デトロイトからの便り(10)
―2009年自動車業界の動向・現状分析と将来予測〜その1―

国際情報専攻 6期生・修了 森田 喜芳

 今年の自動車産業は大変予測がつきにくい状況である。その現状分析と将来予測を以下に試みようと思う。

 1.昨年後半から「100年に一度」と言われる大不況が続いている。その震源地は、アメリカである。オバマ政権になってから景気刺激策として、7870億ドル(約70兆円)と多額の資金を投入している。自動車メーカーと、部品メーカーへの支援要請も、974億ドル(約9兆円)との事である。
 2.従来ビッグスリーと呼ばれていたアメリカの自動車会社。ビッグスリーはもはやビッグですらない。しかも、今後の方向としては、ただ「ビッグワン」だけが「生き残る」しか道はないと、言われている。
 3.ビッグスリーの賃金は日本メーカーと比較して高い。今後は日系メーカーと同等まで引き下げなければならない!との声が上がっている。その他にレガシー・コストと呼ばれている医療保険などの待遇についても大幅な見直しが迫られている。
 4.米「グリーンニューディール」と言われる低燃費の環境を成長産業に据えて採用された新商品の発売が相次いでいる。hybridや電気自動車の実用化が加速されるこの頃である。
 5.昨年の自動車販売の実績では、トヨタが初めてGMを抜いてトップとなった。さらに、ビッグスリーの衰退傾向は止まらず、米国市場では自動車販売台数が大幅に落ち込んでいる。そのため、GM、フォードなどの収益が赤字体質となっている。
 6.一方日本国内においても、アメリカと同様に、国内の生産台数・販売台数が、昨年実績を大幅に下回る予想が出ている。
 7.世界のトヨタも例外では無く今期の見通しは赤字の予測である。日産も同様である。ホンダについては、今期の見通しは黒字であるが来年度はかなり厳しい見通しであろう。
 8.さらに今年は、トヨタ、ホンダともに、社長が交代の時期である。
 9.他の業界を見てみると、家電業界も自動車と同様に収益体質が極めて悪く社長交代の報道が多い。

以上から言えることは:
(1)日米欧と世界の新車販売台数が大幅減である。
 ご存知のように、アメリカの自動車販売台数は、2000年から2007年までは平均して年間1700万台の販売実績であった。しかし2008年では、1324万台の実績であった。2009年の予測は、1100万台から1000万台であろうと言われている。2007年の実績から考えると2009年は、600万台から700万台少なくなる計算である。
 また、日本の販売台数でも軽自動車を含んだ台数でみると、2006年までは常に550万台以上であったが、2007年では、530万台、2008年では、510万台と落ち込んでいる。さらに2009年の日本国内の新車販売台数は、486万台と昨年よりもさらに減ることが予測されている。
 販売台数に関しては、さらに、アメリカ、日本にとどまらず、Bricksとよばれるブラジル、ロシア、インド、などについても今年は横ばいか減少に転じるだろうと言われている。その結果、世界の自動車販売台数は昨年の6350万台から、5800万台程度と9%近く落ち込む見通しである。
 これらの予測を受けて、アメリカ、日本、欧州の自動車メーカーは、世界中で工場の操業を落として在庫減らしを進めている。同様に、経営者は生産現場の人員削減に伴う賃金を減らす行動に着手している。

(2)USの自動車販売動向は下向きである。
 アメリカのビッグスリーと言われているGM、フォード、Chryslerの2008年販売台数のシェアは、3社の合計で50%を切った。このことは、日本メーカーや韓国メーカー、ヨーロッパメーカーの合計が、アメリカ市場のマジョリテイーを取ったことになる。とりわけJBスリーと言われているトヨタ、ホンダ、日産の伸びが著しく、トヨタは、2008年の全世界販売台数についても、GMを抜いて世界ナンバーワンとなった。
    この傾向は、2009年も続き、さらにビッグスリーの販売台数およびシェアの低下は免れないと予測する。今後は、環境問題等からくる低燃費車やhybrid car、電気自動車などを優遇する税制などが予測されガソリン車のみでは商機を逸することになる。

(3)販売車種と価格については、今後ますます効率の良い小型車に集中する。
 アメリカの市場では、従来の大型車やトラック、SUVなどの馬力の大きい、燃費の悪い、価格の高い車は敬遠されるであろう。すなわち、日本車の得意としている小型車で、低燃費車がさらに販売の伸びを示すと思われる。

(4)小型車の収益改善が要請される。
 自動車は一般的に、高価格の車種の利益率が高く、小型車は利益率が薄いとされている。しかしながら、昨今の世界的な生産の減少および、現在の為替、昨年までの原油や原材料の高騰、などから小型車の収益も米国内で作り続けるためには、抜本的な収益改善策を検討しなければならない。たとえば、日産は主力車種の「マーチ」の生産をタイ国に全面移管して、原価を3割削減、円高を活用して、日本に輸入する!との戦略を発表している。(日本経済新聞1月16日、13版、Page1)
 同様な検討は、他の自動車メーカー(ホンダ、フォードなど、)で検討されているとのことである。特に、ビッグスリーでは車の商品力すなわち小型化が難しく、いちばんの問題はUAW(労務費,健康保険などのレガシー・コスト)であり、この問題が競争力確保の点で大きな足かせになっている。

(5)部品調達の仕組みが大幅に変る。
 さらに、完成車のみならず、自動車部品についても同様な動きがあり、必ずしも米国で生産する車の部品を米国から調達するという従来までの基本パターンは、今年より大幅に変更になることが予測される。すなわち、世界のどこからでも安い部品を購入して、完成車に取り付けることが検討されている。これは、一般的に、LCC調達(ロウ・コスト・カントリー)と言われている。
 日本の自動車メーカーのホンダを例にとってみると、世界でいちばん生産をしている車のシビック、アコードについては、日本、アメリカ、中国、タイ、イギリスなどの国で同じ車を生産している。すなわち、同じ金型を5個持っているということである。その時の為替や原材料、労務費などの条件から、いちばん安い国から、調達することが今後ますます盛んになってくるであろうと考えられる。特にこの傾向は、日本の自動車メーカーが、すでに今年初めより基本戦略として検討段階を終えて、実施段階に入っている。

(6)生産能力の余剰は需要(販売)に何をもたらすか。
 従来の販売台数と今年の販売台数を比較してみると、世界中のどのメーカーも新車販売が大幅に減ることが予測される。そのために、従来の生産能力は大幅に余ってくる。
 そのことから言えるのは、生産拠点の変更、すなわち各社の持っている工場間の調整、国別生産拠点の変更などがすでに考えられて実行に移そうとされている。今後US内の日系メーカーが販売を伸ばすにしても、従来の生産能力は米国内と全世界を合わせて大幅に余ってくるはずである。自動車メーカーと自動車部品メーカーも同じ傾向であるといえる。
 このことをアメリカ市場で考えてみると、日系自動車メーカーと日系自動車部品メーカーの生産能力は昨年までの実績で十分に今年以降の生産がまかなえるだけの生産能力を持っている。すなわち、今後の数年間は生産に対する設備投資や要員の増加は考えられない。同様に日本からの駐在者は増えることがなく減少する傾向にあると考える。極論すれば、日本からの駐在者はできるだけ少なくして経費節減に勤めるはずである。駐在者や日系人の冬の時代が続くと思われる。

 10.一方自動車生産に目を移してみると、主要な原材料や燃料(ガソリンその他)は軒並み下がっている傾向にあるのは一つの朗報である。
しかしながら、自動車の販売促進に寄与するまでにはいたっていない。
 11.他の産業も同様の傾向にある。例えば新聞業界なども、大きく構造変化しようとしている。
 日本、アメリカなどの新聞業界は販売部数の減少により経営に深刻な打撃を与えられて、今迄常識であった毎日の発行を週に3日発行なども検討されている。この現象の最大の理由は電子メールやなどや無料配信のサイトが増えた為である。
 今後も益々この傾向は加速されることが予測する。

 12.明るいニユースとしては、日本の新しいビジネスの可能性として、ロケット産業、水資源ビジネス、魚養殖、電源のコードレス化、鉄道車両の輸出、などがある。
・ロケット産業は宇宙衛星の需要は益々増えてくる傾向にあり、途上国よりのリクエストにより更なる商業ベースの事業として期待できる。
・水資源ビジネスについては別紙参照下さい。
・魚の養殖技術の確立と展開、特に海に囲まれた島国の日本の地理的特徴を生かした養殖による魚の生産は今後大きな飛躍展開が予想される。
・電源のコードレス化などの今迄日本のお家芸であったこの分野の先進技術開発を販売に生かす工夫が必要である。
 たとえば
(A)低価格のPCは今や5万円から3万円と小型化の時代となってきた。
(B)iポットや携帯電話とPCの融合化の時代。(BlackBerry)
(C)TV受信機(テレビ)とPCモニターの融合化。
(D)自動車ナビゲーターの価格は2万円台の時代である。
(E)電話料金の無料化(世界中何処でも! 例:スカイプ)
(F)以上の機能を自動車に反映する。(ハンズフリー電話、メールなどの通信機能の搭載)

・鉄道車両の輸出も世界中で今後益々需要が増える。
 特に日本の新幹線の技術は世界中からの重要が多い。更にリニヤーによる輸送技術も大いに期待が持てる分野である。

 以上、今後に目が離せない注目産業の大いなる活躍を期待して今回のレポートを終了します。


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