寄席にはじまり寄席で締めくくった2年間

人間科学専攻 栗崎 由貴子

 生きている目的を問われれば「落語を聴くため」と即答するほど落語好きの私。そんな私の大学院進学の楽しみは「学割で寄席に入れる!」だった。
 入学式当日。式典終了後、私は久々の学生証を握りしめて、スーツ姿のまま新宿末広亭へ行った。念願の学割で入場。そこで大爆笑して大満喫、「学割ブラボー!」と歓喜・・・するはずだった。
 しかし、実のところ、その日の演目のほとんどを覚えていない。なぜなら、はじまった大学院生活は初日から甘くはなかったからだ。ガイダンスで配布されたシラバスにはワケのわからない専門用語ばかり載っているし、指定教科書は何冊もあるし、佐々木健先生から「研究テーマのために読んでください」と言われた本は著者が誰かすらも知らないものだったし・・・・。客席の座布団の上で体育座りをしながら、すでに私は「とんでもなく無謀なことを始めてしまったのではないだろうか・・・」という不安でいっぱいになっていた。2階席で落語をBGMにわが身の行く末を案じているうちに、いつの間にか寄席は終演していた。初日からそんなあり様だった。
 この2年間は、入学初日に案じた以上に想像を絶する闘いの日々だった。しかも、闘いの最中に、あわよくば落語、自分へのご褒美と言っては落語、と好きなことをさらさら我慢する気はないものだから、時間のないこと至極である。
 そして、無事むかえた修了式の翌日、私は再び新宿末広亭に向かった。一般料金で入場した時、「ああ、本当に修士課程が終わったんだな」と実感した。2年前と同じ2階席に腰かけると、様々な出来事が走馬灯のようによみがえってきた。
 仕事でくたびれきった心身にムチ打ちながら、レポートや修論を書いては絨毯の上で仮眠をとり、また仕事に出かけるという毎日。追いつめられた夢ばかりみて、ろくに眠れなかった夜。何度も頭をよぎった休学や退学の二文字。佐々木先生とさしで(!?)一献かたむけた時、最後まで先生の酒量ペースに付き合うことができた己のたくましさにほくそ笑んだ日のこと。オープン大学院in金沢で、皆さんとゆっくり語り合った素敵な時間。同期ゼミ生全員で迎えることができた修了式の晴々しい喜び・・・・いろいろいろいろ。先生方や先輩に励まされ、友の頑張りに勇気づけられ、周囲の人たちに助けられながら、2年間で私が学んだことははかりしれない。
 私にはもう学割はないけれど、今は2年間で得た力がある。たくさんの思い出を糧にして、社会に「帰ろう」と思う。
 2年間支えてくださった皆様、本当にありがとうございました。


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