デトロイトからの便り(17)
―2010年のアメリカ自動車販売予測―

国際情報専攻 6期生・修了 森田 喜芳

 今年もデトロイトオートショーに始まりアメリカの自動車販売もすでに1ヵ月になろうとしている今日この頃であるが、2009年の実績から今年の予測をしてみる。

 アメリカの自動車業界は、2009年は過去数十年で最悪の売上を記録した。12月のみで見れば15.1%という驚異的な伸びを示している。そのために2010年は待望の本格的な売り上げの回復に向かうのではないかという期待が高まっている。米国内で販売する自動車メーカーのうち6社が12月の売り上げ増30%以上に達し、そのうちフォードは唯一国内メ−カーであった。このフォードの好調を反映してフォードの株価が値上がりしている現象もある。

 「2009年アメリカ自動車業界の記録」として2010年1月6日付けのデトロイト・フリープレスでは以下のような記事が載っていた。
 「総販売量は2008年比21.1%減―米国内1040万台は1982年以来最低(Auto data調べ)」  2010年の予測では、「米国自動車販売は改善すると見て問題ないだろう。だがその程度については、09年の1020万台を100万台上回ると言うのが大半の見方で、1600万台〜1700万台だった数年前と比較すると、まだかなり低迷といえる」と伝えられている。[AutoFront2010-01-08]

 それでは日系自動車メーカーの今年を見てみよう。
 まずトヨタであるが、USトヨタ自動車販売のカーター副社長は11日、「2010年の米国での販売台数が、市場全体の回復を背景に、200万台近くに増加する」との見通しをデトロイトオートショーでロイター通信に語った。
 09年のトヨタの米国内でのレンタカーなども含んだ全ての販売台数は、前年比2割減の177万台にとどまりGMに次ぐ2位。米国内自動車業界は27年ぶりの低水準だった。今年は建設途中のミシシッピ工場を完成させるとも発表している。
 また、販売を確実にするためにトヨタは広告やインセンティブを強化し、無利息ローン、リース割引のほか、トヨタ・ファイナンシャル・サービシズはクレジットスコアが650の信用の低い消費者にまでローンを拡大した。個人販売に焦点を定め、リースに力を入れている。特にリースは「ホンダとトヨタ以外、ほとんどのメ−カーもリースを放棄しているので非常に大きなチャンス」とカーター副社長は語っている。[AutoFront2010-01-06]
 但し、最近のトヨタの懸案事項として品質問題がある。昨年はフロアーマット問題で426万台の大規模なリコール(回収・無償修理)のほかタンドラのフレーム錆で11万台のリコール、更に今年に入って21日に230万台のリコールを新たに発表した。また、別件では全米高速交通安全局(NHTSA)は06年は「カローラ」と「マトリックス」のエンスト問題を調査している。※このあたりのトヨタの品質問題に関する件は小生の「経営研究会バイマンスリー第4号・森田のデトロイト通信(4)」に記載しておりご参照ください。

 次にホンダであるが残念ながら小生の感想ではあまりパッとしていない。ホンダは斬新なモデルが期待ほど売れていない。箱型SUV「エレメント」は09年1〜11月は13,000台の販売がにとどまっている。ピックアップの「リッジライン」もわずかに15,000台、そして小型車の「フィット」は63,000台と悪い数字ではないがトヨタのハイブリッド「プリウス」の半数である。ホンダが導入する「クロスツアー」は乗用車のような外観のSUVで売れ行きが注目されている。

 ニッサン自動車は、米国内でのトラック需要の上昇に期待している。
 ワードオートによると、ニッサンは2009年、乗用車が好調な販売を記録して米国内のシェアーを押上げた。しかしブライアン・キャロリン販売担当上級副社長は、デトロイトオートショーで「フロンティア」は12月販売が前年同月比倍増の2988台、「バスファインダー」が38.5%増の2,314台、と主要トラック2車種が予想以上に好調な売れ行きを記録したことに言及して「トラック市場は回復を続ける」との見方を示した。ニッサンも他社と同様に2010年の米国内販売台数を1100万台から1200万台程度になると予測している。

 スバルについては固定客をしっかり握っており2010年に過去最高の業績を残す可能性を秘めている。2009年の米国内販売台数が15%増加し、市場シェアーも1.4%から過去最高の2.1%までに押上げた。スバルは昨年、中国でも10箇月連続の販売増を記録し89%の伸びを示した。オーストラリアでも年間成長率は16%で、3.9%のシェアーを記録している。

 スズキと三菱は大手と競合するだけの競争力は無いと見る。
 但し、バックミラーには追い上げてくる韓国勢の姿がはっきりと映ってくる。現代と起亜は、いずれも業界が大打撃を受けた2009年に販売を大幅にのばした。2010年もペースを落とすことは無いだろう。

 その他のヨーロッパメーカーではフォルクスワーゲン(VW)が注目だろう。時事通信によると「フォルクスワーゲン・グループ・オブ・アメリカのジャコビー社長兼最高経営責任者 (CEO) は10日、今後3〜4年の間に米国内の販売台数を現在の2倍以上に引き上げる目標を明らかにした。ジャコビー社長はワシントンのイベントで2012〜13年は40万〜45万を売ると述べた。」ちなみに昨年のフォルクスワーゲン米国内販売台数は213,000台だった。また同社長は今年の米国内販売台数については1100万台〜1150万台になるだろうと予測した。

 おおむね、2010年の米国自動車業界は上向きが期待される。しかし経済不況という不確定要因が今なお影を落としている。高い失業率と与信の不足が引き続き、自動車購入を困難にしている。そして、ガソリン価格が再び1ガロン4ドルの高値に跳ね上がれば、あらゆる希望的観測は消滅する可能性もあることを認識しておく必要ある。



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