限られた時間を効果的に活用するために

国際情報分野 加藤 孝治

 私はこの春、3年間の博士後期課程を終えて博士の学位を頂くことができました。最初に指導教官の階戸先生をはじめとする先生方、および一緒に学んだゼミの仲間にお礼申し上げます。ここで私が過ごしてきた3年間の経験について反省を交えながら記すことで、この後、同じ道を目指される方の少しでもお役にたてば幸いです。

 先ず、3年間を終えての感想は、博士後期課程の3年間はあっという間に過ぎていったということである。博士後期課程の間には大学院のカリキュラムとして作成するリポートのほか、査読付きの学会論文も作成する必要がある。一見、提出を求められる学科リポートの数は比較的少なく負担が小さく見えるかもしれないが、学会論文の執筆が求められていることと重ね合わせてみると、社会人として仕事をしながら博士の学位を取得するには、相当に時間を有効に使うことを意識して、入学した時点で3年間の時間の過ごし方を考えておく必要があると申し上げたい。

 論文の作成については、博士課程入学後、早い段階から先生とよく相談して全体の論文の趣旨を作りこんでいく必要がある。最初に方向性を固めることで、そのあとのリポート・論文の作成を効率的に行うことができるだろう。研究を進め、幅広い知識・教養を身につけていくためには自分の専門以外のものにも興味がわき、手掛けてみたいと思うかもしれない。ただし、博士論文を執筆することを優先して考えるならば、効果的に時間を過ごすために、論文の中で取り上げたいテーマを最初に考え、それに合わせて大学院の学科を選択するべきであり、学会論文もそのための一部として作成したほうがよい。学会論文、大学院に提出するリポートの一つ一つを博士論文のなかに、どのように位置づけるかもよく考えて取り組んだ方が良い。可能な限り、一度作成したものを博士論文の中に取り込んでいける方が良いだろう。それぞれのリポート・論文が博士論文の一章、一節になればその分時間を効果的に使い、博士論文を作成することができる。自分の設定したテーマを深く考えていくことが必要とされる博士論文を作成することは、社会人との両立を考えると、3年間では時間は全く足りない。深く考えようとすればするほど時間はどんどん過ぎて行ってしまう。このとき、リポート、学会論文を博士論文の中に取り込んでいくことが効果的だろう。

 学会論文の投稿にあたって、気をつけておきたいことがある。それは、可能であれば入学後早いタイミングでどこかの学会に属し、その雰囲気・ルールをよく把握しておいたほうがよいということである。学会の中には、発表しないと論文が投稿できない場合もある。この場合は入学して1年目には発表しないと論文投稿が間に合わなくなってしまう可能性もある。また、論文投稿に先立ち、学会の先生方と交流しておくことで、自分の研究テーマに対して、大学院以外の先生に(結果的に)論文指導して頂くこともできる。こうした機会を効果的に活用すべきであろう。

 博士論文の作成にあたり、求められることは先行研究に対する深い理解と自らの研究のオリジナリティである。自らの研究のオリジナリティに関しては、先行研究をよく見ておかないと独りよがりになってしまう。自分の研究をベンチマーキングするためにも、誰かの論を踏まえつつ、違いを明確にするとよいだろう。先行研究との違いをどのような切り口で考えることができるのか、気がついた時点で、その都度メモを取っていった方が良い。その一方で、先行研究を調べることはどこまで行ってもきりがない。国内外の主要な論文のうち、欠くべからざるものをおさえないといけないが、ついつい興味がわいてきて、少し周辺の論文や最近の論文・研究成果などを見始めると、横道に入っていってしまい、結果的に研究の焦点がぼやけてしまう可能性もある。自制心を持って取り組むべきであろう。

 この日本大学総合社会文化の大学院での学位取得に向けた取り組みのなかで特徴的なことは、指導の先生方の専門分野が、経営学的切り口、人文学的切り口、心理学的切り口など多岐にわたっていることである。そのため、中間発表のときなどに示して頂ける指導・質問も、幅広い見地からの示唆に富んでいる。こうした幅広い視野からの切り口というのは研究を進めるにあたり独善的にならないためには大変良いことであったと考えている。研究というのは、自分が分かればよいということではなく、多くの人たちに理解してもらえて価値が定まっていくものである。多様な切り口での質問に耐えられるようになって初めて一人前になっていくとも言えるのだろう。

 以上のようなことを考えながら、私も限られた時間の中で、なんとか博士の学位を頂くことができた。今後も、この3年間の経験を生かし、研さんを深めていきたいと考えている。最後に改めて、いろいろと無理を聞いて頂いた先生方および大学院の事務の方々にお礼を申し上げたい。有難うございました。



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