動物行動コンサルタントとして今、大学院を思う
−「オープン大学院in東京−創立十周年記念」での講演を終えて−
人間科学専攻 1期生・修了 青木 愛弓
オープン大学院で、行動分析学に基づくペットのしつけについてお話しさせていただきました。講演会に呼んでいただいたり、レクチャーしたりする機会は割とあるのですが、いつもは動物が好きで飼っている人の前でお話させていただきます。これに対し、今回は、動物を飼っていなかったり、それほど関心がなかったりする聴衆が多い中で話すこと、そしてかつてお世話になった先生方の前で話すことなど「いつもと違う」ということに引き受けた後に気がつき、「何、話そう…」と呆然とするも後の祭り。そして、あの日の修論審査の時のような気分(注)で当日を迎えたのでした。
注:私は、1期生です。1期生には、あたりまえですが、先輩がおりません。つまり、修論審査がどのようなものか全く情報がない中で一人ぼっちで、2人の先生に対峙(!)しなければならなかったのです。当日の1期生の緊張は相当なものだったとご想像ください。そのうえ、当日は、大雪で電車は止まり、面接会場である大学本部まで来られない人もいました。本当に大変な1日でした。
ペットに限らず「しつけ」は、してはいけないことを叱ってやめさせることと思われていますが、実際には叱ることで、嫌な思いをさせて嫌われてしまい、また反対に注目という「ごほうび」を与えてしまうので、私たちが思っているほど叱ることは効果的ではありません。叱るよりもその場にふさわしい行動をほめて教える方がずっと良いのです。こんな風に、いつも講演では、「動物がどうしてそんなことをするのか」を行動分析学の理論に当てはめてお話します。しかし、今回は、「私がどうしてこんなことをしているのか」をお話しすることにしました。つまり、大学院で研究した行動分析学を使って何をしようとしているのかをお話ししようと思ったのです。行動分析学は、行動の科学です。人間を含む動物の行動は、行動の直後に生じたことに影響を受けて、繰り返すようになったり、しなくなったりします。行動の直後に「ほめる」と直前の行動を繰り返すようになりますから、ほめて「ふさわしい行動」を増加させるわけです。
行動分析学を知って、ほめて育てるのってすばらしい、「動物はほめて育てましょう」とペット業界に颯爽(本当は恐る恐る)と飛び込んだわけですが、あるとき、私は動物を罰することも、ほめることも人間に「服従」させるという目的は同じなのではないかと気づいたのです。家庭で暮らす動物は、コンパニオンアニマルと呼ばれるようになりました。家族として暮らす動物達なのに、「服従」って変だよなあとか、ほめるしつけが行われるようになってもあまりうまくいかない本当の理由など、現在の私が考えていることをありのまま、お話しさせていただきました。いつもは話す機会があまりないので、漠然としていた自分の考えをきちんと言語化することができたことは、大きな収穫でした。
思い起こせば、このように考えるようになったのは、人間の行動改善に応用している同級生や後輩の研究を間近に見てきたことや、犬のしつけやトレーニングに行動分析学を応用している同ゼミの小田史子さんの影響のように思います。また、しつけの「意味」「とは何か」を「思考」することは、あの「えー、なんで必修なの〜?」とぼやき、テキストが日本語で書いてあるのにも関わらず読めずに泣いた「社会哲学」のレポートで鍛えられたことが大いに役立っているようです。親の意見と茄子の花は千に一つも仇はないといいます。大学院での授業も人との出会いも、無駄なものはなかったということでしょうか。その大学院に入学して、もう10年以上も経ったのですね。
終演後、先生方や後輩の方とお話させていただきました。ご自分のペットのことを語るときにはとても幸せそうで、素敵な表情をなさっていました。これからもペットと仲良く暮らすためのお手伝いができたらと思っています。
当日駆けつけてくださった、恩師の河嶋孝先生、同期の仲間達、教え子の応援に心から励まされました。ここに記して感謝いたします。