デトロイトからの便り(9)
―デトロイト・オートショー見学記―
国際情報専攻 6期生・修了 森田 喜芳
2010年もまた、自動車のメッカであるデトロイトのオートショー(North America International Auto Show)から、自動車の業界のレポートを始めたい。すでにこのレポートも6回目となった。
今年のデトロイトは例年になく、寒さが厳しく毎日の様に雪が降っており、私の記憶ではこの寒さは約20年ぶりであろう。車がなければ外出もままならず、5分も外に出ていればギブアップの状態である。雪かきの整備されている道路以外は、万年雪の様に積もっている。また、私の家のガレージの電動開閉システムが積雪や凍結のため、ドアが開かなくなってしまい、現在は手動で開けている状況である。私の長年のアメリカ生活でも、このような状態は初めての体験である。
さて、今回のオートショーは、土、日の週末を避けて比較的空いているウィーク・デイの1月22日(木)に見学した。会場は、毎年同じ場所のコボ・ホールである。今回初めて分かった事であるが、コボ・ホールの名前は、1950〜57年にデトロイト市長だったAlbert E. Coboに由来しているそうだ。
当日、私はこの会場に14時45分に到着し、いつものように会場の中央から入場した。毎年の変化を確認しているため、常に中央から入場し、同じところから同じように会場を見て回るようにしている。
今年も入場料は12ドルだった。あとで気がついたことだが、シニアの人たちは、割引が利くらしく、来年は私もシニア割引を利用してみようと思っている。
今年のオートショーの目玉は、なんといっても、電気自動車とhybrid carだったので、その点を中心に見て回った。
会場に入ると、右側にベンツ、左側にアウディが展示されていた。(昨年までは2年続けて、左側にホンダ、右側にFordだった。)このヨーロッパの2社の車はいずれも高級車で、価格帯も8万ドルから10万ドルクラスの車が展示されていた。いつものように右側から見て回ると、ベンツの後には、なんと韓国のKIAモーター、Dodge、そして、会場の一番後がトヨタだった。今年の会場は今までと違い、通路も広く取ってあり、展示車の間隔もゆったりしていた。また、展示車の周りには、ベンチが設置されており、座りながら車を見たり、案内者の説明を聞いたりすることができた。私もトヨタのハイブリッドカーのそばで、休憩を兼ねながらベンチに座って説明を聞いた。
2009年の「北米カー・オブ・ザ・イヤー」は、乗用車部門が韓国の現代自動車「ジェネシス」、トラック部門はFordのピックアップトラック「エフ150」が選ばれており、現代自動車のブースには、表彰された盾やトロフィーが展示されていた。韓国車の受賞は初めてのことである。日本車については、昨年はトラック部門のマツダのスポーツ多目的車であるSUVが受賞したが、最終参考に1台も残らなかったとのことである。
今年は、ニッサン、インフィニィティー、ポルシェ、ロールスロイス、三菱、スズキ、ランド・ローバーなどの各社が、軒並みデトロイトのオートショーを欠席している。出展したメーカーも規模縮小が目立っていた。その関係で会場はかなりゆったりしていた。ちなみに、ビッグスリーは、秋の東京自動車ショーへの不参加を表明している。又、1月16日付の時事通信では以下のように伝えている。
「東京モーターショーは今年で41回目であり、10月23日から11月4日にかけて、千葉市の幕張メッセで開かれる予定。デトロイト、独フランクフルトと並び、世界3大自動車ショーに数えられていて世界の主要メーカーがこぞって顔をそろえるのが通常だ。東京モーターショーは近年、入場者の頭打ち傾向が続いているが、米大手の出展見送りで地盤沈下が一段と進みそうだ。」
又、他の自動車メーカーの間からもcostが高すぎるという意見など出ており、開幕自体が危ぶまれている様子である。
日本自動車の大手であるニッサンが不参加を決めたことは大変寂しい限りである。ニューヨークタイムスによると「ニッサンは昨年11月、今回のショーへの参加見送りを発表したが、一部のディーラー・グループは独自に出展を予定していた。しかしながら日産自動車は独自で、同ショーへの出展を計画していた系列ディーラーに対し、出展を見合わせるよう要請し、ディーラー各店は要請に従うものの、ニッサンの思惑を測りかねて困惑している!」と報じていた。ディーラーにしてみれば、ニッサン車が出展していないのは今後のビジネスに大きく影響するのであろう。
昨年のデトロイトモーターショーで注目を集めた中国メーカーのBYD社が、2011年に電気自動車とPHEV車を北米市場に投入する計画で、世界初の量産PHEV「F3DM」を発表した。中国メーカーは今年、地下フロアーや通路からメインフロアーに初めて移り多くのモデルを展示していた。
Ford社は、なんと大変懐かしい「2010 Taurus」が展示していた。Taurusは1990年代に、トヨタのカムリ、ホンダのアコードと並んで、毎年北米の販売ナンバーワンを争う代表的な車種だった。しかし、その後、Ford社の戦略転換で、トラックや大型SUVの販売に力を入れ、Taurusは2000年代では全く姿を見せなくなった。これからは小型車の時代ということもあり、Fordも再度往年の名車を復活させたのであろう。Taurusには触れたり乗ったりすることができなかったが、今後の期待度が窺われる。
会場の右奥に展示していたGM車は、相変わらず、大きなトラックとスポーツカーを多く展示していた。あまり新しい展示車は見られなかったが、入場者がこの大きなトラックに乗ったり触ったりしている姿見ると、やはり北米では大型車の人気があるなと再認識した。経済状況やガソリンの値段などが落ち着けば、状況は変わるだろう。
BMW社は今年もまた、モーターサイクルを展示しており、物珍しさもあって、入場者が乗ったり触れたり眺めたりしていたのが印象的である。
やはり気になるホンダの展示車はゆっくり見た。今年の目玉は、なんといってもハイブリッド車の「インサイト」だろう。エンジンルームが開いて見られたが、ハイブリッド車にしては競合他社に比べかなりすっきりしたレイアウトであると感じた。タイヤは、なんとダンロップタイヤが装着されていた。最近では、モーターサイクル以外に、ダンロップタイヤが装着されていなかったので、大変懐かしく感じた。また「フィット」に人だかりができていた。この車は、燃費が市街地で27マイル、高速道路で33マイルの評価と、内外装を含めて一段とレベルが上がった車に仕上がっている。私が近づいて行ったら、アメリカ人の若者たちが「Very Nice !」と言っていた。今後の販売に大いに期待したい。
暫らく見て回っていたら、私の憧れの車である「マセラッティ」のブースがあり、ゆっくり時間をかけてみていたら、説明員の黒人女性が近づいてきて、日本語で話しかけてきた。車に乗ってみるか?と誘われたが、尻込みしてしまった。ちなみに展示してある中で安い車は125,000ドルだった。
彼女と話をしていて、今年は男女を問わず黒人の説明員が多くなり、皆さん自信を持って話をしている様に感じられた。やはりオバマ大統領の就任で黒人の皆さんの意識が変化したのだろうか。
更に今回注目すべきブースに、自動車部品の最大手である「デンソー」があった。たぶん初めての試みであろう。私が特に興味を持ったのは、ディーゼルエンジンのシステムと、ハイドロシステムについてである。これらを比較し、細部にわたる説明があって大変よく理解できた。また、セーフティーセンサーのシステムのディスプレイと説明も、多くのアメリカ人が関心を寄せていた。今後このような自動車部品会社のブースが、毎年増えてくるのではないかと、会場を見渡しながら感じた。
会場は、昨年までの人でごった返すような雰囲気は全くなく、ゆっくり見られ、車に乗ったり触ったりすることが容易にできた。私の感じでは、展示車も例年より少なく、入場者も大幅に減少しているのではないかと感じた。本日の入場者は昨年までと比べると、60%ぐらいだろう。子供連れも少なく、若者たちとシニアのメンバーのグループが入場者の大半であると感じつつ、16時15分に会場を後にした。
最後に感じたことは、「Motor City Detroit」の名前が、だんだんと寂しくなるようなモーターショーであったことである。また、昨今のビジネス状況を反映した内容を直視させられたオートショーでもあった。
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