デトロイトからの便り(16)
―2010年・デトロイトオートショー見学記―

国際情報専攻 6期生・修了 森田 喜芳

 今年も世界で一番早いオートショーがデトロイトから始まった。一般公開は1月16日(木)から1月24日(日)迄である。私がこのデトロイトオートショーの見学記を書き始めてから今回で8年目である。

 私は今回も昨年と同様に会場のコボ・ホールには中央入り口のMacomb Hallから入場した。相変わらず、往年のボクシング・ヘビー級チャンピオンのジョー・ルイスの3等身くらいある大きな銅像の前を通って会場入りした。
 会場に入った途端にとても広々としたレイアウトであるという印象を持った。更に、一通り会場を見渡したあとで思ったことであるが、入場者も従来に比べてかなり少ないと感じた。
 本日は19日(火)であり休日でないので一般のお客が少ないのと、ニッサンなどの主要メーカーが出展を見送っていたり、更に電気自動車などを集めた特別展示場を地下に集めたこともあるのかと思われた。少々、以前の話になるが昨年秋の地元の新聞で2010年あたりからこのデトロイトオートショーの会場を変更するという憶測記事が出ていたことを思い出した。おそらく出展メーカーが減ったのと入場者が減ったこのコボ・ホールでは大きすぎるのであろう!ひょっとしたらこのコボ・ホールも今年で最後か!とちょっぴり感傷的になり、帰りに会場を去るときに、しばしジョー・ルイスの銅像を見上げてから銅像にチョット触って退場した。

 会場には、中央入り口から入ると今年も昨年と同様に左側にホンダ車、右側はフォード車のディスプレーであった。両社も今年の目玉商品は小型車である。
 ホンダはお得意のハイブリット小型スポーツカー「CR−Z」の北米市販車である。なんとなく往年の軽自動車のZを少々改良した感じの車であったが、スポットライトを浴びていると斬新で存在感のある車に見えた。今年は私も車を買い替えようと考えているために現在と同じホンダ車をじっくり見渡した。2回ほど見渡したが、価格と仕様などで気に入った車が見当たらなかった点が残念であった。2台は興味を覚えた車があったが、そのうちのアコード2ドアー車にはナビゲーターがついていなかった。またアキュラの日本製車には一番興味があって2度ほどハンドル握ってみたが、なんとマニュアル・チェンジ車であったのであきらめた。また、驚いたことに私のよく知っているホンダとアキュラのディーラーのセールスマン2人に会場でばったり会った。このようなことは今までで初めてのことである。

 フォード車は「Focus」という小型車を大々的に展示していた。一昨年あたりからフォード車の商品戦略が変わってきて、小型車でもヨーロッパ車と日本車の中間を行くようなデザインのように思えた。見た目は奇抜でなく、まとまった車という印象である。
 この両社の2台の車には大勢の人がたかり写真を撮ったりしていた。面白いことに両社の2台のディスプレーされていた車の車体色は真っ赤でありスポーツカーを感じさせるようなイメージをもたらしていた。
 ちなみに今年の北米カー・オブ・ザ・イヤーは、フォードモーターの「フュージョン・ハイブリッド」でありトラック部門もフォードの商用バン「トランジット・コネクト」が受賞した。同一部門のダブル受賞は2007年のGM以来とのことである。今年は残念ながら日本車の受賞は無かった。昨年は韓国の現代社(Hyundai)が受賞して大いにPRしていたことを思い出した。
 また、フォード車の展示場では工場の生産用ロボット2台を使ってエンジンやミッションを運搬したり、動かしたりして製品の説明を工場の作業服を着た2人の女性が歯切れ良く説明していた。TVカメラも2台入っていて盛んに映していた。見ている人の目をひきつけ大勢の人だかりであった。斬新なデモンストレーションだと感じた。
 ホンダも昨年の日本自動車ショーのようにロボットのアシモ君あたりを登場させればもっと会場が盛り上がるのでは!と思いちょっぴり残念な気がした。

 次に現代社を見たが、正直な印象はとても驚いた。いまや日本車と遜色ない出来栄えの車に仕上がっている。細かい点を見つければ気になる点がいくつかあるが一般の人には全く気にならない点である。
 また仕様や装備品も日本車と肩を並べてきている。しかし、やっぱりというか今まで同じクラスの車は日本車に比べて価格が約1万ドル安くてお手ごろ感の車であったが、今回の表示価格を見るとかなり値上げしてきている。全体的に3千ドル以上値上げしているように思えた。
 現代社も来年以降、さらに高級な仕様を追加してきた場合の値段に注目である。しかしながら繰り返すが日本車にとっては大変脅威な存在感のある会社で在り、成長してきたということは間違いない。

 次にGM車を見たが一言で言うと寂しい!2年前までの王者であった「世界のGM」の面影は無く衰退の一端を垣間見た。これまでは長年、ハマー、サターン、ポンティアック、サーブといったGMブランドがスペースから姿を消していた。 但し、GMのフラッグシップカーともいえるキャディラックは相変わらず人気が高く多くの人がたかっていた。展示車もそれなりに揃えていたという印象であった。

 隣のトヨタ社にはやはり多くの人が見ていたが、なぜかトヨタの展示車は従来と同じディスプレーで所狭しと並べられていた。他社のゆったりした雰囲気で展示車を見たり触ったり乗ったりしてきたが、ここではなんとなく息苦しい雰囲気であった。総花的にフルラインを展示するとこのようになるのかな!と変に感心して見て来た。しかしながらさすがにトヨタである。小型車から高級車までを最新デザインでそろえて更に先端技術車も並べてあり見ごたえはある。しかしなぜか、車体色は90%以上がグレー色であった。なぜだろう!ベンツの車も同じ様にグレー色が多かった。

 展示車とは離れて右壁際にフォードの電気自動車に乗せてもらい、車庫入れを体験させてもらえるコーナーは大勢の人が順番待ちで並んでいた。とても人気があった。
 更にその隣にはデンソー(Denso)のコーナーがあり特徴的な部品にはかなりの人が興味深くみていた。
 また、ミシュランもデンソーの隣にタイヤの展示をしていた。今後このように完成車だけではなく機能部品のコーナーも多くなるのだろうかと思ったりしたが、またまた会場が狭くなる場所に移ったらどうなるだろうかとも思った。

 その他、感じたメーカーでは、相変わらずジープブランドに人気がある。独特のスタイルから来る人気なのだろう。ヨーロッパ車も独特のスタイル、デザインであって見ごたえがあった。私の好きなマセラッティーはポツンと1台置かれていて寂しかった。昨年は5台展示されてハンドルまで握らせてくれていたが今年は願いが叶わなかった。
 日本車ではスバルが中々の出来栄えのものを並べていた。ターボ車、水平対抗エンジンなどの独特の技術に人気があった。ひょっとすると今年あたり大化けしてくる可能性を秘めている車があった。今年のスバルに注目である。気になる存在感のある会社になってきた。

 全体から見るとやはり、ニッサンを初め多くの会社が出展されていなく、特に日本車では大手のニッサンが見られないのは寂しいと感じた。昨年に引き続きUSでの多くのニッサン・ファンには残念でありまた、ニッサン車の存在感も薄れてくるであろう。

 最後に、今年のデトロイトオートショーは昨年の日本の自動車ショーのほうが見ごたえもあって面白かったというのが私の印象である。特に日本では先端技術の車の数々とその周辺技術を紹介していたパーツメーカーの出展も大変興味を覚えた。
 また車だけではなくモビリティーという観点をテーマにした会社などのディスプレーは非常にユニークで今後のくるま社会の方向性も示していて面白かった。
 但し、デトロイトでは以前のようにギンギンギラギラのイルミネーションが消え、スペースがゆったりしてあまり混んでいない状態で見られるようになったのが良い現象であるが、もしかしてこれもデトロイトの衰退現象なのかと思うと少々寂しかった。

 来年以降、更に小型車でプラグイン車、電気自動車で賑わいを盛り起こすショーになることを期待してコボ・ホールの会場を後にした



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