デトロイトからの便り(14)
― 日本国内自動車メーカー8社の現況 ―
国際情報専攻 6期生・修了 森田 喜芳
いやー驚いた! 8月度の日本自動車業界の生産と輸出の比率をみると、なんと約48%が輸出である。相変わらず輸出を主体の経営であることを感じさせられた。この事は最近あまり注目していなかったが、改めて日本国内自動車メーカー8社の今年8月のデータをチェックしてみた。
9月29日付け日本経済新聞によると国内乗用車8社が9月28日発表した8月実績(速報値)の約半分近い比率で輸送しているとの数値であった。国内生産総量に対して国内販売より海外輸出が多いメーカーは8社のうち4社である。
トヨタ55.6%、三菱自動車50.9%、マツダ73.6%、富士重工59.8%、となっている。注目すべきはトヨタの輸出台数が輸出全体の42.2%を占めている。また国内生産に対し輸出台数が少ない会社は、ホンダ、ニッサン、スズキ、ダイハツ、の4社である。このうちスズキとダイハツは軽自動車が主体の生産と販売であり当然のことながら国内販売が主力である。最近のホンダやニッサンの収益が他社に比べて悪くないのはこのような事も一因となっているのかとも感じた。
以上のようなデータから見ると日本の乗用車の国内生産に対し輸出は相変わらず50%に近い数字を示している。このため収益面からみれば為替の変動による収益が約50%影響されていることを物語っている。また上述したように輸出台数全体の40%以上がトヨタである。
一方、円相場は1ドル=90円を突破したことで株式市場など企業業績の悪化懸念が高まっている。輸出関連の代表である自動車や電機の想定為替レートは、1ドル=90円前後に集中している。9月27日、日本経済聞によると為替レートと影響額は、トヨタ=90円(250億円)、ホンダ=91円(120億円)、日産=95円(110億円)、となっている。(注=カッコ内は対米ドルで1円変動した場合の営業損益の年間増減額)
現在、日本の自動車各社は国内生産の生産能力に余力があり、国内販売は年間総販売台数が頭打ちの現場では輸出に頼らざるを得ないところであろう。
日本経済新聞8月24日付(一面)によると、「トヨタ自動車は2009年度中にも、世界で年100万台前後の生産能力縮小に踏み切る。グループ全体の1割に相当する規模で、米General Motorsとの米合弁会社の閉鎖に加え、国内や英国の主力工場で生産台の一部を休止する。トヨタが生産能力を大規模に縮小するのは初めて。昨年秋以降の販売減で、トヨタは年300万台を上回る過剰生産能力を抱える。需要の本格回復には時間がかかると判断、稼働率の向上で生産性を高め10年度の黒字を目指す。」と報じている。
したがって、完成車を海外輸出している日本の自動車会社各社はこの為替の影響をもろに受ける。収益にも影響する。そのため会社経営および収益面で各社、一喜一憂する昨今である。さらにデータからみれば、乗用車の海外生産は国内生産を大幅に上まっている。8月の合計台数で見れば海外生産83万5000台に対し国内生産は55万台である。国内生産の約1.5倍以上が海外生産である。但し、この海外生産はすべて現地生産ではなく一部の部品を日本国内から供給しているのが通常である。
現地調達率、すなわち現地で部品を調達して完成車に組み込まれる比率は北米を中心としたような先進国では70%以上と言われているが、その他の各国では自社のスペックや品質、コストに合格するサプライヤーが現地ではなかなか見つからず、現地調達もままにならない状態が多い。そのため日本から自動車会社各社および関連する部品企業に、原材料や部品を現地に輸出をしてもらい現地の完成車生産を行っている例がほとんどである。極端に言えば工場原価の50%くらいの部品を日本から輸出しているとすれば、その輸出する部品価格も為替の影響をもろに受けることになる。
したがって、現状では海外生産が多ければ多いほど為替に影響を受けてさらに収益に不安定な材料を提供している。
また、現在の日本の政府では自国通貨の引き下げ競争に反対する考え(安易な円売り介入はしない=藤井財務相)を再三表明しており外為市場動向に任せると伝えられている。ただし、円高になれば輸入する価格が低下し原材料などはメリットとなり恩恵を受ける企業も出てくる。
一方外国の為替関係で見れば、中国や韓国などは日本と違い政府が介入して為替安定化に努めている。そのためとくに韓国からは自動車の完成車輸出が多く、アメリカを中心に輸出している。現在は韓国のウオンは多少変動してきているが、まだまだ日本の様に大きな為替の変動は起こっていないため自動車の輸出が盛んに行われているのが現状である。今後日本と同様に為替が大きく変動した場合、韓国自動車メーカーも経営や収益面を変動されることになる。またアメリカで言えば韓国自動車メーカーの現地生産に対する現地調達率はかなり低いと見ている。
一方自動車に必要なガソリンの価格などについて最近は小康状態を保っているが将来的にはやはりじりじりと値上がりしていく傾向にあるだろうと見ている。原油価格が高騰すれば自動車に必要な化学製品や鉄鋼、その他の原材料などの将来的にはますます値上がり傾向にあるであろう。
現在、企業戦略として一部の自動車会社は自動車の生産を日本国内から海外に移動したり、海外の生産拠点から他国に輸出をしたりと色々な次の一手を画策している最中であるが、日本自動車各社の企業戦略は今後かなり複雑な生産と販売形態が問われることになる。ハイブリッドや電気自動車という先端技術と環境車などの対応と同時に今後は安易な海外生産でなく高度な企業戦略を構築して製品開発、生産と拠点、世界販売、といやが上にもグローバル的思考にのっとった経営が必要となってくる。
以上は最近の日本国内乗用車生産実績を見て思いついたことを述べてみた。