公開講座の意義

博士後期課程 大山 眞一

 平成21年 7月11日(土)、市ヶ谷で開催された松岡先生の日本大学大学院総合社会情報研究科第2回公開講座に続き、同年12月12日(土)、所沢で開催された眞邉先生の第4回公開講座に参加させていただきました。第2回目の公開講座は市ヶ谷でしたので、なんとか都合がついたのですが、所沢は小生の所からは遠方ということもあって訪れる機会は限られていました。しかし、研究が一区切りついた時期だったことも手伝って、眞邉一近先生の「環境問題における心理学の役割」という演題に惹かれて重い腰を上げた次第です。もともと心理学に対する潜在的興味はあったのですが、今回の環境生物学に視点を置いた心理学的アプローチにも大いに期待するものがあったのです。

 ご存知のように眞邉先生は行動分析学・比較心理がご専門ですが、今回の講座は、クリーンエネルギー(風力発電・太陽光発電・水力発電)が自然界に与える影響に的を絞った発表でした。一般に、地球に優しいクリーンなエネルギーとして考えられている風力発電が、鳶(トビ)に思わぬ悪影響を与えている現状を詳細な資料を基にその研究成果が報告されました。自然に優しいとばかり思い込んでいた風車のブレード(羽)に鳶が衝突する事故が多発している事実には大変驚かされました。先生のご報告では、風車が大型化し、高速回転で生じるブレードの透明化が事故の原因として考えられ、数々の実験でそのことが実証されつつあるようです。その検証のためには鳶の視力の実験やその生態や心理まで分析する必要があることには少なからず興味を覚えました。同じ人間科学分野に属しながら、仮説→実験→データ→分析→実証という自然科学系のプロセスは、人文科学系の研究手法とは著しい差があることも認識でき、参考となるところ大でした。また、眞邉先生に、心理学者の他に生物学者の側面が垣間見られたことにも意外性を覚えましたが、さすが心理学者だけに鳶の心理分析には鋭いご指摘がありました。

 さて、今回の公開講座に参加された方々を拝見していると、シニア層、特に高齢者の方々が数多く見受けられました。しかも、自転車や徒歩で参加された方がちらほらと見え、近隣の参加者と思しき方が少なからずいらっしゃったように思われます。推測するに、第1回から連続で参加されていた方も数多くいらしたのではないでしょうか。講演の後で眞邉先生に熱心に質問されていた高齢の方もいらして、頭が下がる思いでした。
 本来、生涯教育とは地域に密着したこのような姿が望ましいのかもしれません。公開講座ですから、不特定多数を対象とした性格のものであることは言うまでもありませんが、地域のシニア層、特にご高齢の方々が熱心に参加されている事実は、彼らの絶えざる向学心と各地域に存在する大学がより地域社会に溶け込んでいる存在であることを如実に示しているということができましょう。今後とも地域住民の知的好奇心の受け皿としての大学の果たすべき使命が大いに期待されるのではないでしょうか。

 しかしながら、その一方で小生のような院生の参加が少なかったのは誠に残念なことです。公開講座に参加して思ったことは、自身の専門分野に囚われるあまり、幅広い知識の修得に無頓着であった自分に改めて気づかされたことです。専門分野外の研究の手法が自身の研究手法のヒントとなる場合もあることを痛感しました。研究の幅を拡げる意味でも、専門分野以外の研究にも耳を傾ける効用も少なからずあるように思われます。研究に行き詰った時も、このような公開講座に参加して気分転換を図るのも、きっと長い研究生活におけるスランプ打開策の一助となることでしょう。

 遠方の方はなかなか参加する機会が少ないと思いますが、日本大学大学院の公開講座に限らず、それぞれの地域で開催される公開講座に参加されることは大いに意義のあることだと考えます。例えば、それが地域に関連した歴史や文化であれば、地域に対する思い入れも手伝って、熱心に講座を拝聴することでしょう。それ以外にも、漠然とした興味で、教養のために参加されるシニア層も多いものと思われます。今後、リベラルアーツ(一般教養)としての公開講座がさらに求められることが考えられます。また、各地域の公開講座は、郷土史家やその他の専門家等、その地域に根ざした研究者の発表なども積極的に導入することで、より充実した公開講座が期待できるのではないでしょうか。欲を言えば、演者の一方通行的な講義だけでなく、双方向的な交流も求められましょう。
 とりとめもないことを書き連ねましたが、今回の公開講座に参加して感じたことを率直に述べさせていただきました。今後の大学の公開講座の更なる充実を期待します。



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