デトロイトからの便り(12)
―2009年、今年のシャットダウンに思うこと―

国際情報専攻 6期生・修了 森田 喜芳

 本日は、土曜日のためにちょっと遅いが朝8時30分に私は今日もいつものようにスポーツジムに向かった。自宅から車を運転してスポーツジムに向かったがなんとなく様子が変である。本日の車の交通量が、いつもに比べて極端に少ない感じがした。いつもこの時間は、車はそんなに混んでいなくて、間断なく対向車と行き交ったり進行方向の前後の車もあったが、今日はほとんど車が見られなかった。
 スポーツジムの駐車場に到着したら、やはり駐車している車の数が極端に少なかった。珍しいことである!スポーツジムの中に入って、ロッカーに行ったらここでも人数が少なく、ロッカーを使用している数も極端に少なかった。しかも、いつものように若い人たちの姿がなく、中年以降の人がほとんどであった。
 プールやスパ&サウナも、ほとんど人が居なかった。そのため私は快適にトレーニングをすることができた。スポーツジムの帰りにはいつものファミリーレストランに寄って、朝食をとったがここでも人は少なくレストランの中にいたのは中年以上の夫婦や若い男性、そして女性の人達であった。

 なぜ、こんなに人が少ないのだろうと考えてみたらふと思い出した。今日から、アメリカの自動車会社は恒例のシャットダウンのスタートである。自宅に戻ってすぐにカレンダーをチェックしたら、たとえばホンダ・オブ・アメリカを例に見ると6月27日の土曜日から7月12日の日曜日まで16日間の連休であった。ホンダの場合は、今年は約2週間以上の連休でありいつもより1週間多い連休みとなっていた。また、ビッグスリーでは6週間ぐらい休むという会社のニュースが、新聞やテレビで先月報道されているのを思い出した。以前、私が勤めていたデルファイも2週間+任意で1週間の有給休暇を取るという友人からの連絡もあった。したがって、アメリカでは7月はほぼ全面的に休みの自動車会社があるということである。

 日本では6月23日、自動車会社や各社の3月期決算企業の株主総会が開かれた。日本の新聞報道の内容をななめ読みしてみると、日産自動車は「心よりお詫び申しあげます。」2009年3月機の期末配当を見送った。日産自動車の総会は、カルロス・ゴーンが頭を下げる形で始まった。株主からは、「まさか配当がゼロとは!早急になんらかの措置をとって欲しい!」と注文がついた。取締役10人の報酬が25億円以上に上がった点も「厳しい局面で高額すぎる!」と批判する声が出た。  ホンダでは、総会後に社長に就任した伊藤新社長が株主とのやりとりの中で、「現在開発中のスポーツ型のハイブリッド車などを中心に、ホンダらしい車作りに取り組んでいきます。」と今後の抱負を語った。(6月24日2009年、日本経済新聞13版、ページ09)

 特に日本の自動車会社でトップが年俸1億円以上は日産自動車以外に見当たらないために配当ゼロという現実から見て、その風当たりは相当強いと思われる。
 ちなみにアメリカのGMのワグナー元会長は証券取引委員会(SEC)に提出した年次報告書で、ワーナー会長の2008年の報酬が前年比約61%減の約548万ドルだったことを明らかにした。
 内容は、給与210万ドルや自社株をめぐる報酬などが含まれている。経営が深刻化し、政府に支援を要請したビッグスリー(アメリカ大手3社)首脳の高額報酬には批判が強い。
 ワグナー会長は、09年に年俸を1ドルにすることを表明している。(6月5日2009年、共同)

 さらに、今年は「エコカー元年」とも言われ特に今後は電気自動車に注目されていくような傾向である。
 アメリカでは燃費の悪い古い車を低燃費車に置き換えることで、環境汚染の防止と新車販売のテコ入れをねらいとして、自動車の買い替え法案を上院で可決され、近く成立する見通しとなった。
 上院が可決した内容は、古い車を低燃費の新車に買い替える際に、3500から4500ドル(約34万円から44万円)の補助金を支払う。買い替え対象は日本車も含まれる。しかしながら、補助金を受けるには、古い車の燃費が、18マイル(1リットル当たり8km弱)以下との条件付きであり、日本車では18マイル以下の車はほとんどないため、既存顧客の多くが補助対象外で日本メーカーには不利な条件とされている。実際には、ビッグスリー(米自動車3社)の保護策の色合いが強いとも言われている。(7月20日2009年、日本経済新聞、13版、ページ09)

 同様に、アメリカの政府は電気自動車の開発のため、フォード・モーターや日産自動車などに低利融資を実施すると発表している。日産自動車は、16億ドルの融資を受けることが決まった。
 日産自動車は、世界で電気自動車を拡販すると発表している。2010年に、追浜工場で年5万台の規模で生産を始める。アメリカでは、テネシー州工場で2011年から、12年をめどに年間10万台規模の生産立ち上がりをすると正式発表した。さらにヨーロッパでは、ポルトガル、イギリス、スペインなどで生産を行う計画である。このほか中国でも現地の合弁拠点で生産を検討中である。
 日本の自動車メーカーで、電気自動車を世界で生産、販売すると発表しているのは、現在のところ日産自動車のみである。
 トヨタと、ホンダの戦略は、既に販売が先行しているハイブリッド車を前面に押し立てて当面はハイブリッド車の生産比率を拡大する計画である。その後、プラグイン・ハイブリッド車なども含めてハイブリッド車を優先し、並行して電気自動車の開発&販売も行う戦略である。

 日本では、燃費性能の高いエコカーの購入を促す補助金制度の受付が7月19日に始まる。新車登録から13年後への車を廃車にして買い替えた場合の補助金は一般車で25万円。4月開始の「エコカー減税」と組み合わせると、購入時の負担を40万円前後減らせる車種も出てくる。
 自動車業界は減税と補助金で100万台の需要の押し上げを期待するが、効果が長続きするかは不透明だ。(7月19日2009年、日本経済新聞、13版、ページ03)

 今年の7月より、三菱自動車と、富士重工が相次いで電気自動車の発売発表を予定している。しかしながら、現在の電気自動車は電池の重量とコストが高く、また充電1回当たりの走行距離がガソリン車やハイブリッド車と比べて短いために、その対応策として三菱自動車は2012年をめどに、車両が300万円程度に抑えた電気自動車を発表すると報道されている。
 新型車の電池は大幅に重量が減るが、1回の充電で走れる距離は、160kmから100kmに短くなるとのことである。価格も現在のハイブリッド車は、ホンダの「インサイト」の車両価格が189万円、トヨタの新型「プリウス」が205万円であり更なる電池を減らした低コスト実現することが今後の課題となっている。

 以上のように、どうやら今後のエコカーの動向が濃い霧の中からうっすらとその姿が見えてきた感じがする。すなわち現在のガソリンを主体としたコンベンショナルなエンジンから、ガソリンで電気を作ってガソリンと電気の併用で走るハイブリッド車が今後の主力になろうとしている。
 さらにその先を睨んだ電気自動車が、ぼちぼち販売されてきている。現在はハイブリッド車が先行しており更に拡大の傾向をみせている。しかしながら、電気自動車も今後の電池の開発次第では重量とコストが大幅に下がると、一挙にハイブリット自動車から電気自動車の時代になることも予想される。ただし現在の電気自動車は、プラグインなどで電気を充電するために相変わらず化石燃料などで作られた電気を使用しているため、極限のエコカーとは言い切れない。
 その先に見えている究極のエコカーは、水を供給源とした水素燃料により電気を発生させ車を走らせる自己完結型の燃料電池車が本命とされている。ここしばらくは、エコカーの動向が見放せない時代となってきた。


 以上、アメリカの恒例である7月上旬のシャットダウンシーズンに、思いついた事をレポートする。


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