『篤姫』のロケ地、磯山公園を訪れて

人間科学専攻 6期・修了生 柏田三千代

 2008年1月から12月に放映されたNHK大河ドラマ『篤姫』は、宮尾登美子によって書かれた原作『天璋院篤姫』を田渕久美子が脚本したものである。

 ドラマの時代は幕末、天保6年(1835年)島津家分家の今和泉家の娘として生まれた於一は、島津宗家・藩主島津斉彬の養女として迎えられる。名を篤姫と改め、第13代将軍徳川家定の御台所となるために、厳しい花嫁教育を受けた後、京都近衛家の養女を経て大奥入りする。徳川家定の御台所となった篤姫だが、1年半余りで夫の家定が急死したため、23歳の若さで落飾し天璋院と号する。家定の死後、徳川家を守ろうとする天璋院は第14代将軍徳川家茂の後見人となり、若き将軍を蔭ながら支えて徳川家のために尽くすのだが、家茂は長州征伐に赴き、あえなく大阪城で逝去した。家茂亡き後、第15代将軍徳川慶喜は朝廷に大政奉還したが、倒幕運動を止めることができず、徳川家存亡の危機の中、天璋院は生家である薩摩藩を中心とする官軍による江戸総攻撃を回避するために、西郷隆盛へ働きかけ、江戸城無血開城へと導き大奥の幕引きを立派に務めたのである。

 NHK大河ドラマ『篤姫』全50話の平均視聴率は24.5%と高視聴率だった。私が『篤姫』に心引かれた動機は、於一(のちの篤姫)が島津宗家・藩主島津斉彬の養女になると決まった時、於一は乳母から「女の道は一本道。さだめに背き、引き返すは恥でございます。」と諭される台詞にある。女性が自らの意思で行動することが難しい時代に、どのように於一は生き抜いて行くのだろうかと興味を持ったのである。そして、『篤姫』を毎回観ていると薩摩での於一が肝付尚五郎(のちの薩摩藩家老・小松帯刀)との語らいの場面で、いつも雄大な桜島が背景に映し出されていたのが印象に残っていた。歴史上、篤姫と小松帯刀が接していたとの記述は残されていないが、ドラマの上でのこの場面を観て、私は「一体どこで撮影されているのだろう。」と疑問に思ったのである。そこで調べると、この場所は鹿児島市内の観光地である仙巌園(磯庭園)の裏山、磯山公園だとわかった。

 磯山公園は、昭和30年代から仙巌園から磯山公園までロープウェーで昇ることができていたが、1993年8月6日の水害時、危険回避のために廃止された。そのため、今では路線バスか自家用車を利用して行かなければならない。また、磯山公園は桜の季節のみ一般公開されるため、2009年春の公開は3月20日から4月12日までと限定されていた。



 磯山公園は『篤姫』放映以来、来園者数は増えたそうだが、私が磯山公園に着いたときには、桜の見ごろも終えた後だったので来園者は少なかった。磯山公園の入口を入ると、小道の両側を美しく咲き誇っている花々が出迎えてくれた。花々に案内されるように、小道を進んで行くと、目の前には広い草原があり、ソメイヨシノの桜の木と思われる木々たちが、所々植えられていた。更にその草原の中を歩いて行くと、錦江湾に浮かんだ雄大な桜島が姿を現した。桜島は、北岳・中岳・南岳と3個のコニーデ式火山が相接している複合活火山で、大正3年の大噴火により大隈半島と陸続きとなった。高さ1117メートル、周囲52キロ、面積約80キロ平方メートルで、現在でも繰り返し噴煙を上げて灰を降らせている。

  

 私はドラマのロケで尚五郎と於一が語り合った木の近くのベンチに腰を掛けた。耳に入ってくる音は、機械的に作られた音は無く、鶯たちの声だけである。右の木々からホーホケキョと鳴けば、左の木々からホーホケキョピピピッと鳴き返す。まるで、鶯たちの会話を聞いているようである。そして、地面には名も知らぬ小さな黄色い花が咲いていた。心地よい風を肌で感じながら、目の前には雄大にそびえる生きた山、桜島があった。私は、穏やかな自然に包まれた空間に浸っていた。



 私が鹿児島を訪れたのは初めてではない。家族や友人とも訪れ、その度に様々な地から桜島を眺めていた。そのためか桜島を眺めていると、懐かしく、また暖かい気持ちになる。「篤姫もどのような気持ちで、この桜島を眺めていたのだろうか。」「いや、篤姫だけでなく、鹿児島の人々は遥か昔から現在まで、どのような思いで桜島を見つめてきたのだろうか。」と考えていた。私の偏った考えかもしれないが、桜島は生きた山である。ゆえに、あるときは人々が桜島を見守り、あるときは桜島が人々を見守る。人々と桜島は互いに励まし合いながら共に生きてきたがため、今なお人々はこよなく桜島を愛おしむのではないだろうかと思った。

 私はNHK大河ドラマ『篤姫』によって、この地を知ることができた。現在の磯山公園には、動物園もなければ、遊園地もない。しかし、何もないからこそ、味わえるものがある。そんな贅沢な空間が磯山公園にはあった。

 1)http://www.nhk.or.jp/drama/html_news_atsuhime.html
 2)http://www3.pref.kagoshima.jp/kankou/touris/shosai/578/




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