デトロイトからの便り(19)
―アメリカのプロ・アイスホッケー観戦記―
国際情報専攻 6期生・修了 森田 喜芳
グオー!という歓声とマイクの音響で耳の鼓膜が震えるほどの大音響がアリーナ全体に鳴り響き渡った!デトロイト・レッドウィングスが4点目のゴールを決めた瞬間である。
5月6日(木)アイスホッケーの試合を見に行った。私は以前オハイオ州で大学のアイスホッケーの試合を見たことが何回かあるがプロの試合を見たのは始めてである。実はこのゲームを見たことによりアメリカの4大プロスポーツ(野球、フットボール、バスケットボール、アイスホッケー)の試合はすべて観たことにもなる記念のゲームでもあった。
私の住んでいるデトロイトはこの4大プロスポーツのチームが全て揃っている都市である。私流の個人的解釈ではプロ4大スポーツのチームが存在している都市は一応大都市と呼ばれるのではないかとかと理解している。この条件を揃えているのはミシガン州ではデトロイトのみである。
ちなみにミシガン州では「Michigan Six」と呼ばれているスポーツで、フットボールやバスケットボールのミシガン大学、ミシガン州立大学、プロ野球のタイガース、プロフットボールのライオンズ、プロバスケットボールのピストンズ、そしてプロ・アイスホッケーのウィングスの6つのチームの関心度が多く新聞でも毎日のようにミシガン・シックスを記事として1面を割いて扱っている。更に女子のプロバスケットチームもデトロイトには存在している。
この4大プロスポーツは隣接するイリノイ州のシカゴ市やオハイオ州のクリーブランド市、シンシナティー市などにもある。私が17年間駐在していたオハイオ州のコロンバス市には4大プロスポーツは存在していなかった。当時はわずかにプロ野球のマイナーリーグでNYヤンキースのチームのみ存在していた。そのため休日には家族を連れて近隣の都市へ時々プロスポーツを見にいったものである。初めて家族をプロスポーツに連れて行ったのはクリーブランド市にプロバスケットボールの試合であった。当時のスター選手は「ドクターJ」と呼ばれている黒人選手でセンスとフットワークが芸術的な動きであった。それは1980年であり、今から丁度30年前の出来事であったが今でもそのときの光景は鮮明に覚えている。
今日の試合は特別な試合である。2010年のスタンレーカップ(NHL=北米プロアイスホッケーリーグにおいてプレーオフトーナメントの優勝チームに与えられる賞(トロフィー)でウエスタン・カンファレンスのセミファイナルゲームの第4戦目であり、対戦相手のサンホセ・チームにはすでに3敗しており、今日負ければ一度も勝たずにファイナルゲームに行けなくなるという屈辱を味わうことになる。しかも今までの3敗は全てのスコアーが4対3で負けている。3試合目は延長戦の結果、ホームゲームのデトロイトで負けており、選手もファンもフラストレーションが多く溜まっていた。ちなみに昨年のレッドウィングスはファイナルゲームの対戦成績4対3で惜しくも栄冠を逃した。一昨年は優勝している強豪チームである。
競技場は、毎年新年早々に開かれる自動車ショーの会場であるコボ・ホールに隣接しているジョー・ルイス・アリーナ(往年のヘビー級ボクサーの名前の競技場)と呼ばれているところである。
アリーナは客席が競技場全体を囲った楕円形であり満員のほぼ100%は赤いチームカラーに白地でチームロゴのウィング(Wing=翼)のシャツを着ている人達でありアリーナ全体が真っ赤に埋まっていた。その中での試合は本日が今シーズン最後の試合になるかも知れないとの緊張感もあり、異常な雰囲気の中での試合であった。試合経過は本日のゲームは一方的になり6点目までは全てデトロイト・ウィングスが得点を挙げて、最終ピリオドでようやく相手チームのサンホセ・シャークスが1点をあげた。
試合中は興奮と「Go!Red Wings」の応援の歓声がアリーナ中に間断なくこだまして、得点のたびに立ち上がって白いタオルを振り回して大声で叫んでいた。時々私の後ろの席の学生風の男子の振り回すタオルが私の後頭部に当たったがあまり気にせずに私も一緒になって応援した。本日は今まで溜まっていたうっぷんをかなりはらしたゲーム展開であった。
会場は得点の都度、派手なラッパの音と煙が、天井の4方向から見られる大型スクリーンの上から降り注いでいた。
アメリカではドーム型の室内プロ競技場は全て天井から大型スクリーンを映しており試合の実況やVTR、スコアーなど即時映されているので大変わかりやすくなっている。又、休憩時間にはそのスクリーンを使って観客の応援姿などを映すカメラをあちこちに点在させていて観客は映されるたびに大いに騒ぎ喜んでいた。私も一瞬その大スクリーンに映されて気分が良かった。
試合が進むにつれて本日はデトロイトの勝ちが決まったような感じでもあったせいかデトロイトチームへの応援と相手チームへのブーイングが止まなかった。また何故かデトロイト・レッドウィングスのマスコットが蛸であり得点のたびに蛸のマスコットが観客席からリンク上に投げこまれて係員が回収する姿が滑稽であった。
本日、我々は4人で今日の観戦に来たが、私の友人の夫婦と私のテニス仲間の男性で、そのうちテニス仲間の人は大学時代にアイスホッケーをやっていた経験の持ち主でゲームに大変詳しく、私の隣に座っていたので色々解説やゲームの展開などについて教えてもらった。とても判りやすくポイントを抑えた参考になる内容ばかりだったのでありがたく感謝している。
我々の座った席はゴールを斜めから見える大変良い席であり、得点を入れるときのシーンが良く見られて良かった。試合が後半に進むにつれて選手同士のぶつかり合いで体当たりの音と体重が200ポンド(約90s)以上の大男がすごいスピードでリンクにもつれるようにしてぶつかっていくシーンを眼の前に見たときには驚きと多少の恐怖を覚えた。又、時々選手同種が殴りあいやチーム同士の集団での乱闘は、テレビなどでみているのとは比べ物にならないくらい迫力満点であった。
選手たちのスケートでの滑るスピードとスティックの動きやパック(ボールに相当するもので硬質ゴム製の円盤のもの)の飛んでくるスピードに最初は中々なじめなかった。しかし、しばらくしてからパックの飛んで行くところが見えるようになってきた。(最初は初めてプロゴルフのトーナメントを見に行った時に選手が打つ球が何処に飛んでいくのか初速スピードについて行かれなくて玉を見失う現象と同じであった!)
選手のスケートの巧みな動きで前進のみならず横への移動やバックで守りのために後退していく足技とスピードも見事であった。試合後、パンフレットで選手紹介欄を見たら多くの人がカナダ人であった。もともと幼少のころからスケートに馴染んだ人たちだったのであろうと思った。兎に角、スピードの速さと滑るテクニックと運動量は大変激しく相当の体力が要るスポーツであると思われた。又、ゴールキーパーの俊敏さはすごかった。あの完全武装したユニフォームでしかもあの小さいパックをグローブの中に入れるのは神業に近い早業であった。テニス仲間の人によればアイスホッケーは一番体力を使うスポーツではないかとの話であったが私の同感であった。
試合が終わってから帰宅まで少々時間がかかったが順調に自宅まで車で帰れたのはさすが車社会のアメリカの道路事情だと改めて感心した。尚、アリーナを出てからダウンタウンにある「ピープルムーバー」というデトロイトの中心を走る無人高架列車は、1周を15分程度でダウンタウンを一望できて川向こうのウィンザー市、カナダ国も見える列車に多くの人が帰りに列を作り並んで待っていた。アリーナから少々遠いところに車を駐車している人たちであった。
今日は、アイスホッケー観戦の前に4人でダウンタウンにあるアリーナの近くにあるカジノで食事をした。デトロイトには2つのカジノがあり、そのうちの以前からあるカジノの中でビールとステーキで美味しい食事と会話を楽しんでからアイスホッケー観戦に出掛けたので自宅の戻って来てもおなかは満腹状態であり、かなりゲームの興奮の余韻を残していた。
尚、カジノでは今年の5月1日から始まった禁煙条例には関係がなさそうでタバコの煙と臭いが入場したら直ぐに感じた。そのゲーム場のレストランに行く途中に友人がカジノには時計が掛かっていない!との説明をしてくれた。その理由は時間を気にしないでゲームをしてもらうために時計が無いのであるという説明に納得した。私はこのカジノは3回目であるがいつもと変わらず大勢の人たちがスロットルマシーンでゲームを楽しんでいた。
本日は良い1日であった。美味しい食事と楽しい会話、そして初めて見るプロのアイスホッケー・ゲームを観戦させていただき大いに楽しんだ!招待してくれた友人に感謝 感謝!の日であった。