東日本大震災を乗り越えて

国際情報専攻 橋本 浩介

 私は、福島県郡山市というところに住んでおります。入学が決まった年に、東日本大震災の影響を受けました。修士論文の最終稿の提出を終え、振り返ってみると、最後まであきらめないで本大学院で学んでほんとうによかったなあと思います。

@入学の動機

 そもそも、私が本大学院で研究しようと思った理由は、専門知識をバージョンアップしたいと思ったからです。
 私の職業は税理士であります。10年ほど前に税理士の資格を取得し、それ以来、地元のファミリービジネスのお客様を中心に、税務、会計、経営支援、事業承継支援などの実務を行っております。
 しかし、国家資格は取得したらおしまいというものではありません。例えば、私の勤務先の公認会計士の先生からは、「専門知識の耐用年数は、せいぜい2,3年であり、常に勉強を続ける必要がある」という指導を受けております。また、勤務先の若手の職員で国家試験の勉強をしている受験生に最新の会計基準などのことを聞くと、スラスラと答えることができます。しかし、私の専門知識は、国家試験の受験生時代に得たもので止まっており、劣化しておりました。そこで、クライアントの役に立つためには、専門知識をバージョンアップする必要があると感じていました。
 そのような状況で、本大学院のことを知り、本学は通信制大学院のトップランナーとして、地方に住んでいても研究していける仕組みが整っており、ここなら勉強してけると考えて、本大学院に入学しようと考えました。

A東日本大震災

 入学試験の合格発表があった後、東日本大震災が起きました。この震災により私も自宅に大きな被害を受けました。
 その時の状況は、水が出なくて消防署に水をもらいに行ったり、物流が止まってガソリンや灯油が手に入らなかったり、また、食べ物もなかなか手に入らなかったりというものでありました。他にも私の周りには、原子力発電所の事故で、放射線の影響を心配して、奥さんと子供を他県に非難させ、お父さんだけ福島県に残って働くという家族もあります。食べ物については、いまだに子供さんに対する影響を心配するお母さんがいらっしゃいます。
 こういう状況で、勉強していけるのか、そもそも勉強していていいのかと、入学を取りやめるかどうか迷っておりました。
 そのような中、階戸先生から、私の安否をご心配いただく内容のメールをいただきました。そのメールを読んで心が温まり、「地震の前に、やると決めたことはやろう」と決めて、入学辞退の手続きはせず、本学で研究することにしました。入学後も階戸先生にはご心配いただき、時には先輩も一緒に、福島県に何度もお越しいただきました。

B集合ゼミとサイバーゼミ、ゼミ合宿

 そのような状況でのスタートだったので、入学式には出席することができませんでした。
 その後、やっと新幹線も復旧し、最初の集合ゼミに出席いたしました。その時出会った、先輩や同級生のみなさんは、人間性豊かな方ばかりで、このような私の状況を温かく見守っていただきました。
 それ以降、仕事の都合がつく限りは、集合ゼミやサイバーゼミ、ゼミ合宿に参加いたしました。
 そのようにゼミに積極的に参加するようになった理由は、集合ゼミやサイバーゼミなどに出席すると、みんなががんばっているのだから、私もがんばろうという気持ちが湧いてくるようになったからです。また、みなさんにレポートや修士論文の研究の進み具合をお聞きして、ペースを立て直す場でもあったからです。
 そのような気持ちの問題だけでなく、先生方、先輩方、またはゼミ生の皆様からいただくご指導、ご質問によって、私の修士論文の研究は、毎回毎回、磨き上げられていきました。ゼミ生のみなさんは、いろいろな職業の方がいらっしゃいますので、それぞれお仕事で得ている経験からのご意見は非常に貴重でありました。
 初歩的な目次や注記の書き方、先行研究の調べ方、定跡となる基本セオリーの用い方、論文のオリジナリティーの重要性、リサーチクエスチョン、リサーチアンサー、今後残された研究課題という論文の流れなど形式的なことだけでなく、実質的に重要なこともご指導いただきました。

Cまとめ

 東日本大震災を乗り越えて、修士論文の作成を終えることができたのは、まわりのみなさんのおかげでありました。
先生方には、いつも適切なご指導をいただきまして、どうもありがとうございました。先輩方には、ツボを捉えたアドバイスをいただき、おかげさまで、私の修士論文は磨がかれました。どうもありがとうございました。同級生の皆様、最後まであきらめないで研究を続けられたのは、皆様のおかげであります。どうもありがとうございました。下級生の皆様、このようなすばらしい本大学院の風土を今後も承継していってください。よろしくお願いいたします。
 当初の目標の専門知識のバージョンアップは達成できたと思います。加えて、様々な年代や職業の皆様といっしょに研究できたのが、私の本大学院で得た一番の財産であります。
 勉強や研究に終わりはないのかもしれません。修士論文の提出は済んだものの、不思議ですが、あんなに大変だった研究が終わったという感じはなく、反対に、修士論文だけでは研究しきれなかったことを、もっと研究したいなあという気持ちでいっぱいあります。



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