デトロイトからの便り(11)
「冬」をめぐる2つの断章

国際情報専攻 6期生・修了 森田 喜芳

1.「冬のシーズン」−運動不足とその解消法−

 Detroitではもうすぐ長い春が終わろうとしている。ようやく草木の芽が出て、花が咲き始めたのが4月の20日過ぎからである。Detroitの冬は、前年11月から始まり翌年4月末迄である。1年のうち約6カ月が冬である。春と言えるのは、5月の1カ月間ぐらいで、その後は8月までが夏の期間。9月〜10月が秋のシーズンであり、紅葉が楽しめる。その後、落葉樹の葉が落ちると、長い長い冬のシーズンが始まるのである。
 今年の冬のシーズンは特に寒くて、私の記憶では約20年ぶりの厳寒ではないか。この一年の約半分に及ぶ冬のシーズンをどう過ごすか。毎年悩んでいる課題である。

 今年から、この冬のシーズンに体を鍛えながら楽しむスポーツをやろうと一念発起して二つのスポーツを始めた。

 その一つは水泳である。昨年の冬からスポーツクラブに通うようにした。このスポーツクラブには、2年前に入会した。入会手続きを済ませて、翌日にスポーツウェアを来て体力テストを受けた。サイクリングと、ランニングを機具にて一定時間、運動したあと、脈拍を測ったり、血圧を測ったり、また屈伸などを行って、体の柔軟性を測った。その結果はなんと私の体の年齢は実際の年齢よりも10歳くらい老けた70歳代とのことであった。かなりショックだった!
 その日にスポーツクラブのメンバーIDをもらったが、今まではなぜか2週間に1回ぐらいしか通っていなかった。今年に入って、1番寒い時期の1月よりできるだけ多くの回数を通うようにした。
 朝6時半に目覚まし時計に起こされて、薬と水をコップ1杯飲んでから上下のトレーナーに着替えて、7時半に車で自宅を出て15分でスポーツクラブに到着する。その後ロッカーで着替えて、シャワーを浴びてからプールに入る。
 毎日の練習は、25メートルプールで水中ウォーキングの前歩きを往復3回、後ろ歩きを往復3回、平泳ぎを往復3回行ってから、スパに10分入り、その後サウナに10分入る。一応これで1日の運動は終了して、シャワーを浴びて着替えをしてからカフェテリアで体をクールダウンしながらガラナというブラジルの木の実が入ったスポーツドリンクを飲んでから自宅に戻る。
 自宅の到着はおおよそ9時半である。約2時間で朝のトレーニングは終わる。このスポーツクラブは、デトロイト近郊に5カ所ぐらいありメンバーになっていれば他のどこでも利用することができる。会費は、月に58ドルでありおおよそ1日2ドルの計算になる。又、24時間オープンをしており1日中、メンバーで賑わっている。クラブの施設は、サイクリングやランニング、重量挙げ、などの施設に人気が集まっている。水泳プールは、競泳用の25メートルの専用プールが一つと、多目的用のプールが一つある。その他バスケットボールのコートが2面、ラケットボールのコートが3面、ロッククライミングの設備やマッサージの設備などがある。
 土曜日と日曜日は、子供連れが多目的プールに集まり、遊んだり、滑り台やトレーナーが水泳のトレーニングを行ったりしている。私が毎朝ロッカーに入ると、すでにトレーニングを終えた人達が鏡の前でヒゲを剃ったり、ドライヤーで整髪したりワイシャツにネクタイを締め背広に着替えてこれから会社に行く準備をしている人達が全体で7割ぐらいである。
 会社はだいたい9時に始まるので、8時半ごろになると、一時急に人が少なくなってくる。やはりサラリーマンのメンバーも、朝起きてすでにトレーナー姿で家を出てきてスポーツクラブのロッカーで着替えを済ませて会社に出かける人がかなり多く見られる。中には、カフェテリアでコーヒーに、サンドイッチや野菜サラダやフルーツなどを食べてから、会社に行く人もいる。男性だけでなくて、女性も同じような人達が、朝の8時半前にこのスポーツクラブに通っている。
 ここでチョット視点を変えて、ロッカーで着替える時にちょっと日本と違うことに気が付いた事を以下に述べる。
 日本のロッカーは、だいたい狭いが床にスノコが敷いてあり靴を履き替えはスノコを活用している。アメリカでは、会社のロッカーでもスポーツクラブのロッカーでもベンチが置いてある。彼らのベンチの利用の仕方は、靴を履き替えるときに座るためである。
 必ずベンチに座って、両方の靴の靴ひもをしっかり結んで靴を履いている。何故いつも必ずひもしっかり結んで、靴を履くのだろうかと思ったがこちらの生活様式ではいったん靴を履いたら、自宅でも同じ靴を履いて生活しておりベッドに入るまで靴を脱ぐ必要がないために靴をしっかり履く必要があるのだ!と感じた。
 日本の生活様式では、靴を脱いであり履いたりする機会が、1日のうち最低1回から2回はあるためにできるだけ靴を履いたり脱いだりが容易に出来るように靴ひもをしっかり結ぶ習慣は無い。むしろ靴ベラを利用して、靴が履けるような習慣になっている。その生活様式の違いが日本とアメリカのロッカーの違いがスノコとベンチに現れてきている。

 もう一つのスポーツは、やはり今年の冬から始めたテニスである。私のテニス経験は全くの素人である。中学時代に、何ヶ月か軟式テニスをやった経験があるが、公式のテニスは、ボールを触るのも過去に一度しかなかった。
 以前オハイオ州のコロンバス市に住んでいたときに、友人から誘われて一度テニスコートに行った経験のみである。今回テニスをやるきっかけになったのは、日本人で組織しているデトロイト商工会主催の初心者用テニスの講習会が昨年の8月中旬に行われた際に私も参加をした。
その際にコーチの人で、従来から私の知人がいたので、もし今後このような初心者用の練習をする機会があったら教えてほしいと!お願いをしておいた。その後1ヶ月ぐらいしてから、知人からテニスのウィンターリーグのメンバーを募集しているという連絡と案内をメールで送ってもらった。
 早速入会の手続きをして、平日の木曜日に日本人会員の初心者向けグループレッスンに、参加させていただくことにした。ちなみに、ウィンターリーグの会費140ドルである。そのほかにコートの使用料として130ドルであった。
 またその後、同様に日曜日の夜もレッスンに参加させてもらうことになった。それ以降、木曜日は夜の8時から10時までの2時間、日曜日は、夜の7時から9時までの2時間練習に参加させていただいて1週間に2回練習に参加させていただいて現在に至っている。
  特に木曜日の初心者用レッスンには、ウィンターリーグの会長である高橋さんが、わざわざ初心者の我々にトレーニングしていただいている。
 しかも最近は、ほとんど私のトレーニングである。私のレッスンには、初心者でもなりができるようなボールを出してできるだけラリーが長続きするような易しいボールを打ち返してもらっている。今迄のところ、ようやくフォアー・ハンドがなんとか打てるようになってきたレベルである。今後はバック・ハンドの練習をしていかないと、ゲームには出場できない。
 実は、私のテニスはレフトハンドである。ちなみに、野球とバドミントンも左利きでプレイしている。ゴルフや卓球などは右利きである。字を書いたり、食事したり、ハサミを使うのも右手である。
 私の記憶では、小学校に入学する1年前に母親から、無理矢理に右手で使うように直された記憶がある。同様に私の娘も全く同じパターンで、元々は左利きであったのをおばあさんに直されて右手を使うようになった。私の左利きは父親からのDNAである。
 テニスの練習してみて、初めて気がついたことはヘアーバンドの効用である。最初のうちは、汗がたくさんでてきていつもタオルで顔をふいていたが、ヘアーバンドを付けてから、汗が顔に流れてくることがなくなった。太変楽になった。ヘアーバンドは2時間練習した後では、びっしょりと汗を含んでいる。

 水泳とテニスでの私の目標は、水泳では個人メドレーが、泳げるようになりたい。すなわちバックとバタフライの練習をして、平泳ぎとクロールを加えて200メートルメドレーを泳ぐことを今年の目標としたい。20代の頃は、すべて出来たのであるが久しぶりに泳いでみると体力的にかなり劣っていることが体験できた。
 テニスでは、バック・ハンドでもボールが打てるようになり、試合に出場したいと思っている。
 是非とも今年末までに、以上の目標を達成したいと願っている。


2.「冬の時代」−現地駐在員の窮状

 アメリカでの新政権となったオバマ大統領の政策は、就任当初から大きな政策をいろいろと打ってきたが、果たして成功するであろうか。特に景気浮揚政策は成功するかどうかが、大きなカギとなっている。
 ここでチョット小さい話ですが、先週末にソーシャル・セキュリティー・オフィスから私宛に手紙が来て、5月末までに250ドルの小切手を送るとの通知があった。今年の2月末に、オバマ大統領がサインをしたと書かれていた。私個人にとって、オバマ政権になってから初めての変化点である。
 経済不況と、為替、エネルギー、原材料の高騰の関係で、日系企業は、アメリカへの輸出そして、現地生産の収益が大きく低下しており、赤字転落の会社が数多く見られる。その結果、今年に入ってDetroitにもかなりの変化が見られてきた。

(1)日本からの駐在員が大幅に減っている。
 4月末にテニスクラブの冬季リーグの納会があった。その席上、Detroitの日本商工会議所の役員より今年に入って駐在員がかなり減っており、日本人学校(全日校と補習校)に学んでいる生徒も昨年の1100人から現在は980人に減少しているとのことであった。これからもさらに減っていくのであろうとのことである。
 納会当日も日本への転勤の5〜6人たちの挨拶やアナウンスがあった。一般的に日本人駐在員の転勤、帰任は3月末および6月末がピークである。就学児のお子さんがいる家族では日本の4月の新学期に合わせて、3月に帰任する家族、および、6月末に終了となるアメリカの学校をおえて帰任する家族。
 以上の二つが年間を通して大きなピーク時である。また、最近は日本の学校でも9月より、新学期として受け入れている。学校が出始めた関係もあり、6月末以降、8月までに日本家帰任するケースもかなりみられるようになった。
 私の知人で、Detroitで最大手の運送業者に勤めて特に引っ越しの仕事を主にしている人からの話では、今年の2月と3月は土曜日が休みなしで日本へ帰任する家族の引っ越しが約300軒、新しくこちらに着任する家族が150軒、とのことであった。4月と5月は比較的安定しており、土曜日も休みになるようになったが。それでも1日約5件の引っ越しの仕事があるとのことである。また、6月にはアメリカの学校の卒業式や修了式があるため。またさらに忙しくなるとのことである。

(2)現地採用の日本人より、再就職の依頼が来ている。
 今年に入ってから、私に直接本人からまたは知人を通じてアメリカで再就職したいので、働き口を紹介してほしいとの依頼が3件あった。
 一般的にこれらの人たちは、以前に日本からアメリカに駐在してきた人たちであり、その後、日本への帰任の時期が来たときに新しく別の会社に現地で採用していただき、再就職した人たちであった。
 このような現象は、私の知っている限りでは今から20年か30年前は日本からアメリカに進出してくる企業が続々とあったために、現地事情を知っていて英語でのコミュニケーションができる日本人が必要とする時代であった。
 すなわち新しく会社を作ったばかりの日本企業は、駐在員と現地人のコミュニケーションや現地事情をよく知っている日本語でコミュニケーションができる人が必要であったのである。そのため、日本の親会社を辞めて、アメリカで新たに別の会社に現地採用される人たちは大変多かった。
 現在は全くその逆で、現地の進出している企業がアメリカを撤退したり、企業そのものを縮小したりする会社が多い。そのために、現在は日本人駐在者を減らしている。その関連で、現地採用した日本人も減らしている。
 日系企業の経費では、「駐在員、現地採用した日本人の費用」が大きなウェイトを占めている。そのため生産に携わる現地の一般従業員の減少および、駐在員と、現地採用の日本人の縮小は1番最初に行われる経費節減の手段であろう。
 日本へ帰る駐在員は、日本での仕事は保証されているが現地採用の日本人は自分で仕事を探さなくてはならない。現在の状況では、新しい仕事に再就職することは大変難しいことである。ましてや、子供さんたちが大学などに通学している家族は大変である。これらの現地採用の日本人の人たちの年齢は、おおむね40代後半から50代の人が多い。
 この人たちは、最初に30代で日本からアメリカに駐在してきて、その後現地で日系企業、再就職した人たちはその後現在まで20年から30年、アメリカで働いている日本では定年退職の時期に近い人も多い。

 以上のような現在の状況が、アメリカで働く日本人の実態である。まだまだ、不景気な時代が続き先は見えない今日この頃である。
 アメリカでの「現地駐在員、現地採用の日本人」。これらの人々にとって「冬の時代」はまだまだ続きそうである。



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