実のところ

文化情報専攻 牧田 忍

 奮戦らしいことはあまりしていないのです。僕が「奮戦しました」などと言ったら姉たちからは大爆笑され、合戦などで本当に奮戦死した落ち武者に化けてでられそうな気がします。甥っ子は、宿題は泣きながらやるのに大好きなゲームに関しては一日中、テレビの前でピコピコとやっています。その叔父さんにあたる僕は好きなことをやるために大学院に入学し、四六時中、パソコンに向かってカチャカチャとキーボードを叩いていたというわけです。もちろん、学問とテレビゲームを一緒くたに論じるつもりはありません。僕が言いたいのは〈好きなこと〉を〈楽しく〉やることの効能です。
 社会人学生であるかぎり、仕事と学業の両立や家族・人間関係、経済問題などの試練が無いわけではないのです。けれども「夢中」とはよく言ったもので、好きなことに取り組んでいると別の世界にいるような元気がみなぎり些細な困難は気になりません。多少の不愉快や妨害があったとしても、そこのけそこのけお馬が通る、といった感覚で不安要素を蹴散らしながら邁進することができました。
 僕は風体こそモッサリとしていますが心身ともにタフな人間とは程遠く、興味や関心の無いことには人一倍面倒くさがり屋で、人づきあいも苦手です。しかし、この大学院では多くの方々とふれ合うことで刺激や影響をうけ、様々なことに夢中になれました。いくら自分が好きなことをやりたいと言っても、楽しく取り組める環境が整っていなかったら瑣末な悩みに足元をすくわれて夢中になるのは大変です。けれどもずばり、この研究科では好きなことを実にリラックスして取り組むことができる土壌が整っていました。日常社会には〈七人の敵〉がいたとしても、学内には〈敵〉など足元にも及ばない心強いお味方たちが僕を支えてくれました。修士論文のご指導を頂いた近藤健史先生、スクーリング等でお世話になり修士論文の副査をつとめていただいた竹野先生をはじめ教職員の方々、学友の皆様には深く感謝しています。
 昨今、幕末ブームでイケメン歌手が演じる坂本龍馬に姉たちはテレビの前にクギ付けです。龍馬は西郷隆盛を評して〈小さく叩けば小さく響き、大きく叩けば大きく響く〉釣り鐘のような人物と語ったと言われています。本研究科も西郷どんに似ているところがあると思います。もちろん、これは〈はかりしれない器量を備えている〉という意味のたとえ話で、所沢キャンパスに西郷像が建っているわけではありません。貸与されたパソコンは放っておいたら単なるインテリアですが、大きな可能性を秘めた道具でもあります。勉強の環境は各自さまざまであると思いますが、響かせもしないで鳴らないと嘆くのではなく、どうせやるなら大きく響かせたほうが楽しい思い出となるものと思われます。とは言え、くれぐれも実際のパソコンや人、モノ、ネコなどをぶっ叩かないでください。
 文化情報専攻で学んだことは物事を多角的に深くみるということに尽きると思います。一見、何気ない物事でも色々な見方をしていると、今まで見えていなかったものが見えてきたりして楽しいのです。霊能力の話ではなく物事の捉え方の話をしているわけですが、その意味で言えば、自分が辛いとか大変であると感じていることが見方を変えればすごく幸せなことである場合もありえるということを知りました。このことこそが僕にとっての〈奮戦〉の戦利品であり、皆様にお分けしたいと思います。



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