司書のつぶやき(3)
図書館員とフェミニズム
文化情報専攻 13期生 大塚 奈奈絵
映画「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」を長女と見に行った。なつかしい1970年代の映像の数々。「規制緩和」、「民営化」、「小さな政府」、そして、男性議員の中に紅一点のサッチャー首相。終了後にお茶をしながら、「私の職場もああなんだよ。二人いる部長の一人は女性だけど、課長は全員男性だから、管理職の会議をやっていると女性は一人だけ。」と地方公務員の長女がいう。「15年前は、霞が関もそうだったよ。全省庁のネットワーク担当者の会議に行くと、女性は私とコーヒーを配っている喫茶の女の人だけ。でもね、5年間出席していたら、3人になったけど。」「えー、そうなんだ。」
あれ、何だかいつもと展開が違う。いつもは、私の昔話を「お母さん、フェミニスト」と笑う長女が、メリル・ストリープの熱演のおかげか、相槌を打ちながら聞いている。女性が4年制大学に進学し、働くことが普通になった娘世代と、男女格差が大きな時代に働きながら子供を育てた母親の世代の間には、常に微妙な意識のギャップがあるのだが、社会に出て、結婚し、子供を産み・育てることが現実に近づくにつれて、最近は少し変わってきたように感じる。
ところで、前回の「司書の資格と通信教育」では、図書館の職員には非正規雇用が多く、また、公務員の定数削減による業務委託や指定管理者制度などによって、日々雇用で働く人が増加していることを述べた。数年前に、「官製ワーキングプア」なる言葉が流行したが、図書館という職場は、非正規雇用の人々、しかも多くは女性達によって支えられている。
長年、民間企業に業務を委託していて疑問に感じるのは、男性に比べて、正社員ではない女性が圧倒的に多いこと。しかも、委託する側からみても、きちっと仕事のできる女性達が、契約社員やアルバイトとしてもくもくと働いている現実である。
私自身は、父を早く亡くし、高校からは特別奨学金とアルバイトで学費を払い、国立の短大を卒業して司書資格を取った。借りた奨学金を全部返さなくてはならないから、できれば長く働きたい、しかも、おりからの不況で、「民間企業は母子家庭の女の子は採用しないよ」という教官の言葉もあり、公務員を選んだ。男女差別の少ない仕事を探した結果、よい仕事とよい同僚に恵まれ、幸運だったと感謝している。
だからというわけではないが、昨今の公務員の削減は仕方のないことだと思いながらも、定数削減や業務委託で若い人たちの門戸が狭くなり、非正規雇用が増えていることが、割り切れない。非正規雇用で働く人の多くは、経済的に自立できるような給与をもらえていないのだ。
こんなことを考えていたら、『出版ニュース』の4月上旬号に「図書館で働きたい人は多いが・・・」というコラムがあった。「「司書資格、図書館業務経験一年以上、土日勤務、時給750円」という募集広告が新聞の求人欄にあった。・・・この条件で応募できる人は、家事手伝いで家にいて時間がある人だろう。」「これをみて図書館関係者、または図書館で仕事をしたい人はどう思うのだろうか。」「数年前の話だが、ある地方の先進的といわれている図書館で、時給300円ほどで募集したところ高学歴の女性らの応募がけっこうあったという。・・・どう考えてもおかしい。」確かにおかしい。コスト削減をうたう民営化の陰に、女性の雇用の問題が見え隠れしている。そう言ったら、長女にまた「フェミニスト」と言われるだろうか。