『歴史の教訓を実践した国立公園を訪ねて』
−歴史に静かに耳澄ます大事さ−

国際情報専攻 4期・修了 長谷川 昌昭

はじめに
 数ある米国立公園の中で最古の歴史を誇るイエローストーン国立公園(以下YSNP)と往年の名画「シェーン」の舞台グランド・ティトン国立公園(以下GTNP)の異質な景観を同時に楽しみ、ESA(絶滅危惧種法)やNEPE(国家環境政策法)の強力な法体制整備に遅れをとると日本特有の動植物や原生自然林は消滅するとの危機感を看取し、未来に備える大切さを訓えられた旅である。
園内の規制は、自然保護と野生動植物保護が最優先であり、インターネットとガン社会の米国においても例外なのは驚きを禁じ得ない。
 古来より、” 百聞は一見に如かず”。西洋も”Seeing is believing”と聞く。
 第一に、インターネットは超一流ホテル・ロッジでもその環境に無いことe-mail希望者は、約90mile離れた都市経由。ホテルの受付に尋ねると高料金と接続不安定性でここ2ケ月接続希望は皆無との由。
 “You enjoy Yellowstone Way relax ! “との言葉が返ってきた。”郷に入ったら郷に従え”である。
第二に、銃は一切携帯・所持不可能。通過でさえも銃と弾丸は別保管と厳しいこと州法で武器の隠蔽所持許可者でも、ここでは銃器類は分解、操作不能の即刻の使用を防ぐため銃と弾丸は別保管に限り通過のみ、と日本並みである。
 米国の車社会の発展と共に、大衆に親しまれ大勢の観光客が無統制に入り込んだ結果、大規模山火事、交通公害による自然破壊、動植物への節操無き撒餌と乱獲による森林資源破壊、動物の自助力を衰退させたことによる生態系破壊、という歴史的悲劇を招来した。一転し規制強化の特異な教訓を活かした実験場である。
1 YSNPの概観
 南出入口は、ジャクソン空港(JAC WY)1からGTNPを抜けての南口から時計回りに眺めるとグランドビレッジまで35Kmである。北上約3Km右にイエローストーン湖が見える辺りのウエストサム丁字路で左折、北西に27Kmでオールドフェースフルに到着する。
 ここの世界最大規模のログキャビンOld Faithful Innは1904年築、7階建、吹抜けロビーの巨大な暖炉は古き良き開拓時代を想起させる。間欠泉を2つ見た後、遅い昼食を楽しんでいると、YSNP名物の午後のドシャ降りに逢った大勢の観光客が雪崩れ込んできた。何とLuckyだった。
 そこから北上26kmでマディソン丁字路、左折23Kmは西出入口の街ウエストイエローストーンに出られる。マディソン丁字路を右折22Kmで、ノリス丁字路を北上34Kmしたところは、マンモスホットスプリングの丁字路に到達、YSNPの唯一冬期間もオープンするビレッジでテラスマウンテンの地名が示す如く、露天ブロ?も揃ったリゾート地である。Visitor Center(以下VC)を中心に店舗や宿が集約されて車や徒歩と様々な角度から楽しめる工夫がある。
 更に8Km北は北出入口のカーディナーの街。出入口には象徴的なルーズベルト・ゲートが鎮座している。カーディナーから戻り再入園し、マンモスホットスプリング丁字路左折、東上すると29Kmの処にタワールーズベルトがある。YSNPとGTNPの共通1車輛入園料は$24で1週間以内出入自由である。
 そこを左折東上46Km、東出入口の都市コークシティ2は隣の州モンタナである。
 タワールーズベルトを右に見て直進、南下31Kmでロアー滝の景勝地キャニオンビレッジである。
 YSNPの名前は、その色に由来している。渓谷は長さ32Kmも続く黄色い絶壁、深さは240〜360m,幅は狭いところで450m。流紋岩は硫黄含みの熱水と蒸気の長年の浸食で脆く黄色に変色。イエローストーン湖の水はイエローストーン川となる。渓谷の滝は落差33mのアッパー滝と落差94mのロアー滝となる。滝の両岸がノース、サウスの両リムのキャニオンで、サウス即ち右岸に最も人気の展望台Artist Pointは名の如く一服の絵になる眺めの良い場所はRangerが見逃さないように教えてくれた入り組んだ処にある。市販ガイドブックは落差93mと、凄い景観を見逃すところであった。国立公園局報は、英文で308ft (94m)とある。
 更に南下24Kmの地点はイエローストーン湖の北端のフィッシングブリッジ、左折43Kmで東南出入口を経て更に80Km先はコディの街。
 イエローストーン湖の北端のフィッシングブリッジのV Cで尋ねると、約3Km先のベストビューポイントでは湖全景とGTNP遠景を望めるとの案内と野生動物遭遇予想時刻やキャニオンビレッジの滝・渓谷の最眺望点の情報等をキメ細かに地図に書込んでくれた。
 『この下は、湖水の北端で唯一の波が打ち寄せる湖畔で一見の価値がある。素通りする方が多いが、貴重な場所だ』と教えられ見逃さずに済み感謝している。
 フィッシングブリッジ丁字路を直進南下34Kmで、当初のウエストサム丁字路に到達、概算で約350Km、YSNPは本邦四国の半分は納得できる。
 
2 宿
 Lake Hotel & Cabinsは、フィッシングブリッジから3Km程の湖畔に1904年築(‘90改装)の木造リゾートホテルで、黄色い高い列柱が印象的なコロニアル風の建物である。ロビーではピアノの生演奏が楽しめ、エアコンの無いダイニングで湖面に沈む夕陽と虹を眺めての夕方5〜8時のディナー2年前から受付開始、4泊5日の3日目にたった1回やっと8:45のデイナーにありついた。それ以外は10分程湖畔に沿って歩くと湖岸の林の中に佇むLake Lodgeのカフェテリァでの朝・夕食となった。早朝・夕闇せまる湖畔の散歩は気持が良い。
 宿代は、湖側は$230.-山側は、$200.-。2月の旅行決定時には既に満員、出発4週間前にやっと予約完成の超人気振りである。
滞在中に日本人と思しき方々とは逢わず、逆に「何時計画した?」「何処から?」と顔馴染みになった宿泊客のフレンドリーさに遭遇した。彼等はフロリダやニューメキシコやカリフォルニアから車で来ており,予約は数年前には、ンターネット。この流で米中小旅行社が淘汰された。5年前から4割安のこの方式を体験中である。
 築100年でも堅牢な建物のエレベーターは広いが遅く、窓はサッシュではない上下開閉式、ベッドは両手を広げても端に届かぬクイーンサイズ、バスタブは大型陶器製で、蛇口は捻式の旧型でも丹精込めた手入れと清掃は行き快適だった。廊下や踊場は広くにロッキングチェアーを設置、角部屋をリクエストしていたらフロントから100m以上も離れた広い90u程の部屋。4階建の3階、非常階段から湖面を眺めると、折り良く立ち上る夕陽に映える湖面から直角に昇る虹は、幻想の世界に誘ってくれるシーンに恵まれた。
3 バッファローに遭遇
 ここは、世界最古の1872年国立公園指定。広大な8,872Kuの敷地は四国の約半分の広さで、年間290万人(‘08)の人々が世界から来る。1978年に世界遺産に登録済み、園内最高地点は海抜3,642m(Eagle Peak)、野生の哺乳類58種、鳥類319種、両生類8種、魚類16種、爬虫類16種、植物1,151種、野生の動植物の天国の感がある。
 ここの主役はBuffalo。米国立公園局のシンボルマークに指定されている勇猛なカッコイイ筈の主役達は、開園期間が春から夏のみで、ややイメージダウンな姿を晒している。その原因は、Buffaloの密生している毛が、春から夏にかけて冬毛から生え換わること。毛は密生しているため、抜けた冬毛は、なかなか抜け落ちない、更に寄生虫を除去するために彼等は泥浴びをする。引きずった毛がカチンカチンに凝り固まって見ているとシャンプーで洗ってリンスを被せてブラシングをしてあげたい気分になる。
 American Bison=Buffaloは普段の動作は極めて鈍いが、いざとなると時速60Kmで突進する。滞在中は幸運にも数回Buffaloの大家族 ? 遭遇の機会に恵まれた。
 園内で動物との距離間隔保持の規制が連邦法に拠る。違反をして接近すると2つの罰則。動物を刺激、反撃で受傷はおろか年間に数十人が動物の犠牲になる。更にRangerに警告・罰金を受ける。Mule Deer近づき過ぎた親子の米国人と思しき方はRangerに違反キップを切られ、警告を無視、近影を撮影した親子も厳しく叱責の情景を園北口付近で目撃した。
 Rangerは米内務省国立公園局所属のLaw enforcementである。日本流には特別司法警察職員で、制服・制帽に拳銃携行、複数で白地に青文字表示の素敵な環境にマッチしたセダンのエコ・パトロールカーで巡回。一方で、子供の夏休みの宿題の観察記録の記載や、山の緑と湖の緑を異なる色彩で描写する指導から、野生動物のことや間欠泉の噴出時間まで、尋ねると懇切丁寧に教えてくれた。
4 動物は色盲3です
 熊には100m以内、その他の野生動物には25m以内に接近は法的に禁止されている。
 過去に広く生息していたが、乱獲で絶滅寸前まで激減。現在は3万頭までに回復したと報ぜられている。折り良くBuffaloに遭遇して降車、撮影しいていると突然、大声で『そこの赤いシャッのご婦人!!  赤は牛を刺激する、近づくと危険だ、距離を保て』とバッファロー渋滞で停車中の後続車の方から親切な温かいご注意を受けた家内に私も『あまり近づくな!!  危ない!!! 親切なアメリカ人も注意している』と伝えると、曰く『動物は色盲です。距離は保っている。動物は眼で解る』と返ってきた。距離は40m程。
 そしてスペインの闘牛のトレアードルの赤い布は、広い闘牛場で観客の誰もが闘牛士の動作が見易いようにした経緯を誤解しているとの説明までされた。
 
 成程、いい写真を撮って無事車へ戻ってきた。『動物は色盲』に納得した。
5 湖・滝そして間欠泉・温泉・噴気孔
 イエローストン湖面は、海抜2,357m、約360Kuと琵琶湖の約半分、山岳湖としては米国最大、最深98mで水温は夏12℃、冬4,5℃。過去の大噴火で出来た湖水は、現在も熱水が湧きでている。湖から北へ流れ出たイエローストーン川は、ミズーリー川、ミシシッピー川と合流セントルイスやニューオーリンズを経て遥か彼方のメキシコ湾に注いでいる。
 世界で最も名の知られたナイアガラ大瀑布の落差は、アメリカ滝は55m,カナダ滝は52m,幅は995mで大瀑布の所以だ。ここのアッパー滝は33mとロウアー滝は94mの落差は凄い、幅は50〜60m程だが、キヤニオンカントリーのアーティストポイントからの眺める連続二つ滝は、絵画にも写真にもなる見落とせない名景勝地である。
 
間欠泉Geyserは熱水が地表まで気化せずに噴出するもの。合計約300、世界の間欠泉の約2/3がここにある。これと混同されるのは噴気孔Fumaroleで熱水が地表に達する前に気化、水蒸気となって噴出、時には雷鳴のような地を揺るがす別名Dry Geyserと呼ばれている。
6国外免許の国際標準化への提言
国外免許のサイズは、旅券の電子化に伴う小型化旅券に即応していない実態にある。現実に、今年4月はハワイ州マウイ島のカフルイ空港で4日間、7月はワイオミング州ジャクソンホール空港で5日間、レンタカーを借る際に、何れも都公安委員会が本年3月13日発給の国外免許を提示。すると異口同音に「写真をラミネートしていないから信用出来ない。ラミネートした日本語の免許」というので、都公安委員会交付の日本語の免許を提示すると、かなり見慣れている様子で金文字を指差して”You are Gold License holder no problem”と即座に旅券提示も不要で新車5月未満を貸し出した。
従って、国外免許を渡航前に取得しても、写真の貼付が容易に変造可能な貼付形式では国際的には全く信用されていない実情にあることを示している。
 旅券に合わせて小型化と、写真貼付はラミネート方式で偽変造防止の国際標準にしなければ、国外免許は空洞化と偽変造を増長して国際的信用を失う。喫緊の課題として改革を提言するものである。
終章−ドライブ感
7月24日借出28日返戻。598mile走行、$782,21(約73,000円)に、給油 $20 を2回で、4泊5日の走行。1マイルを約150円、キロ換算で東京から新幹線で新山口まで。
GTNPのSnake river overlookのベストポイントからワイオミングらしい雄大な景色に「シェーンカンバック!」を彷彿とさせるティトンの山並に長距離ドライブも癒された。
途中は野生動物の出現渋滞と工事渋滞の2回のみ、極めて快適なドライブは、フロリダからキーウエストの「楽園への架け橋」7mile Bridgeとは、優劣をつけ難い、兎に角走ってみなければ解らないことである。
ここの体験は観光立国を目指す国の一国民として貴重な教訓を得ました。
諸賢のご批判とご叱正を仰ぎ、それが観光庁の政策決定に好影響を与える結果となれば、望外の幸せである。
“ 機会はどの場所にもある “ オウィディウス


【注釈】




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