「第25回産業・組織心理学会研究大会」に参加して

博士後期課程 山田 智之

 2009年8月29・30日、第25回産業・組織心理学会研究大会が青森県の古牧温泉青森屋を会場に行われた。今回の大会では、田中ゼミ初の研究大会企画のシンポジウムが本学教授の田中堅一郎先生企画のもとに、東京富士大学教授 角山 剛先生をコメンテーターに迎え「現場からの着想−職場の経験から生まれた心理学的研究−」というテーマで行われ、羽石和樹さん(2008年修了生)、渡辺幹代さん(研究生)、山内柳子さん(研究生)が話題提供者として発表した。また、個人研究発表では、田中堅一郎教授、小林敦子さん(博士後期課程3年)、渡辺幹代さん(研究生)が研究発表を行った。

<シンポジウム>
「現場からの着想−職場の経験から生まれた心理学的研究−」
 司会者 田中堅一郎先生(日本大学) コメンテーター 角山 剛先生(東京富士大学)
 話題提供 
   羽石和樹 清掃活動は企業業績の「救世主」になるか
   渡辺幹代 企業倫理を心理学の視点でとらえる−倫理的リーダーシップに関する研究−
   山内柳子 職務適合性の転移可能性−フライト・アテンダントの再就職先での事例−




 3名の話題提供者の研究は「スタートが現場であり、そのゴールも現場」という共通点をもっており、それぞれの研究成果が現場に還元されることを目的に進められた研究であった。また、それは従来の研究で、陽があたっていなかった部分に光を灯す、実践的かつ新鮮な内容であり、社会人大学院生ならでは視点で進められた研究であった。
 質疑においては、限られた時間であったが、発表者の研究結果が深まり、次なる研究へと広がるような活発な討議がなされた。


<個人研究発表>
ジェンダー・ハラスメントが職務行動に及ぼす影響T
小林敦子・田中堅一郎




 小林さんの研究は、日本の職場における「女性に固定した役割を担うことを求める言動」と「組織の重要な役割を求めない言動」という2つの様態のジェンダー・ハラスメントが就業女性の職務行動に与える影響に関するものであった。研究の結果、「やる気のある女性」ほど、ジェンダー・ハラスメントを受けることに対する不快感は高いこと、ジェンダー・ハラスメントを受けることで、OPD(過大な職務遂行要求)を高めるが、それに対する不快感は影響を与えていなかったという結果が見いだされ、今後の現場でのジェンダー対策につながる研究成果であった。


ジェンダー・ハラスメントが職務行動に及ぼす影響U
田中堅一郎・小林敦子




 田中先生の研究は、ジェンダー・ハラスメントを受けた女性に精神的にネガティブな影響を及ぼすことと、ジェンダー・ハラスメントを受けた頻度及び受けたことに対する「不快感」との関係に関するものであった。研究の結果、作為的なジェンダー・ハラスメントよりも不作為なジェンダー・ハラスメントの方が、働く女性の精神的健康状態に負の影響を与えやすいという結果が見いだされ、今後の現場でのジェンダー対策につながる研究成果であった。


倫理的リーダーシップの心理学的研究
−倫理的リーダーシップ尺度日本語版(ELS-J)の開発と要因の検討
渡辺幹代




 渡辺さんの研究は、倫理的リーダーシップ日本語版の開発と、リーダーの倫理的リーダーシップがフォロアーに与える影響について検討をしたものであった。研究の結果、リーダーが倫理的でなければ、従業員の職務満足感が欠如し、組織コミットメントを低下させ、業績も低下する可能性を示唆しており、現場のリーダーの在り方につながる研究成果であった。

 今回発表された4名の田中ゼミ生の研究に共通していえることは、それぞれの職業実践にもとづくものであり、「片手に理論、片手に実践」という研究の本質をとらえた生きた研究成果の発表であった。



総合社会情報研究科ホームページへ 特集TOPへ 電子マガジンTOPへ