― Dreams come true ―
文化情報分野 伊藤 順子
8月1日、中国の西安師範大学において5日間に亘って開催される「中日韓言語・文化研究国際学術共同シンポジウム2011」での発表のため、私は機上の人となった。やにわに隣の席の紳士が尋ねてきた。どちらへ、何のために。そこで私は少しはにかみながら、しかし1語1語味わうように答える。「はい、国際学会が西安でありますので。」私のささやかな夢が叶った瞬間である。そして国際的なビジネスマンと如才ない会話が続き、やがて名刺交換となった。小さな紙に小さく、「博士」「Ph.D」、と書かれた文字に反応する相手の様子を見る。これが第2の夢。その時、どんな気持ちかしら、と思い続けていた。そして、実際に「今、私はそれをやっている」と思ったとき、それは意外にあっけなく、私の中ですっと溶けていく感情だった。
修士課程が終わり、「朗唱」というテーマに益々のめり込んでいたが、具体的にどうしていいか、見当もつかなかった。そんなある日、たまたま子供の水泳教室を参観していたら、子供が幼稚園の時に知りあったママ友達にバッタリ出会った。彼女も子供を、同じ水泳教室に通わせていたのだ。
彼女は台湾人で、台湾での大学を終えた後、日本の大学で博士課程に在籍していた。互いの研究の話で盛り上がり、彼女が文字を持たない台湾原住民の口承文化について教えてくれたことが、全ての発端となった。
彼女の紹介で、台湾国立政治大学の原住民研究センターの先生方との交流が始まった。それから、小田切文洋先生が拾い上げて下さり、それはもう1から10まで、本当に何から何まで教えて頂いた。このご恩はとても言葉では表せない。また呉川先生には、中国語から様々なネットワークまで、計り知れないご配慮を頂いた。台湾における、先生の目を見張る人脈のお陰で、私の論文は完成したといっても過言ではない。(冒頭のシンポジウム発表も先生のご尽力で実現した)さらに、今回の西安での発表のために、南島諸島の歌謡研究で高名な先生に、原音を拝借できるようお願いしたのだが、すぐさま、わざわざテープに入れて送って下さった。台湾でのフィールドワークの際に、お世話になった原住民の方々やインフォーマントになって下さった原住民の方々のご厚情も決して忘れることはできない。
つまり「学ぶ」とは「学ばせてもらう」と言い換えることができるのだ。私の夢は、一体どれほどの人々のご厚意の上に成り立っているのだろう。家族にもどれほどの愛で支えてもらったことだろう。私の新しい夢は、頂いた様々なご恩に報いることだ。出会った全ての方々に、全ての文化に、全ての自然に、そして地球に。
今回のシンポジウムで、また新たな出会いがあった。本年10月20日から別のシンポジウムが始まる。さあ、少しでもご恩に報いるという、新しい夢の実現に向かって、歩きだそう!それは冒頭のはかない夢とは異なり、手に入れた時、ずっと暖かく心に留まるに違いない。