のステップで。
やっぱり、親友、同じようなことを考えていたんだね。落ち込んでいた気分がすっと晴れた。今年はテレビ・ラジオの脚本・台本のMLA連携の実現を目指して努力したい。