デトロイトからの便り(8)
―アメリカ自動車事情「リースカーとローン販売&インセンティブ」―

                       国際情報専攻 6期生・修了 森田 喜芳


 今回のテーマは、前回に引き続きアメリカの自動車販売について、以下のように、リースカーとローン販売&インセンティブ及びアメリカでの日本自動車メーカーの近況をレポートする。

1.リースカー
 リースカーとは、「自動車を特定のユーザーに、一定期間・一定の料金で賃貸」することである。この場合、ユーザーは所有権を得ることはできないが、購入した場合と同様に使用することができる。リースの特徴として、契約終了時に残存価格を設定し、自動車の総価格から残存価格を差し引いた金額をベースに、リース料金を決めることができるため、ローンによる購入価格よりも月額の支払いを低くすることができる。
 日本ではまだリースが身近でない感があるが、アメリカでは完全に定着しているため、個人ユーザーの車リース利用は毎年増加の傾向にある。日本でもリース制度が普及していきそうである。また、リースでもユーザー側の好みで必要なものを加えることもできる。
 リースカーとレンタカーの違いは、リースカーが計画的・長期継続使用、契約は36カ月以上が一般的である。(最近は72カ月も出てきている!)所有者はリース会社、使用者はユーザー名義、利用料金は月額均等払い。これに対してレンタカーは、使用期間は短期(時間、日、週、月、)契約期間も短期であり、所有者&使用者はレンタカー会社名義、利用料金は年間の稼働率によって算出されるために月額では割高になる。
 最近のアメリカでの日系自動車メーカー(トヨタ、ホンダ、日産自)のリース販売について、日本経済新聞8月30日では以下のように述べている。

 自動車メーカーはリースで販売する際に、新車価格からリース料や利益を差し引いた将来の中古車価格(残価)を設定する。この残価が想定より下がるリスクが高まれば、リース車両の価値下落分を評価損として計上する必要がある。アメリカで日本の自動車各社リース用車両の評価損が膨らんでいる。新車市場の激減に伴い,大型車を中心にアメリカ中古車価格が下落、トヨタ、ホンダ、日産自動車の3社が2009年3月期に計上する評価損は現時点で、計700億円以上に達する見通しだ。リースの評価損は、アメリカメーカーの経営が悪化する一因となっているだけに、需要低迷が長引けば日本勢も業績圧縮リスクが高まる。中古車市場の大きいアメリカでは、リース評価損は大きな問題だ。大型車の比率が高いゼネラル・モーターとフォード・モーターは、08年4〜6月期で20億ドル(2190億円)以上の評価損をそれぞれ計上した。
 この影響で、日産自は4〜6月期に将来分を含め約420億円の評価損を、前倒しで一括計上した。ピックアップトラック「タイタン」などの大型車のリース終了後の価値が大きく目減りするリスクが高まったためだ。
 中・小型車で検討しているホンダも4〜6月期で210億円以上を計上。通期では250億円と前期比で大幅に増える。「フィット」などの中古車価格は上昇傾向にあるが「パイロット」など大型車が苦戦している。
 トヨタは大型ピックアップトラック「タンドラ」などの4〜6月期に評価損が増えた。日産自やホンダと異なり今期に発生するリスク分のみ計上。評価損は90億円以上と見られ、他社よりも少ないが前年より大幅増加。来期以降も評価損が発生する懸念がある。

 尚、最近トヨタ社は、9月、アメリカでの中古車価格の値下がりに伴い、リース車両の評価損を2008年9月中間決算で追加計上する方針を固めた。追加計上は150〜200億円とみられ、同年4〜6月期に既に計上した90億円との合計で今期200億円を超えることが確実になった。
 アメリカでは、一定の契約期間毎に新車に乗り換えられる手軽さからリース販売が定着。新車販売に占めるリース比率は約20%と、日本の数%を大きく上回る。このため評価損による収益への影響も大きく、かつては日産自や三菱自動車の経営不振の引き金になった。
 アメリカのGM、フォード、クライスラーはこのリースカーの販売を大幅な縮小傾向にある。すなわち上記の大型車による「評価損」が発生して経営に大きな影響を与えるためにリース販売を控えている事も今年の販売量の減少につながっている。

2.ローン販売
 オートローンの歴史は1920年代、アメリカのGMやクライスラーにより導入され、これにより低所得の家庭でも中級・高級車が買えるようになった。当時世界最大の自動車会社だったフォード・モーターは、創業者ヘンリー・フォードが顧客に借金を抱えさせ疲弊させるローン販売を強く拒んでいたが、オートローン導入で躍進するGMがフォードからシェアー1位の座を奪い去り、後にフォードも導入せざるを得なくなった。
 最近のアメリカのローン販売はトヨタがローン販売のシェアーを倍増していると、時事通信は以下のように報道している。

 米金融会社トヨタモーター・クレジットコーポレーションは3月、トヨタ車の顧客の35%にリース契約を含む融資を実施。この比率が8月の5割、9月に7割程度までに拡大した模様だ。米銀大手がローン事業を縮小した一方、信用格付けの高い同社は資金調達で優位にあるという。
 トヨタは米国での販売てこ入れのため、金利0%ローンを10月から大規模展開しており、融資比率は更に高まる可能性がある。ただしトヨタも販売台数が減少していることなどから、ローンでのシェアー拡大が収益向上には直結しない見通しだ。
 顧客自身も現金払いに代わり、ローンなどを選ぶ傾向が強まっており同社は貸し倒れリスクの上昇に備えて融資要件を昨年末から厳格化した。

 一般的にゼロ金利販売はビッグスリー(GM、フォード、クライスラー、)が実施することが多いが、トヨタが大掛かりなゼロ金利販売を実施するのは、米同時テロで需要が急減した01年以来と見られる。尚、トヨタのゼロ金利期間は車種によって異なるが、36ヵ月から60ヵ月、11月初めまでに購入する顧客を対象に実施する。事実上の大幅値引きで販売のテコ入れをするのであろう。
 しかしながら、最近の経済の低迷に伴い、自動車ローンの不払い不履行が増加しているとの調査結果を、エクスペリアン・オ−トモーテイブがこのほど発表した。ウォールストリート・ジャーナルによると「約250億ドルの自動車ローンが支払い期限を過ぎており、2008年第2四半期(4〜6月)に30日以上を過ぎた延滞ローンは前同期比で9%増、60日以上過ぎたローンは11%も増加している。」と警告している。

3.インセンティブ
 インセンティブとは販売奨励金のことである。インセンティブには次のようなものがある。
・自動車ディラーへのリベート
・低金利(無金利を含む)自動車ローンの斡旋
・購入者へのキックバック
・保証期間、保証走行距離の延長、無償修理
・レンラッカー会社などへの大口契約者への大幅値引き
・社員を対象とする優遇販売枠を縁故者へと拡大

 自動車生産の草創期から、大なり小なり世界各国の自動車メーカーと自動車ティラーの間で見られるインセンティブがあるが、2000年代のアメリカ合衆国では特にやり取りが活発になった。やがてインセンティブの多寡は、消費者が自動車の購入する有力な動機付けのひとつにもなり、各社の販売台数を左右する要因のひとつになった。
 インセンティブは、通常、販売店の値引き原資となり販売促進の切り札であるが、使いすぎるとコスト増を招く。小型車好調を武器にインセンティブを低く抑えてきた日本車も、最近は在庫車が減らないため、いっせいに積み増しに動きだした。日本経済新聞9月11日は以下のように報じている。

 米調査会社オートデーターによると、8月の自動車1台のインセンティブはトヨタが1500ドル強と前年同月比約3割上昇。モデルチェンジに備え在庫一掃を目指している日産自も2割強の3100ドル強と、他社の2倍以上の水準に増加した。9月に入り3000〜4000ドルで推移している米ビッグスリーよりは少ないが、4〜5月の5ヵ月間でもトヨタが前年同期比19%、日産自が14%増えた。積み増し額は2000年以降でもっとも多い水準に達している。
 予想されているインセンティブの増加で一段と業績が圧縮される事態だ。小型車の多いホンダは比較的増加率は小さいが、トヨタや日産自では、大型車の不振が際立つ今期、前期より増えるのはほぼ確実な情勢だ。

アメリカでの日本自動車メーカーは、
 1.リースカーでの「残存評価損」
 2.ローン販売での「ゼロ金利」
 3.インセンティブの「増加」
による収益圧縮要因が浮上している。
 トヨタ、ホンダ、日産自では既に2009年3月期の連結決算の見通しはアメリカを中心とした不振で大幅下方修正している。
 ホンダは10月25日、今期の営業利益4割減、ニッサン自は10月31日、3月期の連結順利益が前期比67%減、トヨタは11月7日、今期営業利益74%減、と各々新聞報道されている。

 世界金融不況による波が自動車業界にも押し寄せており今後の業界動向に目が離せない状況となってきた。


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